そのヨンジュウロク トゥルーマザー!
早苗とさつきの大ピンチ、その時仁美はたまらずカップからすっくと真っ直ぐに立ち上がった!そして危地に向かってまっしぐら!
「??……プチ!!」「フラ!」
またもやアークマザーに落ちる電撃、しかし超グロゲロは仁美をまるで無視、襲わない。それはそうだ、彼女は霊能力皆無なのだから。
そして仁美はポケットからハンカチを取り出しヒラヒラと。
「降参降参!ほら白旗!見て見てほらほらー!
あのあの、あたしはさ?ただちょこ~~~っとこいつらと知り合いだったってだけで!あなたたちには二度と逆らわないから!ここで起こったことも黙ってるから!
あ~んお願い許してぇ、怖いよ怖いよ、びぇぇぇぇぇ〜ん!
……でさぁ?そこの円盤にのってるファッションセンス抜群の素敵なお姉さん?」
ハツラツあっけらかん平謝りからいきなりウソ泣きべそ、そしてすかさず揉み手でヨイショ。目まぐるしく変わる仁美の態度調子は、誰にも口を挟む隙を与えない。
「え?何、私?」
そしてようやく生まれた会話のエアポケットに、まず八ッ神恐子がスポッとハマる。
「教えて欲しいんだ、あなたの作った超カッコいい怪物!すごいよあなた、どうやってあれとかそれとか創造ったの?確か『ナラティブパワー』だったっけ?」
「「はぁ?」」
名指しされた恐子は元より、ヤスデまでがきょとん。この場面でそれ?と。
ただ、あらためてそう言われてみれば。
(そういや、あたしもソレちょっと知りたいかも……?)
確かに気になる。八ッ神恐子が造る怪物たちの秘密とは?今までは「恐子の話、長いしクドイしメンドクサ」と思い敢えて聞かなかったのだが。
(ま、いっか。ちょっとの間ならしゃべらせといても……どうせこっちの勝ちは決まったし)
うっかりそう思ってしまったヤスデ。
まして直に問われた八ッ神恐子はと言えば。
「え?あの……ああら!オホホホホ~~~~~~♪
……3号さん?貴女ぁ、案外人を見る目があるじゃなぁぁぁぁい?」
最終作戦は大失敗、さつきにも叱られ、ヤスデは自分の言うことを聞かない。この女にしては珍しく大凹みだったこの時に、3号仁美から思いがけないその大賛辞。うっかり救われた気分に、うっかり有頂天に!八ッ神恐子はたちまちいつものあの長広舌をメリメリと広げ伸ばして。
「そうよ、そうそう!大・天・才のウルトラモダン妖術師のこの私、八ッ神恐子が発見して考案して編み出した、『ナラティブパワー』!その有効活用がフラットウッズシリーズとグロゲロたちよ!
そうね、まず予備知識として……あのね?現代怪異がどうやって生まれるのか、3号さんご存……」「ハイ先生!」
シュバッと手を挙げる仁美、質問にガツンと食い気味。
「それは!闇のモヤモヤ、つまり異次元に溜まった人間の残留思念が、噂、すなわち大勢の人間の言霊力で……」
「姿を固定化されたモノ!う~ん♪貴女ホントによく分かってるわね、そこまで知ってれば話が早くてよ。
私はね?様々な文書やネットの情報に書き残された物語、その膨大な記録をね、言霊の代わりに使って闇のモヤから怪物を実体化させる方法を見つけたの。
フラットウッズモンスターはその第一号。実体化出来た場合の戦闘力も十分期待出来たし、何しろ七十年以上に亘ってSFオカルト記事の積み重ねがあったから。私のナラティブモンスターの題材として絶好だったわ。
……それにデザインも私好みだったしね、オホホホホ〜!」
「わぁすご〜い!大天才!エクセレント妖術!それに美的センスもバッツグ~ン♪
……えと、だったらグロゲロは?どうしてグロゲロを選んだんですか?」
(むむむ斯様な時に!仁美め一体何を?!――いえ槌の輔様、あれは多分何か考えがあってのことです)
緊急事態にそぐわない、仁美と恐子のその呑気な妖術問答。そんな話をしている場合かと、槌の輔は当然当惑するやら苛立つやら。
だが早苗はそれをなだめて。
(仁美はいい加減に見える時もありますけど、ここぞという時は……私は昔からいつも助けてもらってました。
それに仁美は昔から色々その、上手く言えないんですけど……ちょっと特別らしいんです。私、おじいちゃん、いえお師匠からそう聞いてて……どうかもう少し……)
(……?)
