ニニデ解放 4 グローリア
その人物はリプルの中に居た。
落ち着くということを知らないグランは時間を持て余し神樹の周りを探索していた。
必然的にその人物を見つける。
その人物は大剣を背にリプルの中に座していた。
痩躯でありながら筋肉はしっかり付いており顔には隈があり耳は長い。
「蜘蛛、、だよなぁ、、どうみても
でも腕が2本しかないし何でこんなとこに?」
蜘蛛の腕は普通6本であるがリプルの中の人物には2本しかなかった。
グランと同じ混血というよりは純潔種にみえるのだが、、。
そこで、ふとトリストに聞いた『彼』を思い出す。
「トリスト、ちょっとちょっと」
どうせ、トリストも時間を持て余してるに違いなくグランは遠慮なくトリストを呼ぶ。
彼だとしたら、聖域のリプルに居るのも頷けるが、、、。
どうかしたのか?とグランの元に来たとリストもリプルを見て言葉を詰まらせる。
「こ、これ彼、、か?」
トリストも同じ結論に達したようである。
「やっぱ、だよね~
あのさ、トリストの話じゃ大戦当時の人だったんだよな?
、、、の寿命っていくらなんでもそんなに長くないよな?
せいぜい500年くらいのはずなんだけど、、、
けど、、生きてるよな?何で??」
素朴なグランの疑問であった。
「リプル、、聖域のリプルだから、、だな多分
そうか、、彼が生きているのか、、
それで親父の奴、、おかしいとは思ってたんだ
大戦時の剣士の筈なのにちっとも過去形にしなかったのは
リプルの中で生きていたからか、、」
「けど、なんでリプルの中に?」
「そりゃ、確か彼はフローライト様を救出した時に大怪我を負ったって
話だったから、、そのせいだろ?」
「、、、リプルって完治したら出られるんだよな?」
と、グラン。
「ああ」
トリストが頷く。
「、、、まだ完治してないのかな?
大戦って確か5000年以上前だよな?」
なんともいえない空気が2人に流れる。
「、、、そんなわけ無いよな流石に、、」
グランの呟きにトリストも同意する。
5000年かかっても完治しないということはありえない。
「いや、、そういえば
核、があるとか?」
ちらりとトリストがエクセルを見る。
視線を感じたせいもあるし会話が聞こえていた為エクセルが瞳を向ける。
一瞬だった。
「無い」
「早っ!!」
「即答かいっ!!」
「完治している筈なのに彼はリプルの実の中に居る、、
それは本人の意思なのか?
本当に不思議な実だな、、
5000年の時さえも包み込んでしまうとは、、幻羽婦人の慈愛の実か、、」
トウランスが感心する。
リプルは恩恵を受けている以上に謎が多いと思い知らされる。
その時だった。
リプルの中の剣士の目が開く。
同時に背後の湖の中の聖樹が光る。
「え?光った??」
「いや、こっちも眼が覚めた見たいだぞ??」
トリストがリプルに張り付くようにして覗き込む。
「、、、リスト?」
件の剣士が呟く。
「え?」
リストはトリストの父親の名だった。
「フ、、、っ!」
剣士の眼が見開く。
背後からトライアントと共にグローリアが現れ、それに気が付いた皆が一斉に驚く。
「ああ、もぅ
ぱっつん、ぱっつんですわね
窮屈ですこと、、ミルトナのサイズが合えばいいのですけど」
現れたグローリアはすっかり成人している。
子供の姿の時の衣装のままなので実に窮屈そうだった。
「ひ、、姫ーーっ?!
ですか??」
トリストとグランが同時に叫ぶ。
「ですわ」
グローリアはにっこりと微笑み答えた。
2人は急激なグローリアの変化が飲み込めない。
「あら、あなた方の後ろの方、、
ルーファス、、ですわよね?」
「フローライト様、、、いや、しかし、、」
蜘蛛の剣士ルーファスはリプルの実の中で困惑する。
フローライトを助け出したのは彼だった為誰よりもフローライトの状態を知っている。
何事も無い様な状態で現れる事など出来ない事も。
「流石母上の剣士ですわね
私のマナを感じて目覚めてくださったのね」
「母上? では貴女はフローライト様の?」
にっこりとグローリアが微笑む。
「私達が今こうしていられるのも母上を救い出して下さった
ルーファス、貴方のおかげですわ
心より感謝いたします」
そう言ったグローリアの髪の色と性別こそ違えどその顔立ちはエクセルと酷似している。
「お二人、、共、、
ではあの時黒の里で産み落とされたお子もご無事だったのか」
ルーファスの視線はグローリアとエクセルを交互に見つめる。
「うわっ、、、マジ双子だぁ、、」
グランの素直な感想だった、本当に2人は瓜二つなのだ。
フローライトの息子と娘は母親と同じ顔を持って生まれてきたのだった。
「なるほど
これが予言『黄金の乙女の復活』の正体ということですか」
イアロニの言葉にグローリアが頷く。
「そのようですわね
母上の復活ではなく、本来の私の成長
知らず知らず私自身が真実を受け入れることを拒んでいたようですわ
もう私に迷いはありません
貴方もそこから出て来て下さいますわね?ルーファス」
そう言ってグローリアはルーファスに手を差し伸べる。
「しかし、、俺はもう、、、
俺の主はフローライト様だけと、、」
リプルの中のルーファスは迷う。
知らず知らず無くした腕を擦っていた。
「ならば何故今この時に貴方は目覚めたのです?
