旅立ち 師の捜索
「時の牢獄?」
シュリアンの言葉をトウランスが反復する、聞いたことの無い単語だった。
シュリアンは黙って頷く。
時の牢獄を断つ為にリザイガルの予言がどの様に役立つのかは解らないが
シュリアンが必要だと云うのなら持ち帰らねばらならない。
用途を今王子が言わないのは訳があるのだろうとトウランスは察する。
「転移石があるから速攻とって来れそうだな」
トリストが気楽に笑う。
「いや、転移石はもう無いんだ」
が、トウランスは首を振った。
あの事故が起こった日、トウランス自体も持っていた転移石で飛ばされてしまい。
そのまま意識を失い、その後転移石も失われていた。
彼の記憶はその数日がすっぼりと抜け落ちているのだ。
気が付いたときはシダルの元にいた。
シダルは何も語らずトウランスが立ち直るまで彼の傍にいたのだった。
「無いって、、じゃどうするんだ?」
トリストの問いにトウランスは落ち着いて答える。
「探すしかないな」
「探すって?!この広い幻羽世界をか?!」
トリストは素直に驚く。
幻羽世界は広い、現在白の一族が把握しているのは世界の半分くらいであろう。
トリストの父も未開の地を探索に出ている。
黒の一族がいる間は黒の一族との小競り合いで世界の探索に割く人員は出せず。
幽閉した後も今度は大半の白の一族を封印したため人員が少なく、結果として探索は遅々として進んではいない。
もし、シダルが未開の地にいたなら探すのは困難極まる事になる。
「そうだな
でも方法が無いわけでもない、、見つけられるだろう
ただ問題は時間だな、用意が整い次第直ぐ発つ事にしよう」
「頼む」
トウランスの言葉にシュリアンは頷く。
「あ、あの
俺もトウランスに付いていっちゃ駄目かな?」
グランがそう言いだす。
ちらっとエクセルの方を見て。
「あいつもトウランに付いて行くんだろ?」
「当然だ」
エクセルはトウランスの傍を離れる気は無い。
彼を守るために居るのだと公然と断言している。
「グラン
お前はもう白の剣士だろ、何を勝手なことを言っている」
そんなグランをトウランスが嗜める。
「あら、かまいませんわよ?」
が、隣で聞いていたグローリアがすんなり許可をだす。
驚くトウランスにグローリアは付け加えた。
「その子は私の剣士ですから私の一存で如何様にも出来ますわ
行ってもよろしくてよグラン
私にはルーファスが居りますから兄上にお付けしますわ」
満面の笑みである、彼女にしてみれば気を利かせたつもりだ。
だが折角トウランスと2人で旅に出られると思っていたエクセルには邪魔者以外の何でもなかった。
思わず眉間に皺がよる。
だがお荷物はこれだけですまなかった。
「トウランス、リューズも連れて行って貰えないか?」
シェラまでもがそう言いだす。
「おいおい、俺の所の唯一の回復要員を連れてくのか?」
困ったようにトリストが言うがシェラにあっさりと肯定される。
「そうだ
私はエクセル殿に倒される前に黒の魔剣士と戦っている
ほぼ実力は互角だった
エクセル殿、彼はどの位のレベルなのだろうか?
部隊長クラス以上だと思うが?」
「魔剣士というとアロンのことか?
別に所属は決まっていないがあのクラスだとごろごろ居るな」
「トリスト、戦場では回復要員は真っ先に狙われる
庇って戦えるほど楽な相手では無い事は実際戦ってみた私が良く解っている
今のリューズを戦場に出してみろ1分ももたずに即死だろう」
シェラの言葉にリューズは青ざめる。
自分の事を良く知っているシェラの言葉だけに真実味があった。
「リューズ、お前は死んではならない
お前がミューズを助けてやるんだ」
シェラはリューズの両肩を掴み力強くそう言う。
「シェラ様、、」
リューズはそんなシェラを不安そうに見上げている。
「つまり、俺に彼女に白魔法を教えろって事か?」
シェラの考えに気が付いたトウランスが確かめる。
「ああ、頼む
リューズには魔剣士の素質がある
お前なら巧く伸ばしてくれると思う」
「シ、シェラ様ーーーっ!!