早苗のその説明は実に茫漠としている。だがそこには何と、あの巌十郎の言葉の裏打ちがあるらしい。そして何より槌の輔は、早苗の心に仁美への強い信頼を感じ取って……ただし一つだけ念を押す。
(だが巫女殿、それは間に合うのか?わかっておろう?某と其方との合身には)
時間制限がある。槌の輔の焦りの元はまさにそこだ。しかし早苗は躊躇なく即座に。
(もしダメそうなら槌の輔様、いっそ今のうちに私からノッコに憑き替えて下さい。私はどうなっても……)
(ああ否、否否!その言は聞かぬ!あいわかった!)
それほどの覚悟、それほどの信頼とは。槌の輔はついに押し黙る。
(ニャゴゴ……確かになぁんか変だよあいつ……)
銀のグロゲロの神経ショック攻撃、肌に針を揉み込まれるようなその苦痛に耐えながら。さつきは側で同じく怪物に捕らわれている二人の念話に猫耳をそばだて、そして仁美に猫目をこらす。
(なんであいつ、さっきまっすぐ立てた?あたしの傘を頭から突き抜けたぞ?)
さつきから見ても、仁美と呼ばれるその娘はただの人間だ。霊力もからっきし……
(……ニャ?いや違う!あいつめ、こりゃ驚いた!)
そう。さつきは、仁美の持つその何かに気づいた……
「グロゲロね?ホホホ、あれはね?」
さて一方八ッ神恐子はといえば、ますます鼻高々に問われるがままに。
「まずもちろん『記事に書かれていた能力や特徴』が私の計画にいろいろ適していたからよ。フラットウッズとの作戦上の相性もばっちりだし。
ただ、グロゲロを選んだ一番の理由はね?」
「……一番の理由は?」
「『いい感じにマイナーな怪物だった』ってことよ。有名か無名か、一般大衆の間での知名度、その塩梅がね?怪物を実戦投入するに際して重要なの!」
「知名度ぉ?」
この時、仁美の目にちらりと浮かぶその輝き。
「例えばね?わたしがナラティヴパワーを駆使すれば!それこそ『ガジラ』だって『デコトラマン』だって実体化出来るわ。むしろ、そういう有名な人気キャラクターの方が造るのはずっと簡単なの。なにしろ公式・二次三次n次創作合せて世界に莫大なナラティヴパワーが溜まってるし!
……だけど!そういうのは『有名過ぎる』」
「……あのぉ?」
八ッ神恐子は気がつかない、仁美の相づちに奇妙な響きが乗ったことに。やっぱり、しめたというその響き。
「有名なキャラクターだとぉ、何がいけないんですかぁ?」
「ずばり、著作権!」
「著作権……ですか?うわぁ興味あるぅ!どういうことなんですかぁ??」
キタキタ近い近い。仁美は相手に自分のその興奮を悟られないように、いかにもな好奇心キラキラ目で演技する。そう、仁美は八ッ神恐子自身の口から導き出したいのだ、仁美の予想し期待する『その答え』を……
だがそうとも知らず。うっかり乗せられた八ッ神恐子は、いよいよ舌の回転にアクセル。
「妖術というものはね?世界の理を術者が自分勝手にねじ曲げるもの。だけどその分、世界の理から反動も受ける。だから術を成立させるために、須く!『その反動に釣り合う新たな制約を術者が自らに課さなくてはならない』の。
私のナラティヴ実体化の術は『既存の物語』の力を怪物の型として用いる、だけどその物語そのものの『改作』は私には出来ない。そしてもし、『物語自体に事後的に変更を加えられた』ら。それを私は『受け入れなくてはならなくなる』のよ。
それが、私が自分の術に課したルール、『呪的著作権遵守義務』。
さてそこで!物語に変更を加えられるのは、通常『原作者』や『著作権者』でしょう?もし彼らに知られたら。
私がガジラを造っても、超宝映画の介入があったら倒される。デコトラマンだって同じよ、円凹プロが動いたらナラティヴモンスターは簡単に消去されるでしょうね。
フラットウッズには。『物語はあるけど、明確な著作権者はいない』し、『七十年の間にある程度物語がブレブレになっている』。だから訴えられる心配も無いし、ドリルとかクローとかキャノンとかハサミとかもそこそこ自由につけられた……」
それはどーなの?流石にドリルとかはやりすぎじゃ?と思ったが、仁美はそこはツッコマずとぼける。そう、ここが肝心もう一押し!と。
「へぇ~……流石ぁ!一流の妖術って奥が深〜い!それでそれで?元に戻って、グロゲロわぁ?」
「オカルト創作投稿サイト『TDQ』。個別の記事の知名度・閲覧数は、まぁバラバラね。ただサイト全体は結構ポピュラーでいまや子供にまで人気がある、そのメタ構造を術に使える。マイナー記事のマイナーモンスターでも、TDQ全体のナラティブパワーで補えば実体化が可能だったの。
だから私は、ほどほどに読まれている記事をいろいろ当たって、そして『大・小グロゲロ』を見つけた……設定能力は申し分なし、ただし閲覧数はほどほどでさほど有名でもない……だから通報される危険性がとても少ない!
