過去偏 光と闇
「ほぅ それほど魔力のある子供がいるのか?」
サラフィンが興味深そうに訊ねる。
彼は4強と呼ばれる黒の一族の一角であり黒の王の統治時代から宰相の役割も兼ねている。
白の一族に黒の里が幽閉された今もその任に付いていた。
幻羽世界に戻る日の為に力を蓄えねば成らない。
力の在るものが居るなら把握しておくべき案件だ。
軍事は片腕を失ったとはいえ聊かの衰えも見せていないヴォルゼルがそのまま将として束ねている。
4強のうちルートラ、リーゼルトはサラフィンの補佐のような存在になっている。
単にヴァルゼルが脳筋な為内政に不向きな所為も在る。
黒の王は不在だが王子ロリアンを頂点に着々と増強は成されていた。
「ああ、先日偶然見つけてな」
フィルーゼがそう報告する。
「まさか、、候では?」
一般に黒の王の子供は強い魔力を有する、4強には遠く及ばぬが皆其々高い戦闘力を持っている。
サラフィンは立場上、力のある黒の一族同士の妊娠、出産は全て把握している。
そのサラフィンが把握していないとなると幽閉前に王が仕込んだ種の可能性が高い。
黒の王は好みの女が居れば王妃の目など気にせず手を出していた。
流石に王の女癖まではサラフィンには把握しかねたのだ。
おかげで候、候女の数は36名に上る。
「いや、それは無いな
下の村で見つけた奴だ、王の種の筈がない」
王の趣味は力のある女、強者のみに限られている。
それは傍に仕えていたサラフィンが一番良く理解していた。
どの候の母親も高魔力を持つ黒の一族であった。
脆弱な下の村の女など王は見向きもされなかった筈だ。
とすると候か他の強者の種か。
候の子種としても王の子は候だが、候の子までは適応されない。
「なるほど
で?フォルーゼ殿、貴殿が育ててやるのか?」
黒の一族には弟子と称して幼子を集めしごくのを趣味としている者達が居る。
フォルーゼも幼子を甚振るのが好きな男だ。
「まぁな
気が向けば餌でもやるさ
上手く育てば子弟の手合わせが楽しみだし付いて来れずくたばるならそれも良し
どうせ下の村のガキだ」
黒の一族は親子の情愛も薄い、フォルーゼのような嗜好の者に子を託す者も多かった。
子の出来がよければ強者に育ち資質が無ければ振るい落とされるだけだ。
唯一候、候女のみが丁重に育てられてはいたがそれは王に対する敬意からである。
力のある重鎮の子女もそれなりの敬意を持って育てられては居たが、一定の年齢までに力を示さなければ底辺の地位に落とされる。
もしくは職人の位に甘んじる事となる。
黒の一族の花形は戦闘職。
高い戦闘力を持つ上位の戦闘職になればほぼどんな要望も罷り通るのだ。
力こそが全てなのだから。
フォルーゼの元には下の村から拾った子供が3人、他の黒の一族から預けられた子が30名ほど居る。
そして彼のような嗜好を持つ者は多かった。
幽閉されている現在、はっきり言って暇なのだ。
あからさまに殺す気は無いがしごきと称して甚振るのはありだ。
その結果死んだとしても咎められる事は無い。
彼等にとっては娯楽の一環なのである。
エクセルは黒の聖地深遠の森のリプルの中で育った。
彼がリプルから出たのは歩くことが出来るようになってからである。
赤子のまま放り出されたら流石に生きてゆけなかったであろう。
アストルートを始め深遠の緑の民はそんな幼子を当然のように面倒を見てやった。
そこで魔法の概念を彼は知る。
緑の民達が使う癒しの魔法は全く使えなかったが魔力の発動の仕組みは理解できた。
そして親譲りの有り余るほどの魔力をエクセルは有していた。
母体の中に居た時間は短くとも双子であった妹から奪った魔力、リプルが補ってくれた魔力。
膨大な力である。
フォルーゼに見つかったのは黒の一族と下の村の住人の小競り合いに係わった所為である。
小競り合いというか一方的な蹂躙だったのだが、エクセルはその場に居た黒の一族を返り討ちにした。
その場を見られてしまったのだ。
下級の戦闘員になら余裕で対処できたがいかに膨大な魔力を有しようがまだ子供。
そして碌な攻撃魔法も習ったことも無いエクセルはあっさりフォルーゼに捕まってしまう。
面白いと思ったフォルーゼは有無を言わさずエクセルを自分の育てている黒の子供達の小屋にぶち込んだ。
簡素な小屋ではあるが衣食住は一応約束され魔法や他の戦闘も教えてもらえる。
エクセルにとっては悪い条件では無かった。
ただうっとおしかったのは他の子供達である。
フォルーゼは一定の基準の課題をクリアすれば納得しそう理不尽な暴力を振るう事は無い。
エクセルにとって仕組み(理論)さえ分かれば課題をクリアするのは大して難しい事では無かった。
寧ろ簡単にこなして見せる。
結果、ほぼ無傷なエクセルとフォルーゼに叩き伸ばされた子供達との間に確執が生まれる。
ちびの後輩のくせにあいつだけ生意気じゃね?って事だ。
実際エクセルは最年少であった。
だが正面から挑んでも返り討ちになる可能性が高い。
人数にものを言わせた攻撃や、食事に毒、寝込みを襲うなどの陰湿な攻撃が始まる。
人数で来るのはさほど問題ではなかったが、食事に毒虫を入れられるのや眠れないのは地味に堪えた。
