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失われた羽

コンコンと扉をノックする音がする。

前夜際は夜通し続くが多くの主だった者は其々就寝に戻ったり

城下に出たりと思い思いの時を過ごしていた。


「ギーレ様」

ギーレの自室、重厚な扉をノックしていたのはギーレの腰巾着の男。

「なんだ、ハムルか」

扉が開き雀斑顔のギーレが肩から上着を羽織り顔を出す。

扉の隙間から寝台の上に寝そべる2人の幻羽人が見えた。

「ほ?」

「何の用だ?」

「これは、お楽しみの処でしたか」

少々ばつが悪そうな顔でハムルが謝る。

「、、、かまわん

 どうせ伽奴隷だ」


伽奴隷は大抵『亜幻羽人』である。

羽が満足に生えていない者、何らかの理由で羽を欠損した者。

そして羽以外の物が付いている者。

それらが亜幻羽人となる。

その中でも外見が整っている者が伽奴隷にされる。

満足な羽が無いのだから、到底美しいとは扱われないむしろ醜いと言われる。

だが、肉欲には十分堪え得る者たちが性的奴隷となる。

羽を抜きに見れば、幻羽人の見方をしなければ美しい者たちである。

今、ギーレの寝台に全裸で横たわっている2人の女性も

生気のない顔はしているが非常に美しかった。


「で?」

話の先を促す。

「おっ、そうそう

 ウェンリィ様の姿が見当たりませんので」

「ふ~ん、それで?」

ギーレの興味の無さそうな返事にハムルが続ける。

「ギーレ様はお亡くなりになったお館様の甥ですが

 ウェンリィ様はお館様のお子様ですしね」

「だから?」

ハムルの言葉の意味が解らず苛つきながら促す。

「どちらが新しいお館様の補佐になってもおかしくない訳ですよねぇ

 いえ、むしろウェンリィ様の方が有利ですかね」

「ハムル!だからなんだってんだ?!

 まどろっこしい奴だな!」

「トウランス様のお姿も見当たりません」

ハルムがしれっと続ける。


「な、なにぃ!

 それを早く言わんか!」

ハルムの言わんとした事を漸く理解する。

「そういえばあの野郎レセプションの時から怪しかったぜ

 抜け駆けしてトウランス様に取り入る気だな!」

慌てて羽織っていた上着に袖を通す。

「そうはさせるかっ!二人を探すぞっ!」


バタバタして二人を探す。

深夜だという事もお構いなしで城中大声で名を呼びながら。


トリストも先ほど裏手の森で何やら力が放たれたのを感じとって

城内を見回っていた。

力を感じたといってもほんの一瞬だ。

「気のせいだったか?」

と首を捻っていた処へ、ギーレとハルムの二人を探す声が聞こえる。

「やれやれ、今度はなんだ?」

ポリポリと頭を掻く、その時ギーレの叫び声が聞こえた。

「トウランス様?!」

その声が尋常でなかった為トリストも足早に声の方向に駆けつける。

「どうした?何かあったのか?」


そこには肩から胸と、血まみれのトウランスが荒い息で蹲っていた。

「! こりゃ酷い!

 薬師だ、おいっ突っ立ってないで早く薬師を呼んで来い!」

トウランスに駆け寄り棒立ちになっているギーレに怒鳴る。

「あ、ああ、わかった」

その声で固まっていたギーレも言われるまま薬師を呼びに走る。

トリストは血塗れのトウランスを抱き上げ、声をかけた。

「もう大丈夫だ、安心しろ」

そう言ったものの決して浅い傷ではないのは一目で解っていた。


足早にトウランスの部屋に運び寝台に寝かせ

手際よく傷口に張り付く服を裂く。

「この傷、、蜘蛛か、」

柔らかい布で血を拭きながら傷口を調べる。

其処へ薬師を連れたギーレが戻る。

「薬師以外入るな!」

一緒に入ろうとするギーレを制し、薬師にトウランスを見せる。

治療の間、誰も邪魔が入らぬよう入口近くで陣取り

トリストは薬師の処置を待った。


「毒蜘蛛じゃのうて幸いじゃったな

 熱は高いが命に別状は無いじゃろうよ」

薬師の言葉に一安心するトリスト、だがひとつ気になっていた事があった。

抱き上げた時の背の感覚だ。

「薬師の先生、、彼の羽は大丈夫なのか?」

無言で首を振る薬師。

「、、、そうか、、」

-やれやれ、、、こりゃ明日の選出揉めそうだな。

腕を組みため息をつく。


薬師にトウランスを任せ部屋を出た途端ギーレ達が押し寄せる。

「剣士殿、トウランス様は?」

「誰があんなことを??」

矢継ぎ早に質問されるのを手で制し。

「ああ、大丈夫だ命に別状は無いってよ」

その答えに一安心するギーレ達。

「犯人は蜘蛛だ」

一安心した間もなくトリストから出た爆弾発言。幻羽人にとって蜘蛛は恐怖の対象だ。

「く、、蜘蛛?」

「蜘蛛だって?!」

「蜘蛛がこの城の中に??」

ざわつき皆の声が上ずる。

「ああ、それも心配するな俺がちゃんと始末しておくから」

トリストの言葉に今度こそ皆心の底から安堵する。

いくら蜘蛛が強く脅威だと言っても白の剣士にはかなわない事をよく理解していた。


「トウランス、、だっけか?

 暫くそっとしておいてやれよ、熱も高いし

 蜘蛛の事でかなりショックを受けてるだろうから、、、」

そう、トリストが言った傍から。

「トウランス様!!」

「大丈夫ですかーーっ!」」

「ご無事で何よりです!トウランス様ーっ!」

どやどやと皆が部屋に押し入る。

「こ、、こいつら、、聞いちゃいねぇな、、」

その有様に脱力するトリスト。


「まぁ、、どうせすぐばれちまうんだろうけどさ、、」

-シェラ 魔法が消えちまったぜ

もの思うような殊勝な表情は一瞬だった。

どうせ、自分がしてやれる事は何もない、同情しても詮無き事だ。

それに白の一族は幻羽人のいとなみに関心は無い、所詮住む世界が違うのである。

干渉することは許されてはいない。

トリストの出来る事、それは。

「さぁて、じゃあ俺はせいぜい白の剣士のお勤めを果たすとするか」

そう、蜘蛛退治である。


薬師の投薬のおかげで痛みは少し遠のきトウランスは眠っていた。

その姿を見ながら安堵する皆々。だが、、、最初に気が付いたのはギーレだった。

「あれ?」

今までと違う違和感。

「どうかされましたか?ギーレ様」

「、、、こいつ、感じが変わってないか?」

こいつ呼ばわりになる。

その言葉にざわめく皆を尻目に感じた事を言葉にする。

「なんか、今までビンビン感じていた

 畏敬の念ってのが、全~然湧いて来ね~んだけど」

そうギーレに言われ皆もはた、と気が付く。

「そう言われれば、、」

「変ですねぇ」

上位の羽の持ち主から感じ取れる畏敬と畏怖のオーラ、それが確かに無くなっていた。



月が再び欠けた頃トリストは裏手の森の蜘蛛が現れたであろう現場に来ていた。

そこには、木々ごと大きく抉られた陥没した大地の姿があった。

此処で何か大きな力が大地ごと何かを吹き飛ばしたに違いなかった。

「こいつは、、」

一瞬感じた力の波動はこれに違いなかった。

とすれば、そこで起こった事実の答えはすぐに導けた。

「あいつ、、、。」







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