白の里
白の里、白の居城に人の声が溢れる。
あちこちで再会を祝う声、他愛の無い雑談、笑い声が繰り広げられている。
「う、、わぁ
私白の里にこんなに人が居るの見たの始めてかも、、」
窓から覗いていたリューズの素直な感想だった。
白の里には元々戦闘職、非戦闘職全員でも千人くらいしか住人は居ない。
戦闘職は見習いを入れても400名居るか居ないかである。
「まぁ、今まで千人足らずだったのが一気に5倍になったんだ
密度もあがるさ」
ここは白の城の一室である。
そう話したトリストはテーブルの傍に腰掛ている。
横にはグランとシェラ。
シェラは優雅に紅茶を飲みグランはクッキーをぱくついている。
「って5千人も居たの?
あの穴の中に?」
これはグランの弁。
「異空間に繋がっているんだ
幽閉されている黒の里と同じ原理だな」
シェラがグランに教える。
「そうなんだ」
「違うのは目覚めるまで彼等の時が止まっていた事だな
おそらく彼等には大戦も昨日のことの様なんだろうな
王子以外は、、な」
「影と統合するって姫が言ってたよな
巧く終わったかな?」
トリストが呟く。
「さぁ、、な
でも大丈夫だ」
シェラが事も無げに言う、王子に対する全幅の信頼がそう言わせるのだろう。
「そりゃまぁ、あの王子が困るところなんざ俺にも想像つきませんけどね~」
ため息混じりにトリスト。
「大丈夫、、、か」
シェラの言葉を繰り返しながらトリストは思う。
王子は大丈夫なのか、と。
エクセルの中に流れる黒の一族の血に不安は感じないのだろうか、、と。
確かめてみたとしてもあの性格だ本心を吐露するとは到底思えないのだが、、。
「大丈夫かなぁ、、」
不意に横から同じため息が聞こえる。
「ん?」
グランだった。
「トウラン背中破いてたし、あいつもあからさまに解る黒の衣装じゃまずいだろうって着替えに行ったけど、遅くね?」
「迷ってるのかも、お城広いし」
リューズが紅茶を注ぎながらそう話す。
「かなぁ、、なんかあいつ変じゃね?」
グランには何かすっきりしないもやもやが渦巻いている。
「トウランスの奴昔っから妙なのに好かれるからな
今頃口説かれたりしてたりしてな
俺と始めて会った時も変態領主に手篭めにされかけてたしなぁ
あいつ妙な色気でもあんのかねぇ」
冗談交じりに言うトリストの目前でグランが顔色を変えて立ち上がる。
「って、おい、冗談だって」
まさか城内で、ルーファスも一緒に居るんだぜ?とトリストは思ったがグランには通じなかった。
「トウランってあの外見なのに自覚が全く無くって
寧ろ羽が無いから自分の事醜いって思ってて、んな分けないのに
よく色恋沙汰に巻き込まれているのに本当~っに!うとくって、、、
あ~!もう!!
俺心配だから見てくる!」
そう言って走り出る。
彼にはいろいろ思い当たる事がありまくるのだろう。
「ちょっ待ってグラン!
私も行くわ」
リューズがその後を追う。
「おいおいおい、、、」
走り出て行く2人に溜め息を付きトリストも立ち上がる。
「しゃーねーなぁ、、
シェラ俺たちも行くぞ」
「? 何故」
「城内だぜ?
あいつ等が暴れたら困るでしょうが
正直俺一人じゃ手に負えそうに無いんだわ」
そう言うトリストの表情は邪魔くさそうだ。
グラン達が衣類部屋に近づいた時。
「や、、嫌だっ!