フォルーゼの課題も日に日に複雑になる。
稀にだが半殺しの目にも遭った。
だんだん生傷が耐えない生活になる。
アストルートに回復魔法を掛けてもらったり、薬草の知識を教えてもらい簡単な傷なら自力で対処したりしていた。
出来れば小屋に帰らず森ででも暮らしたいものだが
フォルーゼにしてみれば逃げられては最後の師弟対決という『お楽しみ』が無くなる。
強者になりそうなエクセルを逃がすのは惜しい。
当然許可するわけが無い。
逃げれば済むことだったかも知れないが、魔法を学ぶのはエクセルにって望むところでもあった。
フォルーゼは4強とまではいかないが力のある魔術師だった。
その彼からじきじき学べるのは得る事が大きい。
エクセルは強くならねばと思っていた。
いつか出会う『その人』の為に。
だから逃げるわけにはいかない。
考えた挙句、授業も訓練は真面目受けたが発表の場では手を抜く事にした。
少しでも摩擦を減らすためである、出来すぎないように注意をした。
が、自力に差がありすぎたのかそれでも彼は目立った。
執拗に寝込みを襲われ睡眠の邪魔をされる。
エクセルは一人だが相手は多数居るのだ。
ローテを組んで嫌がらせをしてくる。
そのエネルギーを訓練にまわせよと言いたかったが聞く耳を持つ者は居ない。
ジャブのようにじわじわと嫌がらせは功をそうしエクセルは疲弊していた。
ロリアンと出会ったのはそんな頃だった。
「いっ痛ぅ、、」
全身の擦り傷が痛む。
課題はクリア出来たが手を抜きすぎた所為で最後の微調整を誤り爆風に飛ばされた結果だ。
気候は穏やかなのでエクセルは貫頭衣のような物を着ている。
もろに地面に激突したのだ、手足は露出していたので擦り傷だらけになった。
川で傷口と顔を洗い薬草を潰し傷口に塗る。
幸い後は付けられてなかった。
後を付けようにも他の子供達は課題が上手くクリア出来ずフォルーゼのしごきにあっている。
エクセルはそのまま川辺に寝転ぶ。
なぜ異空間なのに空があるのか疑問だったが良く晴れた青空が気持ちよかった。
「いい天気だな」
自然に呟く。
と、対岸に魔力の高まりを感じた。
「ん?」
上半身を起こし対岸の林を見る。
いきなり閃光と共に爆風が吹き荒れ、エクセルはとっさにガードを張る。
収まった時には林はなぎ払われ川は干上がり一面の様相はすっかり変わっていた。
見ると少年が剣を構えて居た。
青銀色の長髪を靡かせた少年の周りは爆心地が其処であると報せるかのごとく放射線状に木々がなぎ倒されている。
「おいっ!
そう云う大技やる時は周りに人が居ないか確認してからやれよ!
あぶねーなっ!!」
怒鳴るエクセルを少年は興味深そうに見る。
「もう少しで怪我するところじゃないか気をつけろよ
ったく、休みに来て怪我するなんて馬鹿みてー」
頭をかきながらエクセルが歩み寄って来る。
ロリアンは手加減したつもりは無い。
さっきの攻撃を食らったら普通は即死である。
「お前、強いな?」
笑顔でエクセルが聞いてくる。
「強いぞ」
無表情で答える。
ロリアンは強いか強くないかなど馬鹿げた質問をされたのは初めてだった。
黒の里最強である自分にこいつは何を聞いてくるんだ?
そう思っているといきなり肩を叩かれる。
「だよなーっ」
紫の髪の少年はすごく嬉しそうにロリアンの肩をバンバン叩いた後、傍にごろんと寝転んだ。
「あーやっと寝れる~♪」
寝れる?いったい何を言っている?ロリアンはすっかり拍子を崩される。
「あ、さっきの技無しな」
少年はそう言ったかと思うと寝息をたて始めた。
気が付けば爆睡している。
すっかり毒気を抜かれたロリアンは何とはなしにエクセルの傍に座り込む。
黒の里で自分を恐れ避けるものこそ居れ自分の傍で爆睡するなどふざけた奴は初めてだった。
彼方此方に擦り傷を作っているようだったが全て手当て済みである事から
自分の攻撃で付いた傷では無いようだ。
安らかな寝顔のエクセルをロリアンはまじまじと見て思った。
「変な奴」
それが2人の出会いである。
エクセルが起きた時には辺りはすっかり暗くなっておりロリアンの姿は無かった。
「ん~、久々に良く寝た」
背伸びをしご満悦だった。
「あいつ、、、ま、いっか」
そう呟き小屋へと戻る。
こっそり戻った小屋の中は屍累々だった、皆相当フォルーゼにしごかれた様だ。
結局クリア出来ていたのはエクセルだけの様だった。
その事がよほどお気に召さなかったのかいい口実だと思ったのかフォルーゼに甚振られたのだろう。
おかげでエクセルにかまう元気も無いようでエクセルにとっては有難い事だ。
その夜もゆっくり休むことが出来た。
フォルーゼは気まぐれで稀に黒の城に弟子を連れてゆく事がある。
エクセルは其れまで行きたいとも思っていなかったが先日出会った少年が気になり今度は付いて行きたいと申し出る。
森で出会った少年が誰だが概ねだが見当が付いた為である。
いつもの服装とは違い王宮に行く時は黒の魔術士の正装とも言える黒の長衣を着せられた。
今時黒の長衣を着る魔術士は珍しいのだがエクセルは割りと気に入り
以来彼は黒の長衣を好んで着るようになる。
「どういう風の吹き回しだ?