時間はありますわ、その意味をよく考えてくださいまし」
そんなルーファスにグローリアは優しく微笑む。
「その間に私は着替えて参りますわ
もう、きつくって」
「お衣装なら我々の衣でよければ手配しますが」
トライアントの申し出にグローライトは首を振る。
「ありがたい申し出ですけど緑の一族の方々の衣装は動き辛そうですわ
向こうで待っているミルトナの元に参ります」
緑の一族の衣装は美しいのだが機能性に欠ける。
「兄上」
不意にグローリアはエクセルを振り返り言葉を続ける。
「母上は貴方を誇りに思っていましたわよ」
もう、兄と呼ぶのにも躊躇は無い。
「この方がそうですのね
母上が私達を見てくださったきっかけは貴方ですのよ」
トウランスの前で佇みそう微笑む。
彼を見つけたのはエクセル、そしてその想いの優しさにフローライトは心を開いた。
全ては彼が切っ掛けだった。
だがそういわれてもトウランス自身は何の事だが解らない。
グローリアとエクセルのみが分かり合ったように視線を交わす。
その様子をトリストは複雑な想いで見ていた。
成長したグローリアを見れば2人が兄妹なのは疑いようが無い。
だがそうなるとグローリアにも黒の一族の血が流れていることになる。
白の姫君に黒の血が、、。
納得出来ることではなかった。
いや、それでもグローリアに対する敬愛は変わらない。
今までの忠誠が揺らぐことは無い、だが、、。
「トリスト?」
その様子を不信に思ったのかグランが声を掛ける。
トリストからの返事は無い。
「トリスト!」
再度の呼びかけでトリストはグランに顔を向けた。
「なんだよ?考え込んでらしくないなぁ」
「え、あ、ああ」
そう、愚だ愚だ考え込むのは彼の性格ではない。
だが。
かといって直ぐに割り切れるほど黒の一族との確執は軽くは無い。
白の一族は生れ落ちたときから黒の一族を敵として認識するように教育される。
かつての大戦が、そして来るべき再戦がそうさせている。
トリストとて頭の中では十分理解しているのだ。
時間がかかるな、、とトウランスは思う。
心が追いつくまでの時間が、、、。
劇的な変化を見せたのはリューズだった。
今彼女の目の前にはミルトナの衣服を借りて身支度を整えたグローリアが居る。
「ミルトナ、少し胸が苦しいですわ」
そういわれてもミルトナはすいませんと謝るしかない。
自分だとてそう小さい胸ではないと思うのだが成長したグローリアは見事なプロポーションの持ち主だった。
リューズもつい自分の胸を見てしまう。
見事にペったんこに近い。
彼女の年齢からすれば致し方ないことだがそれでも気になるのは仕方ない。
「姫、、あの、、」
「でもまぁ、仕方ありませんわねさっきよりは随分ましですわ」
子供の服を脱ぐのにも苦労したグローリアだった。
仕方なしに脱ぐというより切り裂いて自由になれたのだ。
「いえ、、その、、」
だがミルトナは困惑していた。
「これが本来の姿ですわ
私ミリトナよりずっと年上ですわよ?
覚えていませんの?」
ミルトナや親衛隊の困惑を察しグローリアが語りかける。
そう、彼女たちがグローリアに始めて謁見した時グローリアは少女だった。
彼女たちはその時はグローリアより幼かったのだ。
だが、ミルトナ達が成長し親衛隊に選抜された時もグローリアは少女のままだった。
「しばらくは見慣れないでしょうから戸惑う事も多いと思いますけど
直ぐに慣れますわよ」
そう言ってグローリアは微笑む。
てっきり外見から自分より年下だと思っていたリューズはその事に驚く。
が、考えればグローリアはフローライトの遺児だ。
大戦時に生まれたことになる。
つまり5000年以上前にだ。
見習いという以前に白の一族でも格式の高い家の出身でもないリューズには雲の上の存在だった。
勿論王子共々名前は知ってはいたが遭った事さえ無かったのだ。
しかし、こうしてみると本当にエクセルとそっくりだった。
まるで光と闇の双子のようだ。
自分とミューズと同じ、、、。
そう考えると親近感がわく、不敬なことだとは思うけど同じなんだと思う。
エクセルに対する恐怖は嘘のように無くなっていた。
黒に囚われた自分の片割れ双子の妹。
ミューズは生きている、自分には確信がある。
絶対に助けるんだと新たにリューズは誓っていた。
「お前、、トリストと言ったな?
