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ニニデ解放 4 復活 

トライアントの導きに従いどんどん奥へと分け入る。

どうやら最深部に向かっているようである。

グローリアさえここまで奥深くへ案内されたのは初めての事だった。

いつもは母の墓標に赴くだけである。

そこに母は居ないがそれを咎めようと思ったことも無い。

フローライトは神樹の中に安置されている。

緑の聖地の最深部にある神樹は緑の民、白の一族にとっても神聖な物だと承知していた。

故においそれと案内してもらえる物では無いのだ。


だが、トリストやトウランスは知らない。

トリストはどんどん奥に進むトライアントの背を見ながら

案外簡単に迎え入れてくれるんだなと拍子抜けしていた。

王子の言葉や古参の白の重鎮達の言葉から緑の一族はもっと排他的だと思っていたのだ。

と、目前を歩んでいたトライアントが振り返る。

「申し上げておくが、今回の事は実に異例であることを

 ご承知おき頂きたい」

「え? あ、、いや、、はぁ、、」

間の抜けた返事をしてしまう。

今、自分は声に出してしまったのか?

失言したとばかりにあせるトリストをグローリアが冷めた目で見る。

トライアントには思念を読む力があるのをグローリアは知っていた。

緑の民自体に思念を共有する能力があるのだが、長であるトライアントは多種族の思念をも読み取ることが出来る。

彼の前で偽りは通じない。


周りを包み込んでいた木々が途切れ目前に大きな湖が現れる。

その湖の中心に神樹はあった。

島とも見える巨大な神樹は悠然と湖に浮かび、神々しい光が取り巻き幻想的な姿を見せている。

「えっと、、飛ぶのか?」

神樹に近づくには飛ぶしか方法は無いように見えた。

湖には橋も船も無いからだ。

トリストの呟きに答えるかのようにトライアントは太古の呪文スペルを唱える。

目前の湖畔から根のようなものが水を割り現れ、それは橋のように神樹まで続いた。

驚く一同にトライアントは振り返り

「ここからは姫と黒衣の方だけで

 後の方はここでお待ちいただきたい」

と、伝える。

流石に神樹までは案内して貰えないらしい。


「ここで?

 しかし、、、姫と、、」

トリストはちらりとエクセルを見る。

待機するのはかまわなかったがグローリアと黒の一族のエクセルと2人だけにすると云う事に抵抗を隠しえない。

「俺は行かん」

が、エクセルはトライアントの誘いを断る。

「トウランスの傍を離れる気は無い」

そう断言する。

「しかし、それでは母上の、、」

真実を知らなくていいのか?とトライアントの目は問う。

「生憎だが俺はそんな事に興味は無い

 答えが必要なのは俺ではなくそいつだろう」

エクセルがグローリアを見やる。

グローリアはそんなエクセルを挑むような瞳で見ている。

だが、そのまま言葉を交わすことなくグローリアとトライアントは神樹に向かった。



残された者は思い思いに待機する。

ミルトナ達グローリアの親衛隊はリューズを連れ少し離れたところに腰を下ろす。

湖畔に残ったのは、トウランス、エクセル、グラン、トリスト、イアロニの男性陣だ。

トリストは樹に背を預け佇むエクセルを隠れ見るように目の端に留める。

彼が共に行こうとしないのが意外だった。

緑の長、白の姫、神樹の3つの白の要を破壊する絶好の機会であったろう。

だがエクセルは動かなかった。

トウランスの言うとおり黒の間者ではないのかも知れない。

それにトライアントは迷うことなく彼を連れて行こうとした、、。

本当に、この黒の魔術師がフローライト王女の遺児だというのか、、、。

それが真実だとしたらグローリア姫に忌まわしい黒の血が流れていると云う事になる。

もし、それが事実だとしても姫に対する忠誠は揺ぎ無い。

だが、、この男を白の王族として迎えることが自分に出来るのか?

正直自信が無かった。


「あのさぁトウランス

 俺、どう考えても解んないんだけど、、」

グランが理解が追いつかない現状をトウランスに訊ねて来る。

「ん?」

「えっとさ、つまりフローライトって人が母親なんだろ?

