過去偏 黒の王子
また一月以上あいてしまいました~。
只今「読みたい病」が進行中、、いろいろと読みまくってます。
の結果書くのが遅れました、、てへっ☆(てへっじゃねーーっ!)
その少年は血まみれだった。
だが、彼の血ではない。
彼はたった今母の腹を裂いて生まれ出てきたのだ。
彼の母、黒の王妃ガラティアは苦しい息の中笑っていた。
「ふっ
ふふふ、、負けたわ、、
ロ、、アン
そう、、ロリアンが良いわ、、
お前は、、母の、、誇、、り、、、ょ」
そう呟いてガラティアは息を引き取る。
部屋の隅では侍女が2人身を寄せ合い震えていた。
「お、、王妃様、、」
ガラティアの死に顔は満足そうに笑っている。
黒の一族の出産は母と子の戦いでもあった。
なるべく早く産み落としてしまおうとする母、なるべく長く母から奪い得んとする子供。
臨月に差し掛かった頃からこの戦いが幕を開ける。
王妃の腹は異様に膨れ上がっていた。
彼女は少年にまで成長したロリアンが自ら腹を裂き割り出てくるまで彼を産み落とすことが出来なかったのだ。
結果彼はほぼ全ての魔力を母親から奪い去った事と成る。
その顔に表情は無い。
無意識に震える侍女に近づき2人を屠る。
彼は血塗れの身体をリネンでふき取り適当に置いてあった衣服を纏う。
そしてずるずると血塗れのリネンを引きずり廊下に出る。
その時だった目前に黄金の髪を翻した美しい女性が現れる。
だが、彼女は少年を少し眺めていたがじきに違う次元へ飛んでいった。
彼女の消えた空間を少年は感情の無い目で見つめていた。
黒の王は王妃の惨状に息を呑む。
黒の王の背後にはガラティアの長女であるラナリュスも控えていた。
彼女は父と母譲りの長い黒髪を背に垂らし黒い襟の詰まったドレスを纏っていた。
複雑な思いで満足そうな母の死に顔を眺める。
「母の腹を裂いて出てきたのか、、」
黒の王の眉が顰められる。
王妃の手元に血文字で書かれた文字があった「ロリアン」と読める。
王妃が付けた名なのだろう。
「候子様が発見されました!」
背後の廊下から声が掛かる。
黒の王は急いでその声の方向へ向かった。
そこには倒れ付す黒の衛兵と血塗れのリネンを握り締めた青銀髪に黄金の目を持つ少年が身の回りに魔力を発動させ近づく者をなぎ倒す姿があった。
少年の纏う魔力は濃密で力強い。
「鎮まれ!」
黒の王が少年の魔力を治めようとするが少年は反射的に迎え撃つ。
王の魔力と少年の魔力が鬩ぎ会い火花を散らす。
どちらも譲らない。
と、少年の動きが止まる。
「?」
王の目前で少年は崩れ落ちた。
すうすう寝息をたてている。
「王、なりは大きくともまだ生まれたばかりの赤子ですわ」
黒の王が振り返ると後ろには竪琴を手に持ったラナリュスが居た。
彼女は魔力を琴の音に乗せロリアンを眠らせたのだ。
「ほら、眠ってしまえば大人しい者です」
そう言ってラナリュスはロリアンを抱き上げる。
その様子を見ながら黒の王は自らの手を見つめる。
ふるふると指先が痺れていた。
少年の魔力を受けた結果である。
その口元に笑いが宿る。
「ロリアンか、、ガラティアめ5人目にして漸く王子を産みおったわ」
王子という言葉にラナリュスが反応する。
「ふふ、一応お前の弟だ
暫く面倒を見てやれラナリュス」
「かしこまりました
でも、この子が『王子』ですのね?
王」
父親を王と呼び、王の娘なのに王女ではない。
そんな候が大勢居る中で漸く王の子と認められる王子が生まれた。
ラナリュスの心中は複雑であった。
それが血を分けた同母弟である事が尚更、、。
次の日謁見の間に主だった黒の諸侯が集められる。
王は集まった者達を見渡しロリアンを引き合わせる。
「ロリアン
漸く生まれた王子だ」
ロリアンは黙って皆を見つめている。
「王子、、ね
ろくに喋れもしないガキが」
そう呟くのはロリアンと同じ青銀髪を持つ青年。
「あら案外可愛くてよ?」
ラナリュスがからかうように笑う。
「姉上?」
ラナリュスの同母の弟だった、リュートと言いロリアンの兄にあたる。
「そうでしょう?