王宮に興味はなさそうだったのに」
先を歩くフォルーゼが振り返りエクセルに訊ねる。
エクセルはきょろきょろと辺りを見渡しながら上の空で返事を返す。
「おい、きょろきょろするな
落ち着きの無い」
始めて来た王宮が珍しいのだろうとフォルーゼは思ったが、あまり行儀の良いもじゃない。
一応嗜める。
だがエクセルは王宮が珍しく見回していたのではない。
探していたのだ、王宮は広く彼の位から考えて偶々廊下を歩いているという事は皆無に等しいとは思いながら。
だが、運命の女神は微笑んだ。
人々が傅き道を譲る先に少年が居た。
「あ」
目聡く其れを見つけたエクセルが駆け出す。
「おい、こらっ」
それに気が付いたフォルーゼは止め様と声を掛けるがその先の目立つ人物を見思わず跪く。
エクセルはロリアンの背後から気安げに肩を抱く。
「よっ」
その場の空気が凍りついた。
王子に何をするんだこいつはっ!その場に居た皆の脳裏に次の光景が浮かぶ。
瞬殺される映像だ。
だが王子は一瞥したかと思うと静かな声で答えた。
「何だ、お前か」
「お前強いと思ったら王子だってな」
にこやかな笑顔でエクセルはロリアンに言う。
ロリアンは何をいまさらと鼻で笑うと
「よく寝れたか?
外で寝るのが好きなようだが」
面白そうに訊ねてくる。
「ん~、まぁ嫌いじゃないけど
宿舎じゃ良く眠れないからな
一応目立たないように手は抜いてるんだけど
俺下の村の出身だから何かとやっかみが多くてさ
正攻法じゃ勝てないもんだから寝込みを襲ってくるんだよな
ったく弱い奴等のやる事はセコいったらないよな
強い奴はそんな真似はしないだろ?」
溜め息を付きながらエクセルは答える。
それで『強いか?』と聞いてきたのか、とロリアンは最初に掛けて来た言葉を思い出す。
目前の紫の髪の少年をまじまじと見つめる。
やっかみと彼は言ったがそれだけでは無いだろう。
肩の辺りで切りそろえた髪は短いが非常に整った顔立ちだ。
まだ少年なので体躯も細く当然女の代わりしようと目論む者も要るだろう。
ふっとロリアンは笑い頷く。
「サラフィン、サラフィンを呼べ」
そう命じた後エクセルに伝える。
「王宮に住むといい
一室お前にやる」
言われたエクセルはキョトンとした顔でロリアンを見つめた。
近くまで来ていたフォルーゼも傅きながらロリアンを見る。
呼ばれたサラフィンは即座に転移して来た。
「お呼びですか王子」
頭を垂れロリアンに挨拶する。
「奴に専用の部屋を用意してやれ
こいつ俺の技を軽く受け流した」
面白そうにロリアンはエクセルを見てサラフィンに申し付ける。
「承知しました」
王子の命は絶対である。
会釈をし、サラフィンは承諾しエクセルと背後にいたフォルーゼを見る。
王子の技を無効化した。
其れは子供に出来る所業ではない、ではフォルーゼの言っていた子供とは彼の事なのだろう。
後ろでフォルーゼが当惑した表情をしているのが面白かった。
「だが、今までに様に手を抜くなよ?
其れが条件だわかったな?」
そうだと思い出したようにロリアンはエクセルにそう言う。
「なっ!
お前今まで手を抜いていたのか?!
エクセルっ!!」
思わず叫ぶフォルーゼ。
「わっ馬鹿っ!
しーーっ!」
慌てて人差し指を一本たて黙ってくれとエクセルは頼むがもう遅い。
フォルーゼの怒鳴り声が回廊に木霊する。
そうか、エクセルというのか。
そう思いながらロリアンは楽しそうに笑う。
その後エクセルは当然のように頭角を現す事になる。
4強が5指になるのにそう時間はかからなかった。
この辺りで漫画で書いた部分はほぼ終わります。
次から未知の領域です。
不定期ではありますが月に3~4話は投稿できるように頑張ります。
とりあえず10月までにもう1話頑張るっす。




