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過去偏 フローライト奪還

ルーファスに残された時間は少なかった。

まもなく黒のマナを封じ黒の里そのものを異空間に切り離すという白の一族の作戦の最終段階が始まる。

それまでにフローライトを助け出さねば共に黒の里に封じられてしまうのだ。

幸いこれまで何度か忍び込んでいたおかげでフローライトが捕らえられている場所は目星が付いていた。

シュリアン王子が本隊を連れ最終決戦に打って出てくれた今こそが好機である。

黒の本隊もそちらに引き付けられている。

蜘蛛の中でも有数な剣士であった彼は隠形にも長けていた為、単身でフローライトを救出する為に動いていた。

フローライトこそ彼が唯一主と決めた女王なのだ。

蜘蛛の男は女王蜘蛛に一生をかけその忠誠を捧げる。

女王の為に生き女王為に死ぬ。

黒の里に囚われた者を助け出す作戦時に一時でもフローライトの傍を離れたことを心底ルーファスは悔やんでいた。

せめて傍に居れたなら少しは状況は変わっていた筈だ。

この身を盾にしてでも彼女を逃がせた筈なのだ。

だが、その時ルーファスはフローライトの傍におらず、フローライトは黒の一族の手に落ちた。

悔やんでも悔やみきれない。

必ず助け出してみせる、そう誓いルーファスは黒の城に居た。

しかし、いたずらに時が過ぎていた、ルーファスにも焦りが生まれている。

焦りは予期せぬ失態を生む、ルーファスは己を律するべく深く深呼吸をする。

同時に気配を探る。

前方に2人の気配を感じる、やり過ごすか屠るか。

2人ならば、、とルーファスは屠る方を選ぶ。

蜘蛛である彼には6本の手がある為同時に3人までは口を封じ屠ることが可能である。

死体を糸で巻き吊り上げ即座に発見されないように天井に貼り付ける。


順調に地下にある牢獄部に差し掛かる。

饐えた臭いが鼻に付く。

今までで一番監視体制が薄い、本隊の陽動が巧く行っているようだった。

あくまでこれはルーファス視線である、本隊は陽動目的ではなく最終決戦を挑んでいるだけなのだが。


一瞬の判断だった、飛びのくルーファスの先ほどまで居た場所に短剣が突き刺さる。

突き刺さった短剣は再び闇に戻る。

ルーファスの眼は引き抜き戻されるときに微かに光った糸を見逃さなかった。

蜘蛛か。

黒の一族に組する蜘蛛の女王が居るのは知っていた。

蜘蛛と蜘蛛との戦いが始まる。

相手は3人、とりわけやばそうな相手は1人。

そう判断したルーファスの行動は早い。

格下の蜘蛛2人に目潰しの糸を投げ一気に奥の蜘蛛まで走る。

腰に挿していた全ての剣はすでに手にある。

6本の剣が縦横無尽に襲い掛かる、受ける方も剣を出す。

薄暗闇に剣が交差する閃光が光る。

蜘蛛が剣士として優れていると称されるのは単に腕の多さに起因しているが

その中でも優劣は出る。

多少手間取ったがルーファスは手ごわい相手を切り捨てる。

代償に右の2番目の腕に浅くない傷を受けたがそのまま漸く目隠しを剥ぎ取った残りの2人と対峙する。

こちらの決着は一瞬だった。

一息吐くと死体はそのままに奥へと進む。

黒の一族の死体ではない為隠蔽工作の必要は無いと考えた為である。


フローライトの牢獄までもう敵に遭遇するとこは無かった。

蜘蛛は嗅覚も優れているためドアの外から中に彼女が居るのは解った。

ドアを蹴り破り中に飛び込む。

床にそのまま横たわる彼女が居た。

ぼろぼろの布を纏っているがルーファスは彼女の腹に違和感を覚える。

それは迫出していた。

近寄ると手足の腱が断ち切られており喉には魔封じの魔法具がある。

喉も眼も潰されている様だった。

だが息がある。

その事にルーファスは安堵し小さく声を掛ける。

「フローライト様お助けに参りました」

ルーファスの声にフローライトは首を少し動かす。

彼女の意思を確認するまでも無くルーファスは下の2本の腕で彼女を抱き上げ今来た道を取って返す。

彼が思っていた以上に酷い状態だった。

駆けながら黒への呪詛を呟く。

行きは穏形が可能だったが帰りはフローライトを抱いている為正面突破になる。