な、、なにを仰ってるんですかーーーっ!」
魔剣士?何をどう間違ったらそんな言葉が出てくるのかリューズには解らなかった。
魔術士にもなれないまだ司祭ですらない見習い司祭の自分に魔術と剣を極めた魔剣士など無理に決まっているではないか!
ハードルが高すぎると目眩がした。
「そういえば剣に防護壁を張っていたな、、」
思い出したようにトウランスが言う。
「ト、トウランスさんまでその気にならないで下さい~」
リューズは涙目である、この人たちは自分に何を重ねているのか?
無理難題を言わないで欲しかった。
そんなリューズにシェラは優しく微笑み、言い聞かせるように話す。
「リューズ
剣に魔法を乗せられるかどうかが魔剣士の第一歩なんだ
そしてそれが案外難しい
たいていの魔術士や剣士はここで挫折してしまう
お前はその一歩を自力でクリアしている、自信を持て」
その言葉にリューズはぽかんと口を開けて呆ける。
「分かった、俺に出来る限りの事は教えてみよう」
トウランスがそう請け負う。
「頼む
リューズの場合一番の欠点は臆病な性格かもな
な、トリスト」
何をするにしても臆病なのである、それでかなり損をしている。
が、同意を求めたトリストは上の空であった。
「トリスト?」
シェラの声にトリストは我に返る。
「あ、すまん」
トリストはシェラとエクセルの会話で思う事があった。
「王子
今のシェラの話だとせめてクリエートクラスじゃ無いと
役に立ちませんね?」
今回目覚めた剣士はほぼマスターであるがトリストの部下はオーナーがほとんどである。
つまり白の里に居た白の一族はほぼ使い物に成らないという事になる。
「そうだな、肉の壁として使うならともかく
戦力としては当てには出来ないだろう」
シュリアンもそれは考えていた。
白の里に残されていた戦闘要員のうちマスタークラスは一握りに過ぎない。
しかもその半数以上は未開地に探索に出している。
至急帰還の命令は出したが帰還までにはもう暫く掛かるだろう。
「以前、冗談混じりに言っていた例の件
許可を頂けませんか?」
トリストの言葉にシェラもトウランスも予測が付かず何のことだろうと黙って見つめる。
「非常に困難な仕事だが、、やってくれるかトリスト
蜘蛛族と同盟を結び共闘を頼む使者という大任を」
それは意外な発案だった。
「ご許可ありがとうございます」
トリストはその場で頭を垂れる。
「なるほど足りない戦力を蜘蛛で補うんですな」
ルーファスが頷く。
「そうできれば有難いが正直停戦を結ぶだけでも価値がある
背後の心配をせずに済むからね」
シュリアンは共闘までは望まずとも停戦でも良しと思っていた。
「前大戦では黒の一族に付いた彼等に非常に手を焼かされたからね」
思い出すかの様にそう語る。
「そうでしたの、彼等は黒に付いたのですね、、」
グローリアが呟く。
「ですが彼等も黒には裏切られている
賢い蜘蛛の首領のこと今回は此方と手を結ぶ可能性は充分あります」
トリストは父に教えてもらっていた前大戦の顛末を考えそう答える。
「ね?ね? 裏切りって?」
その事を知らないグランはルーファスに尋ねた。
「なに、蜘蛛は前大戦で黒と同列に並んだつもりだったが
そうじゃなかったって事だ」
「強い蜘蛛は恰好の狩りの対象だ
大戦時も途中もそして今もな」
ルーファスの言葉にエクセルが補足する。
黒の一族にとって蜘蛛は同胞ではなくあくまで狩りの対象でしか過ぎなかったと云う事だった。
現に現在も幽閉されている黒の里では細々とではあるが蜘蛛も隔離され飼育されている。
下の村の住民とは別に戦闘能力の高い蜘蛛はまた違う用途があるのだった。