何も出来ない赤子なんですもの」
ラナリュスはそう言うが候子、候女の大半は面白くないようだった。
彼らには幼いロリアンが自分たちに勝っているとは夢にも思っていないのだから。
だが、力のある諸侯の一部は違った。
王子を見て冷や汗を流す大男、明らかに様子がおかしい。
「どうかされたか、ヴォルゼル?」
耳の長い魔術士に声を掛けられる。
「いや、、
恥ずかしい話だがあの王子を見ていると震えが止まらんのだ」
頬に傷のある歴戦の猛者の風情をかもし出すヴォルゼルが恐れを隠すでもなくそう話す。
「貴公もか、実は私もだ」
魔術士も頷く。
「ほら、ルートラ、彼女もそのようだ」
魔術士が促す先にルートラと呼ばれた魔術士が居た。
彼女も青ざめた顔で王子をじっと見ている。
握り締めた腕は白くなっていた。
「果たしてこの中の何人が気付いているか
凄まじい魔力だ
すでに王妃の魔力を上回っている
表面上に現れていないのは王子の中でまだ母体で学んだ事が整理されて無いだけ
統括されるのも時間の問題だな、、」
そう言うサラフィンは引きつった笑顔を浮かべる。
末恐ろしい王子だが同時に頼もしくもあった。
それは突然訪れる。
白の一族との大戦は一進一退であったが黒の一族の方が押していると思われていた。
だが白のとった起死回生の一手で大きく戦況は変わる。
黒の里ごと異空間に幽閉されるという事態に追い込まれてしまうのだ。
優雅に黒の城で寛いでいたラナリュスは空間が揺らぐ感覚で異変に気が付いた。
「な、、なに?」
「姉上!外を!!」
弟の言葉に外を見たラナリュスは空間が歪むのを見る。
強制転移の衝撃が黒の里を襲う。
ぐるんと裏表が入れ替わるような感覚に悲鳴があがり意識を刈り取られる。
どの位経ったのか気が付いた時はすでに異空間だった。
ラナリュスは頭を抑えながらどうにか立ち上がる。
目前には空の一転を見つめるかの様なロリアンが居た。
不信に思いながらラナリュスも窓に駆け寄り空を見る。
急速に閉じ行く空間が彼方に浮かんでいた。
倒れ付した他の者も気が付き始めたのか彼方此方で喧騒が上がる。
黒の里は右往左往していた。
シュリアン等白の軍との決戦で負傷した者たちが次々に城内に運び込まれている。
状況が飲み込めない者達の狼狽や軍の将であったヴォルゼル重傷の知らせに城内は騒然としている。
「あ、、姉上
いったい何が、、」
同母弟であるリュートが不安げにラナリュスに問いかける。
ラナリュスは唇を噛み締め忌々しそうに吐き捨てる。
「負けたのよ!黒の軍は
白の奴等に異空間に閉じ込められたのよっ!」
言葉にしても、間違いようの無い状況であるのにまだラナリュスには信じられなかった。
黒の軍が敗北したという現実が、、、。
だが、狼狽しているままではいられない。
現実を受け入れ黒の一族を纏め上げなければならない、ラナリュスは正妃であるガラティアの候女なのだから。
幸いにも4強のサラフィン、ルートラ、リーゼルトは無事に帰還している。
ヴォルゼルは左手を付け根から吹き飛ばされたようだが一命は取り留めるらしい。
そして黒の王の姿は無い。
ラナリュスはサラフィンに軍の維持と被害の詳細を纏めるように言いつけ候を集めた。
直ちに黒の王の代理を決めねばなるまい。
王子は居るが赤子である。
自分が一応最年長だが、候子の長兄にはキルトスが居る。
ほんの数年年下というだけであるし何よりキルトスの外見は黒の王に酷似していた。
能力で劣るとは思わないが王の面影が濃いというのは大きな利点である。
ラナリュスはロリアンを立て実権を取ろうと考えている、が、自らが動くのは好ましくない。
そう考えているところに候子、候女が集まってくる。
ラナリュスはロリアンを横に座らせ一段上の寝椅子に寛いでいた。
候を集める呼び出しをする、これですでにポイントリードである。
皆が集まるか否かの状態に飛び込んで来たアルカシアが騒ぎ立てる。
まだ少女の彼女には何もかもが容認できなかった。
「白に負けたなんて嘘よね?!