極力戦闘より逃げを選ぶが攻撃の全てはかわせない。

残っている腕でフローライトだけには攻撃を当てまいと彼女を庇う。

不幸中の幸いは強敵と思える相手が居なかった事だ。

腕や背中に何十本もの矢や魔法を受けながらルーファスは走った。

まだ大丈夫、まだ走れるこのくらいで頑丈な蜘蛛の身体は壊れはしない。

自分でそう言い効かせる。



それは下の村と黒の一族が呼ぶ城外に差し掛かった時だった。

ルーファスは満身創痍だった。

ずり降りそうなフローライトを支える比較的傷の少ない腕に力を込め、意識を失うまいと奥歯を噛み締め、ふらつきながらも走る。


 ダ、、メ、、


微かな声だった。

「?」

腕の中のフローライトの身体が跳ねる。

「?! フローライト様?」


 ココニイナイト、、、

 アエナクナル、、

 ゴメン、モラウ、、


何かが確かにそう呟く。

取り落とすまいと支えるルーファスの腕の中でフローライトが仰け反り、何かがその中から落ちた。

フローライトの足から血が滴る。

まさか?生まれた?!

ルーファスは慌てて辺りを見回すが草むらに血の後はあるが赤子は見当たらなかった。

気のせいだと思うには彼の感覚は鋭すぎた。

もう少し探索しようかと迷ったが自分の体力も時間もそれを許してくれそうに無い。

仕方なくルーファスは黒の里を脱しようと走り出す。

もし御子だとしても彼にはフローライトの方が大事だった、彼女を助け出すのが最優先だったのだ。


ルーファスが白の陣営にたどり着くのと黒の里の異空間転移の術が起動し始めるのはほぼ同時だった。

白の一族を確認した時ルーファスは意識を失った。

だが、前に倒れこむことは無く彼はその場に座り込む。

最前線に居たのは白の王子の軍だった。

シュリアンはルーファスの帰還を知り緑の民にトライアントを呼ばせる。

その間もフローライトやルーファスに魔導士達が回復魔法を掛けてはいたがいかんせん傷が深すぎ焼け石に水状態だ。

慌しい戦場はそんな暇も与えないのか黒の一族が封じ込められるのを何とか逃れようと総攻撃を掛けてくる。

シュリアンはそれに立ち向かい最前線で戦う、彼の周りには白の一族の最精鋭が固め後方には全力で空間を閉じようと全魔術士が魔力を放っていた。

攻防は押され押し返し膠着状態に陥るが、じりじりと、だが確実に白の一族が押し返し始める。

とうとう押し切ったと思った時一際強大な攻撃が黒から放たれる。

その攻撃はシュリアンを打ち抜き、シュリアンは最後の力を振り絞り相手に一撃を返す。

これが決定打となり黒の里は異空間へ隔離された。

この辺りからシュリアンの記憶は定かではない。

この後、白の女王が全てを取り仕切る事となる。

フローライトとルーファスは緑の民の長トライアントに託され、シュリアンは分身を作った後リプルに入りそのままニニデに眠る事になる。



そして黒の里に残された赤子は深遠の森のリプルの中に転移していた。

彼一人の力では無理だったであろう。

彼は生れ落ちるとき片割れの妹から魔力をもぎ取りその力をも使い転移を可能とした。

かくして彼は下の村に生れ落ちることとなる。


魔力をもぎ取られた妹は聖域のリプルの助けとフローライトの犠牲いのちによって

無事生れ落ちることが出来た。

フローライトは自分が助かることより我が子を助ける事を願ったのである。

奪われた魔力も母から譲り受ける事となりグローリアは誕生する。


それが、、フローライト奪還の顛末であった。

そして彼らは再会する事となる。

兄は黒の魔法しか使うことが出来ず、妹は白の魔法しか使えない。

それは兄が根こそぎ彼女の魔力を奪った弊害なのだがむしろよい結果を生む事になる。

ルーファスは脱出時の無理がたたり6本の腕のうち4本の腕が完治せずリプルの中に吸収され2本の腕を残すのみの姿となったが。


それは一つの時代が終わり、一つの時代の始まりでもあった。



















少し短いのですが、、まぁ、無理やり伸ばすよりいいかな~と。

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