 で、黒の里でエクセルを生んで

 それって前大戦で黒に捕まっていた時なんだよな?

 んで、逃げ出す時に重症を負ってそのままリプルって実の中で

 グローリア姫を生んだって事は、つまり双子って事だよな?

 どう考えても無理があると思うんだけど、、」

双子を生むのに多少の時差があるのは理解できる、が。

グローリアは可憐な美少女、エクセルはすでに成人した美丈夫だ。

多少の時差ではすまない。

2人はどう見ても双子には見えない。

「そうだな、、だが、、、」

トウランスはそう呟きエクセルの前に立つ。

「エクセル、本当は君も気が付いていたんだろう?

 何時からだ?」

トウランスにそう言われエクセルは困ったような表情を浮かべる。

「、、、そうだな

 あの技を使えた時に、、かな

 白と黒の魔力の源を持つお前なら使えると思ったが

 唯一使えたのがあの姫だ

 加えてユーリィエの言葉、、

 つまり必要なのは白と黒のマナ、そう思い至った時だな」

「本当にフローライト様の身下に行かなくていいのか?」

トウランスは咎めるような表情でそう詰め寄る。

「ああ、かまわん

 トラウマになっているのはあいつの方だ

 俺は親の事等とうに割り切っている

 だが、、あいつは、、」

グローリアを思いやるかの様に眼を伏せる。

「トラウマ?姫が?」

「って、、何?」とはグラン。

「まもなく答えが出るだろう

 本当に兄妹なのかそうでないのか、、、な」

その様子を時の語り部であるイアロニは黙して見つめている。

トウランスもそう言われてはそれ以上エクセルを説得する事は出来なかった。

グランは眉間にしわを寄せ腕を組み考え込む。

「さっぱりわかんねーや」

それが彼の素直な感想だった。

仕方なしにぶらぶらと辺りを探索し始める。

じっとしていると言う事がどうにも苦手なのだろう。



神樹はグローリアとトライアントをその内部に招き入れた。

巨木の内部は空洞となり小さな池を湛えている。

外の湖と違い内部の池はうっすらと緑色をした透明な液体が淡く発光している。

普通の水ではないようだった。

そして虚の中なのに内部には光が差し込んでいる。

上部は幹で光を通す筈が無いのに非常に明るかった。


グローリアは黙って不思議な光を放つ池に近づく。

この中には母が眠っている筈だった。

眉をひそめ搾り出すかの様な声で呟く。

「、、、分かりませんわ

 何が解き明かされますの?

 母上は黙したまま何も教えてくださらないのに、、、」

「姫?」

「分かりませんわ

 何故、母上はわたくしを御産みになったの??」

グローリアの口から出た初めての母への疑問であった。

自分を生んだことへの否定である。

「姫?!」

トライアントが嗜める、が。

「そうではありませんの?!

 わたくしは望まれた子供ではありませんわっ!!

 あの方とわたくしは兄妹なのでしょう?

 緑の民の長である貴方には私達に判らぬことも見える筈ですわ!

 兄妹ならば我々の父は黒の一族ですのよ?」

手をきつく握り締めグローリアは叫んでいた。

その瞳からは堪えていた涙が零れ落ちる。

「母上が黒の一族と恋に落ちた等とは到底思えませんわっ!

 黒の里に囚われた時に辱めを受けたとしか、、、

 わたくしは、、わたくしは穢れた子供なのですわっ!