そんなの、、絶対っ
うわっ!よせーーっ!!」
トウランスの悲鳴が聞こえる。
「トウラン?!」
慌てて飛び込んだグランの目の前に部屋の隅に追い詰められているトウランスと
手に煌びやかな衣装を持ったエクセルの姿が飛び込む。
「グ、グラン!」
ほっとした様な顔になるトウランス。
「よう」
その様子を半笑いで見ているルーファスがグランに挨拶をよこす。
「良い所に来た
お前からも言ってくれんか
こいつときたら灰色とかくすんだ色とか兎も角地味~な物しか
着ようとせんのだ」
困り果てたような顔のエクセルがグランに言う。
当のグランは毒気を抜かれていた。
「お前の薦めるのは皆ど派手な衣装ばかりじゃないかーっ!」
心底嫌そうにトウランスが怒鳴る。
「当然だ
折角の美貌飾り立てなくてどうする」
エクセルはしれっと答え。
「嫌いなんだよそういうのっ!!
大体俺に似合うわけ無いだろっ!!」
「では似合えば着るな?
試しに着てみようか」
「いやっ、、だから、、」
「絶対似合うから
騙されたと思って着てみろ」
「嫌っだっ!!」
「さっきからずっとこうだ」
ルーファスが半笑いでグランに説明する。
「はぁ、、」
グランは気が抜けたように曖昧な返事を返す。
「俺はお前が言うから黒魔術士のローブを脱いだんだぞ?
お前も少しくらい俺の言葉を聞いてくれても良さそうな物だが?」
溜め息混じりに言うエクセルは黒のインナーの上に白のローブを着ていた。
こうしていると黒の魔術士には見えない。
「え、、う、、
で、でもそれとこれとは、、、
俺は、、だって、、」
眉を顰めいやいやと首を振るトウランスはまるで駄々っ子状態である。
意外な援軍はグランの後ろから呟いた。
「私も似合うと思うな、、
トウランスさん綺麗だから、、」
リューズである。
トウランスの顔色が変わりエクセルはにんまりと笑う。
「ほら、外野もああ言ってる」
「リ、、リューズ」
トウランスの派手嫌いを知ってるグランはリューズに反論しようとするが
「だって、絶対似合うと思うけど?」
悪意が無い言葉だけにグランもどう反論していいのか解らない。
その様子に追いかけてきたトリストは安堵と共に頭を掻く。
「取り越し苦労だったな」
「ふんっ、くだらん
昔は結構チャラチャラしていたくせに何が派手なのは、、だ」
シェラがその様子を見、馬鹿馬鹿しそうに吐き捨てる。
「シェラ?
らしくないな、、なんか棘ないか?」
「別に」
そう言いながらシェラはそっぽを向く。
「お前、、、ひょっとして
トウランスと仲悪い?」
「お前とエクセル殿ほどではないさ」
「なっ!
信じられねーっ
お前、奴に殺されかかったんだぞ?」
「戦いとはそう言うものだ
あの方がフローライト様の遺児だとわかった以上
蟠ってもしょうがないだろう?」
シェラの答えは正論である。
「だから
一応切りかかったりしてないだろうが」
トリストは憮然とそう答えた。
「ならば私もトウランスに切りつけてはいないぞ?」
即座にシェラにそう返される。
ぽりぽりと頬を掻きながら暫くの沈黙の後。
「、、、ミダル様か?」
ぽつりとトリストが言う。
とたんにシェラの表情が硬く強張る。
やっぱりか、、と云わんばかりの表情でトリストが息を吐く。
「ここじゃ何だから中庭に来いよ
俺の知ってる事を教えてやるよ」
「お前が? 何故?」
「例の事故、処理したの俺だから」
さらっとトリストは言ったがシェラにとっては初耳だった、あんなに探していた事実を知る相手がこんな間近に居たとは。
幸い中庭に人影は無く話をするには申し分なかった。
木立の影で佇みながら2人は話す。
「私が必死で探していたのはお前も知っていたよな?
トリスト」
知っていたのなら何故教えてくれなかったのだ?とシェラの言葉は告げている。
「そりゃ、、王子に口止めされていたからな」
「おいっ、それ、、かまわないのか??」
「よか無いけど
知りたいんだろ?
まぁ、お前にはいずれ話さなきゃなとは思ってたしな」
心なしかトリストの表情も硬い。
「シェラ覚えてるか?
トウランスがミダル様の弟子になったきっかけ」
「ん?ああ
蜘蛛に羽を捥がれたせいだろ?