グロゲロの記事を読んだことがある人間が、この町にいたとして。そいつらが一人一人で騒ぐ分には全然構わない。だけど、TDQのサイト管理者に訴えられたら面倒なことになる。ましてや、匿名の記事投稿者本人、そいつに知られて事態に介入されたりしたら……」
「されたり……したらぁぁぁ?!」
「グロゲロの支配権はそこからはそいつに移る、私の手から奪われてしまう……」
その瞬間。高らかに鳴った仁美の指パッチン!
「やった、それそれ!今の一言を待ってました!取ったよ、言質、取ったァァァァァァァァ!!」
たちまち。仁美が声高々に叫ぶ。体をこれ以上なくそっくり返し、仁王立ちの大股開きで片手は腰に、片手はエア口髭をひねるあのハカセポーズを、八ッ神恐子に向かって一度、ビシリと決めて。
そして、今度はやおら胸の前で手を組み、首を傾げながら甘ったるい猫撫で声で。
「ねぇ聞いて♪そ・こ・の!猫さんと早苗を捕まえてるグロゲロちゃんたち?……イイコだから、二人を放してあげて♪」
「はぁ?何を馬鹿なって……えええええ?!」
何としたことか。さつきと早苗に固くしがみついていた二体のグロゲロたちは仁美のその呼びかけに、慌てたようにパッと触手を解き飛び下がるではないか。
「ニャゴ!……助かった!はぁ、死ぬかと思った……」
地面に大の字リラックス、深呼吸に胸を膨らませるさつきと。
「槌の輔様!――タハハ巫女殿、これは何としたことか?」
同じ体の中でお互いの容態を確かめ合う槌の早苗。
解放された仲間たちの顔に、仁美はウインクを一つパチリと投げて、さらに大きな声を張り上げる。
「ねぇねぇ、他のグロゲロのみんなも、マザーちゃんも聞いて!
もうそんなケバケバ女の言うこと聞かないで!聞くことないよ!
みんなのこれからは、ぜんぶあたしが考えてあげる!
……だって!アイ・アム・ユア・トゥルーマザー!
あたしが!元からみんなの本当のママだから!!」
なんと、たちまち!
「「「「「ママ〜♪」」」」」
巻き起こったのは、銀色の怪物たちの甘え声の大合唱。あのアークマザーまでが、ふるふると巨体を震わせながら、何となくうっとりしたような声で!
「ルルルルルゥ、ママ、ママァ〜〜〜♪」
「……まさか!」
不可解千万、その奇怪な事態に敵味方そろって唖然とする中で、最初に叫んだのは早苗。ああ、廃工場の戦い以来のいろんな疑問が、フラッシュバックしながら氷解!
「仁美?もしかしてそういうこと?『イメージ通り』って、つまり?!」
「うん!そーだよ早苗」
愕然と声を震わせて、次に反応したのは八ッ神恐子。
「バカな……まさかそんな……3号お前がぁぁぁ??」
「ザマミロケバケバぁ、そう、そのまさーか!
ヤァヤァ、遠からん者は音に聞け、近くば寄って……目にも見ろぉ!!
昴ヶ丘在住十七年、昴ヶ丘高校2年B組、凡野仁美・すなわち・このあ・た・し!こそがァ!
『TDQ203X-JP:大&小グロゲロ』、その記事投稿者……
HN『Bon-Bon』様!ア、そ〜の〜ひ〜と〜、だァァァァァァァァ!!」
「ルルルルルゥ、イヨッ、ママァ♪」
「「「「「ママヤ〜♪」」」」」
花道から舞台に駆けあがり、仁美が打った一世一代の大芝居。仕上げに切ったその大見得は、銀のグロゲロたちの大喝采に包まれた……
(続)