 母上に呪われこそすれ望まれた筈が無いではありませんのっ!!」

陵辱され身篭った児を望む者など居ないとグローリアは叫ぶ。

「グローリア姫!! 何を、、」

だが、トライアントは彼女の言葉を否定しようとした。

「母上は何も話しては下さらない、、

 わたくしは母上に抱かれた事もありませんわ、、」

「それは、、

 フローライト様は姫のお命を守るために、、」

「ええ、存じておりますわ

 母上は私を御産みになる為に御自分の命を下さった、、

 死産になるであろう私を助ける事を選ばれた、、」

グローリアを身篭ったフローライトは重症の己を治すか

其のままでは死産を免れなかったグローリアの命を救うかの二者択一でグローリアの命を優先したのである。

聖域のリプルの実とはいえ2人の命を救う事は叶わなかったのだ。

グローリアは生まれ、フローライトは死したのである。

「それは、、わたくしを愛おしいと思ってくださったから、、

 そう信じて、、、いえ、そう信じたいと思っていました

 でも、真実は、、母上しかご存知ではない、、

 そうではありませんの?」

グローリアはその場に泣き崩れる。


「母上は、、白の一族の王女である母上は

 幼子の命を救うという責任感だけでわたくしを助けてくださったのかもしれません

 母上は白の一族の慈愛の光、、

 そんな母上ならば、、母上だからこそ、、、

 ずっと、そうではないかと、もしかしたらそうなのかもしれないと

 ずっと心のどこかで、、わたくしは、、、」

愛情ではなく使命感で自分を救ってくれたのは無いか?

そういう思いがずっと心の隅にあった。

わたくしは怖いのです、、、トライアント様

 真実を知るのが、、、

 知りたい、、本当の事を母上の口から母上の言葉で、、

 知らなくてはならないと思うのです、、

 でも、、聞きたくないのです、、

 きっとそれは残酷な真実だから、、」

自分が母に愛されてなど居なかったという真実がグローリアは怖かった。

蹲り肩を抱きしめ咽び泣くグローリアにトライアントはどう言葉をかけてよいのか迷う。

確かに真実はフローライトにしか判らない、だがトライアントはそうではないと信じている。

フローライトが使命感だけで我が子を助けたとは思っていない。


と、水面から小さな音を立てて蕾が現れた。

トライアントがそれに気付く。

後から後からその蕾は水面を押し破りチリンチリンと涼やかな音色にも似た音を立て現れる。

夢想花。それがその花の名だった。

そして特別な力を持つ花だった。

トライアントはそれがフローライトの意思だと察する。

「姫、それでも真実を知る勇気が御有りか?」

トライアントは静かにグローリアに問いかける。

「夢想花が咲く今なら姫に真実を御見せできる

 この池はリプルの樹液、そして夢想花は思いを伝える花

 夢想花の咲く今なら私の力でフローライト様の記憶を伝えて差し上げられる」

その言葉にグローリアは水面に現れた無数の蕾を見る。

「確かに、、残酷な事実かもしれない

 ですが、、」

トライアントは知るべきだと告げる。

「そう、、、ですわね

 逃げても何の解決にもなりませんわね、、、」

自分はグローリア、白の王族の姫、それが真実ならば受け入れなければなるまい。

「お願いいたしますわトライアント様

 わたくしとしたことが取り乱してしまい申し訳ありませんわ」

涙を振り切り気丈に微笑む。

その姫を頼もしく思いトライアントは手を差し伸べた。

「手をおとり下さい」

グローリアはその小さな手をトライアントの手に重ねる。

「姫

 フローライト様は救出されたとき重体だったため何も語ることが出来なかった

 そうお話したが正確には少し違う

 フローライト様は舌を切断されていました

 おそらくは自害させない為でしょう、、

 リプルの実でも欠損した傷を再生出来はしない、、

 語りたくとも語ることが出来なかったのです

 辛い、、記憶だと思う、心されよ」

トライアントの言葉にグローリアは唇をかみ締め頷く。


そしてトライアントに導かれグローリアは共に入水する。

リプルの樹液は彼女を受け入れ、水中に無数の夢想花が漂いグローリアとトライアントに絡みつく。

グローリアが眼を凝らすと少し先に母の姿があった。

リプルの樹液はまるで生きているかのようにフローライトを美しい姿のまま守っている。

そのフローライトにも幾重にも夢想花が纏わりついている。

トライアントの周りの夢想花が蕾を綻ばせ咲き誇り、、。

 -フローライト様

  真実は苦く辛辣な物かも知れない

  だが私はグローリア姫を産み落とされた時の

  貴方の誇らしげな満面の笑みこそが真実だと信じている、、


そしてトライアントはフローライトの記憶をグローリアに伝え始めた。

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