蜘蛛
ここから少し暴力的な表現が続きます、はい。
白の魔導師ミダル。
古の大戦時にはもう白の魔導師として光神・幻羽の補佐となり
白の一族の重鎮であった。
光神が行方不明となったその大戦でその身を無くしたとされている。
だが、魂魄ではない。
その身が無いだけでそれ以外は生身の白の一族と変わりはない。
多くの優秀な魔道士を育てあげ、今は隠遁の身である。
シェラの母、森の賢者の異名を持つ 森の緑の民ルークもその一人である。
その為シェラは幼い頃からミダルの傍におり祖父とも思い慕っている。
シェラが慌てて旅支度を整えロク鳥の鶏舎に来た時にはすでにミダルが来ていた。
トリストの見送りでシェラ達がスフスフの都を後にしたのは、月が真円になった
真夜中近くの事であった。
幻羽世界の月は一晩のうちに新月から満月と満ち欠けを繰り返す。
この時節は真夜中に満月になる。
深夜の冷え冷えとした空気が肌に心地よかった。
慣れない酒に少し酔ったかもしれない、それとも人酔だったのか。
疲れを覚えたトウランスは取り巻く人々に暇を告げ
城の最上階に用意された自室で椅子に身を投げかけていた。
「はぁ、、、疲れた
それに馬鹿正直に全部付けるんじゃなかった、ジャラジャラと
重みで肩がこって、、、」
彼が身に着けていた装飾品は前夜祭の装束として用意されていたものである。
王宮の遺産のひとつなのだろう。
肩のあたりを揉み解す仕草をしながらぼんやりと外を見る。
高台の城の最上階とあって城壁のかなり向こうまで見渡せた。
城の裏手には広大な森が広がっている。
幻羽人はその背の羽に影響されるのか森が好きな民だ
緑がないと落ち着かない。
なので城郭都市といえど中に点々と森や林が存在している。
城の裏手の森は一番大きく深かった。
「あれ? あの羽、、ウェンリィ?」
月光の下、先ほどまで共にいた青年が羽を広げ飛翔していた。
彼の羽は透明な緑。
付け根と羽先が少し濃い緑の色を成し淡いグラデーションになっている。
ガラス細工の様でなかなか綺麗な羽であった。
ふっとウェンリィがこちらを振り向く。
光る眼と眼があった時、トウランスの意識がぼやけ
誘われるように羽を広げ後を追う。
月光の中2つの影が飛翔していった。
城の裏手の森、空の月を雲が隠し暗闇が静寂を支配する。
「ん、、、?」
トウランスが気が付いたとき雲に隠されていた満月が姿を現わす。
そう時間は経っていないようだった。
周りが月光でぼんやりと照らしだされる。
起き上がろうとするが腕が動かない事に気が付く。
足も羽も何かにぴったりくっついているように全く動かなかった。
訝しく思い見上げ愕然とする、蜘蛛の巣に捕らわれている!
「なっ、いったい何が?
これはまさか蜘蛛の巣?!」
自分の身に何が起きたのか理解が追い付かなかった。
自室に戻ったのは覚えている、それから飛ぶウェンリィを、、、。
「ウェンリィ、、?」
ぼんやりと傍にいる人影を見る。
「!!」
そこにはウェンリィらしかった物が居た。
衣服、羽がウェンリィだと知らせるが、その姿は体液を吸い取られ
カサカサに干からびており面影は微塵も無い。
小さな嗚咽が聞こえる誰かが泣いている?
トウランスはその声が自分であることに気が付く。
止まっていた思考が緩やかに動き出す。
-駄目だ、、、声を出しちゃだめだ
逃げなければ、、、
そう!蜘蛛に気付かれる前に!!
自分がああなる前に!
ウェンリィを食べ満足したのか今は周りに蜘蛛の気配はない。
今ならまだ間に合う筈だ。
粘つく蜘蛛の糸からゆっくりと腕を外しにかかる。
急ぐと糸は絡まるし振動で蜘蛛を呼びよせてしまうだろう。
細心の注意を払いゆっくりと、、静かに脱出を試みる。
右腕が自由になる、、、そして右足、、、。
大丈夫、このままきっと逃げられる。
そう思った時
かさっと木の葉が擦れ合う音がした。
そこに蜘蛛が居た。
6本の腕、額には小さな単眼が6個、ざんばらに伸びた髪、吊り上った黄色い眼。
顔には隈取模様があり口は左右に大きく裂け牙が覗いている。
犬歯が異様に大きいその口がくわっと開く。
トウランスの時が止まる。
全身が凍りつき身動きも取れなかった、なのに瞳は満月に飛翔する姿を捉える。
月光を背に飛翔する少女がそこに居た。
綺羅綺羅と光を纏い飛翔するその姿に
ただ、ただ見惚れる なんて綺麗なのだろう、、、と。
夢のように美しい飛翔だった。
肩から胸にかけて焼けつく激痛に襲われ現実に引き戻される。
喉から悲鳴が飛び出す。
蜘蛛の鉤爪が胸を引き裂いていた。
鮮血が辺りを朱に染め上げ
トウランスの脳裏に『死』という言葉が現実として浮かび上がる。
死ぬ?ここで?蜘蛛に殺され
自分が死ぬ?!
「、、嫌だ、、」
死にたくはない!蜘蛛に喰われて死ぬなんて
そんな事認められるものかっ!
無我夢中だった、ただ死にたくない、嫌だ認めない。
頭の中は空っぽになり自衛本能に支配される。
「嫌だっーーーっ!」
叫ぶと同時に指先が光り、覆いかぶさる蜘蛛との間に閃光が走った。
「ギッ?!」
蜘蛛がその閃光に掻き消される。
爆音と共に光が大きく膨れ上がり木々をなぎ倒す。
それは一瞬の出来事だった。
やがてその爆発は収まり静寂が戻る。
何事も無かったのかのように、、。