すぐこんな所から出れるんでしょ?
王は?王はどうなされたの?」
白の羽虫に負けたなんて信じられる筈がなかった。
それは他の侯の代弁のようだった。
「ああ、もう騒ぎ立てないの
王は白の王に封じられたそうよ
そんなことはもうどうでもいいわ」
ラナリュスは追い払うかのように手を振りアルカシアをあしらう。
「そうだな
まずは空いた王座を埋めるべきだろう」
慇懃な態度の中にも嗤いを浮かべキルトスがそう言い放つ。
まだ歩けない幼い候子、候女以外の15人はすでに集まってた。
皆の視線が一斉にそう語ったキルトスに集まる。
黒の王に一番良く似た長兄に。
何時の間にか口髭まで生やしていた、黒の王の真似であるのは間違いなかった。
ゆっくり皆を見渡しキルトスが言う。
「まぁ長兄の俺が一番適任だろうな」
「あぁー?ふざけんなよキルトス
一番力のあるやるが相応しいに決まってるだろうがっ!」
血気盛んなクルトが噛み付く。
ラナリュスが見る限りキルトス、クルト、クリシュトが名乗り出そうであった。
「そうだ!黒の正妃の長子である姉上が一番相応しいだろう!」
リュートも噛み付く。
「へっ!女に何が出来る」
クルトの言葉にクリシュトが穏やかに諭す。
「いやいやラナリュスは中々の強者
君の言う実力のあるものというなら彼女も無視できまいよ」
このクリシュトという異母弟はなかなか食えないのだ、いまもラナリュスを擁護するように言ってはいるが本心は違うだろう。
ラナリュスはこの異母弟が一番厄介だろうと内心思ってはいた。
自分より劣るキルトスも単純力馬鹿のクルトもさほど脅威とは思わない。
だが、自分には一番強いカードがある。
「何を言うのリュート
『王子』が此処にいるじゃない」
「はぁ?!ボケてんのかラナリュス!」
「全くだいくら王が決めたとはいえ、、」
「その案は私も賛成しかねるなラナリュス」
「姉上、、その小僧は禄に喋れもしないのですよ?
俺も流石に、、、」
口々に否定の言葉があがる。
「大丈夫です
姉の私が補佐します」
ラナリュスはそう言って悠然と微笑む。
リュートは得心が行ったという表情で手をぽんと叩き頷く。
「為るほどこの子は我々の同母弟
異母のこいつ等とは違いましたね」
候は同母でなければ兄弟とは思わないのである。
何よりロリアンは黒の王が唯一認めた王子なのだ。
他の侯は唸るが異論を言い出せそうな雰囲気ではもはやなくなっていた。
王が認めた王子を同母の姉が補佐する。
これでラナリュスに力が無ければ異論も出ようが彼女は確かに候の中では一、二を争う実力者なのだ。
認めざるを得ない流れになってきた。
「可愛いロリアン
貴方は何も心配することは無いわ
私の言うとおりにすればいいの
姉の私が貴方を導いてあげましょう」
ラナリュスはそう言いながロリアンの頭を撫でる。
ラナリュスとリュート以外の大人組みは苦虫を噛み潰したような表情になっているが
アルカシア等の少年少女の子供組みは良く飲み込めていなかった。
覇権争いにはまだ幼くかといって興味が無いわけではないが。
どうやらラナリュスが勝利したというらしいと分かった程度である。
「お前
五月蝿いな」
その声はラナリュスが頭を撫ぜていたもの言わぬ赤子であった筈のロリアンから発せられた。
「お前は何時ぞやのように奏でるだけでよい」
そう言い終わる前にラナリュスの身体は悲鳴をあげるまもなく硬化し物言わぬ竪琴に変じる。
ラナリュスの身体をそのまま残し水平に上げた手に髪の毛が弦となり妖艶さを残したままの竪琴に。
その場の空気が凍りついた。
一瞬の間、我に返った侯達は一斉にロリアンに跪く。
アルカシアは忘れないその時の恐怖を。
美しく強く傲慢であった異母姉が事も無げに木化させられたのだ。
歯の根が合わなかった。
ただ振るえその場に跪くことしか出来なかった。
キルトスもクルトもクリシュトもただひたすら平伏す。
目の当たりに見た魔力は強大すぎた。
この時上下関係は一瞬にして決定する。
以来黒の王子ロリアンは黒の侯達にとっても畏怖の対象となったのである。