俺の知っている奴によく似ている、、名前もな
一瞬あいつかと思った」
ルーファスがぽつぽつとリプルの中から語りかける。
「親父だ
リストは俺の親父だよ
あんたの事友達だって言ってたぜ」
ト・リストとは小さなリストと言う意味がある。
「そうか、、リストの息子か
奴は元気か?」
「ああ、ぴんぴんしてるぜ
今は新大陸の方へ探索に出てるが、、ありゃ殺しても死なないと思うぜ」
大概な言い草だった。
「ふふふ、、そうだな
あれから随分と経っているようだが俺は何年この中に?
100年くらいか?」
リストを思い浮かべながらルーファスが問う。
「5000年、正確には5268年だ」
代わってイアロニが答える。
ルーファスはその数字に愕然とする、途方も無い年月だった。
「5268年、、そんなに、、そんなに生かさせて貰ったのか
本来ならとっくに土に戻って跡形も無いな、、」
額を押さえ自嘲じみた笑いを漏らす。
「きっと意味が、、
リプルは幻羽婦人の慈愛の実
グローリア姫が覚醒した時に5000年の時を超え貴方が目覚めた
その事にきっと意味があるのだと思う」
トウランスが堪りかねたようにそう語る。
奇しくもグローリアが言った言葉と同じだった。
ルーファスの瞳に光が宿る。
「俺に、、もう一度戦えと?
この2本の腕しか残ってないこの身で
もう一度主を持てと?」
その声は微かに笑っている。
ザンっ!とリプルの実が割れる。
大剣を担ぎルーファスがその実から現れる。
「御しがたい誘惑だな
御二方ともフローライト様に似すぎている
姫など本人にしか見えん」
ルーファスはエクセルの前で一礼する。
「以後お見知りおきを
微力ながらお二方にこの身を、、」
「関係ない」
ルーファスが言い終える前にエクセルはそう遮った。
「俺の親など俺は知らん
あの女についてやるといい
もし仮に俺たちが兄妹だとしても
俺には黒の魔力源しかないしグローリアには白の魔力源しかないだろう
そう言うことだ」
「姫は白でお前は黒、、そう思えと?」
トリストはエクセルの言葉に驚く。
「混じりあわず2つにぱっきり分かれたってか?
んな馬鹿な、、」
グランが呆れた様に続けるが、トリストはその言葉に飛びついた。
確かに馬鹿げているし有得ない。
だが、、心の整理が付くまではそう思わせて貰えると有難かった。
エクセルがわざとそう言ったのも解っていたが今のトリストには有難かった。
そんなエクセルをトウランスはなんとも言えない想いで見つめる。
この男はどれだけ自分を顧みず相手を思いやるのだろう。
グローリアの為に自らは泥を被る気なのだ、、。
兄として、、、。
「おいおい、なんて表情をしている?」
トウランスの様子に気が付いたエクセルが困った様に笑う。
それでもトウランスの表情は変わらない。
仕方ないなぁとばかりにトウランスを見るエクセルは不意にトウランスに顔を寄せる。
コツンと額を合せるように覗き込む。
「甘えさせてくれるか?」
とニヤリと笑う。
「へっ?」
キョトンとした表情でトウランスはエクセルを見る。
「な?なな?」
とたんにずささっと後さする。
その様子をエクセルは可笑しそうに笑い、トリストとグランは何事?とばかりに
「どうしたの?」
グランが飛び込んでくる。
「別に」
涼しい顔でエクセルが嘯く。
トリストはなんだかなぁ、、とばかりにため息をついている。
いつの間にか空気が変わっていた。
なんだか和気藹々とした雰囲気になっていた。
「あらあら仲がよろしいこと」
そこに着替えたグローリアが現れる。
傍に控えていたルーファスが静かに一礼する。
「出てきて下さいましたのね」
にっこりとグローリアはルーファスを見る。
「微力ながらお仕えさせて頂きます」
「私の隊は男子禁制なのですけど
ルーファスもグランに続き特別ですわね♪」
楽しそうにコロコロと笑う。
ルーファスを従えたグローリアはまさにフローライトの再来としか見えないと
トライアントもイアロニも思う。
黄金の乙女の復活はかくして再現されたのであった。