だが、かといって本当に蜘蛛が同盟を結ぶかどうかはあくまで未知数だ。
シュリアンはトリストに一任することにする。
王子の前から其々準備の為に退席する中トリストはシェラに声を掛ける。
が、なかなか次の言葉が出てこない。
「なんだ?」
「あの、、その、、、」
グランやルーファスがトリストの後ろにリューズがシェラの横に居るためかトリストの歯切れが悪い。
少し遅れた後ろにトウランスやエクセルも居た。
「言いたいことがあるならはっきり言え」
シェラはイラついたように促す。
「その、、もし、、
もしもよかったら、、で良いんだが、、」
「ふむ?」
「か、、髪
お前の髪を一房貰えないか?」
皆の視線が痛い中トリストは言い切った。
シェラはぽかんとした顔をしている。
そんな事を言われるとは思っても見なかったのだろう。
シェラの後ろからリューズが興奮したような声で言う。
「それって
戦場に行く恋人に贈る御呪いですよね♪
シェラ様~」
「!?」
驚くシェラに慌ててトリストが取り繕う。
「あ、いやそんな深い意味があるわけじゃ、、」
言いよどむトリストをシェラはじと目で見。
「ばか者」
と一言発し身を翻し去ってしまう。
リューズははっと口を押さえ、トリストは立ちすくみグランとルーファスは同情を込めた声で囁く。
「振られたんじゃない?」
「、、だな」
「あ、、あの、、ごめんなさい
私が余計な事言っちゃったから、、」
リューズは自分が話したせいでシェラが断ったと思っているようだった。
「トリスト
彼女の母方の緑の民は髪に魔力が宿ると考えているから、、」
トウランスの言葉にグランが便乗する。
「そ、そうだよ、それそれ
髪の毛切るのが嫌だっただけで別にトリストの事が嫌いだって事じゃないって」
「そう云う妙な慰め方される方が傷つくんだけどな、、」
と、トリスト。
「シェラには好きな相手が居るんだよ
ずっと前からな」
溜め息を付きながらトリストはそう話す。
だがそれは叶わぬ恋であることも彼は知っていた。
「えっと塩は補充したし、薬草も大丈夫
あと何か居るのもある?グラン」
リューズの問いにグランは首を振る。
「んー、別に無いかな
俺たち旅してるのが日常だから改めて用意っては無いかな」
そう言いながら聖剣の手入れに勤しんでいる。
「そういえばトウランスさんは?」
リューズが旅の用意をしている間にトウランスの姿が消えている。
「着替えに行ったよ、あの格好じゃ旅しにくいからって
だもんでエクセルの奴憮然としているだろ?」
そう言ってグランはエクセルを見る。
当のエクセルは面白くなさそうな顔を隠そうともしていず腕組みをし燻っている。
折角ほんの少し着飾らせたのに元の木阿弥になってしまったのだ燻るのも致し方ないかもしれない。
「リューズ変わったな」
「え?」
不意に言われたグランの言葉にリューズは戸惑う。
「前はさ、すんげ~怖がってたじゃないか
エクセルの事」
「あ、うん
でもエクセルさんとグローリア姫が双子だって分かったら
大丈夫になっちゃった
私とミューズと同じなんだって、、
それにミューズの事助けてくれたのエクセルさんだし」
恥ずかしそうにそう言う。
「そっか
助けような、、必ず」
いわずと知れたミューズの事である。
リューズはうんと頷く。
トウランスが着替えを済ませ皆の元へ帰った頃にはすっかり夜になっていた。
「夜になったが、準備が整い次第発つぞ」
普通なら夜の出立は避けたいところだが少しでも距離を稼ぎたい為夜半まで歩くつもりでいる。
「あ、出来ています」
「いつでもOKだぜ」