幻羽人にとって羽は命より大事なものらしい
羽が無ければ幻羽人の世界では奴隷階級になると聞く
仮にも至高の光羽を有していた男だ、奴隷は耐え切れなかったんだろうな」
シェラの言葉を聴きながらトリストは心で補足する。
そりゃ、唯の奴隷ならまだしもあいつの場合伽奴隷だって言われてたからなぁ、、と。
「結果
謀らずともミダル様の予言の通りになった訳だ」
「予言?
そいつは違うな シェラ
あれは全てミダル様が仕組んだことだ」
それはシェラにとって思いもよらぬ言葉だった。
「なっ、、何を言っているんだトリスト?」
到底容認できる言葉ではなかった。
「さて、、と何処から話せばいいかな、、」
話が長くなるとでも言いたげにトリストは木陰に腰掛ける。
「あれは王子の共でサルマスの村へミダル様を訊ねに言った時の事だ」
トリストはシュリアンがミダルに用が在るということでロク鳥に跨りミダルが住んでいるサルマスの村に訪れていた。
この村は白の一族の村の一つである。
その村の入り口でトウランスと出会う。
「トウランス?」
「トリスト、シュリアン王子も」
「おーっ久しぶり元気だったか?
何?薬草の採集か?」
ロク鳥から飛び降りトリストは挨拶を交わす。
「いや、シダル様の所へ黒魔術の講義を受けに行くところだ」
「へぇ、、シダル様の所に、、って
おい?ミダル様じゃなくてシダル様だよな?
あの方は行方不明だって聞いてるぞ?」
「行方不明は酷いな
シダル様は旅をしておられるだけだ
師にとって世界は興味深いものだらけなんだそうだ」
にこやかにトウランスはそう話す。
「いや、旅って
んじゃお前もこれから旅立つのか?その軽装で?」
トウランスの出で立ちは普段着のままで手に数冊の本を抱えているだけでとても旅に出かけそうな物には見えない。
「転移石
トウランスはシダル様の元へ飛ぶ転移石を持っているのだろう」
ロク鳥の上からシュリアンが推察する。
「転移石? ですか?」
「多分ね」
転移石、非常にレアなアイテムだった。
トリストも名前こそ聞いたことはあるが見たことは無い。
「持ってるのか?」
興奮と興味を隠しもせずトウランスに訊ねる。
「、、、見たいんだな?」
トウランスは即座にトリストの意図を察する。
「白い袋がミダル様で黒い袋がシダル様だ」
当然行き返り2個の転移石が存在する。
「見るのはいいけど混ぜないでくれよ」
トウランスは一抹の不安を感じそう付け加える。
「混ぜる?」
なんのこっちゃと思いながら手に袋から同時に転移石を出したトリストはその意味を理解した。
「うおっ!」
2つの転移石は大きさ色共にほぼ同じだった。
「み、、見分けが、、」
「まったくつかないねぇ」
後ろから覗き込んだシュリアンもおやおやと溜め息を漏らす。
「元を正せば石英に魔法を掛けたものだしね
全くあのお人たちは妙な所が似ているとみえるな」
魔導師ミダル、シダル、名前こそ似ているが性格や嗜好は全く違うのだ。
仲が良いのか悪いのかも定かではない、水と油のような存在なのだ。
ミダルは物静かで理論派、シダルは行動派で豪快な性格だった。
なのにたまにものすごく似ている所があったりする。
トリストはこっちがシダル様で、こっちがミダル様、、とぶつぶつ言いながら其々を袋に戻しトウランスに返した。
シダルの元へ飛ぶというトウランスと別れトリストとシュリアンは村の中ほどにあるミダルの屋敷に向かう。
「トリスト
石を間違わなかっただろうね?」
「やですね王子、大丈夫ですよ、、」
呟くように小声で多分、、と付け加える。
「あの、、ちなみに間違ってるとどうなるんでスかね?」
恐る恐る聞いてみる。
「トウランスが困るだろうね
さっじゃ我々も先を急ごうか」
どう困るかは教えてくれない王子サマだった。