リューズとグランが元気よく答えエクセルは黙って頷く。
「では、発とう」
中庭を通り城外に出ようとした一行はトリストに出会う。
トリストはなにやら考え込んでいたようだが、まぁ、どうにか為るだろうと腹をくくった処の様だった。
「お?発つのか、成功を祈ってるぜ」
トウランス達に声援を送る。
「ありがとう、俺も君の成功を祈ってる」
トウランスもそう返すとトリストは親指を立て。
「ああ、任せとけ」
ニヤッと笑ってよこす。
そこに走って追いかけて来た者がいた。
「良かったリューズもまだ居てくれて」
シェラだった。
「シ、シェラ様?!」
驚くリューズ。
リューズに負けず劣らずトリストも驚く。
「お前っ!どうしたんだその髪?!」
シェラの髪は肩の上辺りですっぱりと切られていた。
「あん?」
トリストの言葉にシェラの米神に青筋がたつ。
「受け取れ」
乱暴に放られた物をしっかりとトリストが受け止める。
それは髪の毛で編まれたブレスレットだった。
少し緑掛かった金髪が飾り編みされ緑の石と銀細工で綺麗に纏められている。
「シェラ、、これ、、お前の?」
トリストはそれ以上言葉が出ない。
「急いで編み上げてきた
そう云う物は祈りを込めないと効果が無いからな」
そう言ってシェラは微笑みトリストの胸を叩く。
「蜘蛛の魔魅力なんかに惑わされたら承知せんからな」
「無論だ!ありがとうシェラ
これさえあればどんな魔魅力だろうが退けてみせる!」
早速手首にはめたトリストは心底嬉しそうだった。
その様子をトウランスは安堵したように見ていた。
実は皆の元に戻る前に彼はシェラの元に出向いていた。
蜘蛛の拠点に向かうトリストにとってシェラの髪はこれ以上無い守りに成るに違いなかった。
トウランスからも無理を承知でシェラに頼もうと思ったのだ。
だが、シェラの自室でトウランスが見た彼女の姿は髪を切り祈りを込めてブレスレットを編み上げる姿だった。
自然と笑みが零れる。
「リューズ」
「はい?」
次にシェラはリューズを呼び剣を差し出す。
「これは私がお前くらいに使っていた剣だ
かなり軽く作ってもらってある、お前に丁度よかろう」
「シェラ様の?」
「ああ、使ってくれ」
リューズは抱きしめるようにその剣を受け取る。
「ありがとうございます
私、、頑張ります!」
感激し涙ぐむリューズにシェラは頷き彼女を抱きしめる。
「うん、強くなれリューズ」
シェラの言葉にリューズも何度も頷いた。
そんな様子を城内からグローリアとシュリアンが眺めていた。
「発つようですわ」
グローリアの言葉にシュリアンはエクセルの去り際の言葉を思い出す。
『あいつは大丈夫なのか?』
それはグローリアを案じる言葉だった。
自分と同じ黒の一族の血を引く妹は大丈夫なのか?白の一族に受け入れて貰えるのか?
そうエクセルはシュリアンに問いただしたのだ。
シュリアンはルーファスを伴なうグローリアの姿はフローライトにしか見えず
黄金の乙女として迎えられるのは間違いないと答える。
その答えを聞きエクセルは安堵した様だった。
「性格は彼のほうが姉上似かな」
呟くようにシュリアンがそう言う。
「は?」
よく聞き取れなかったグローリアが聞き返す。
「いや、祈ろう、彼らの成功を」
シュリアンは笑ってそう答えた。
目下ではトウランスがシダルの気を探って魔法を発動させている。
淡い光が幾つも現れ辺りを彷徨っていたかと思うと一つの方向に集まりだす。
その方向にシダルが居るのだろう。
どのくらい先の距離に居るのかまでは分からないようだがその光がシダルの元へ導いてくれるのは間違いないようだった。




