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ニニデ解放 3 黒のコロッセオ 2

コロッセオの傍にそびえる黒の砦城の一つ、その中の共同医務室の一角。

アロンは横たわるミューズを見つめていた。

ロリアンの攻撃を受けたミューズは生きていた。


いや、攻撃と言った物では無かったとアロンは考える。

意識を刈り取ったに過ぎない。

つまり王子はミューズを庇った訳だ。

あの時あのままアルカシア候女と戦って居ればアルカシア候女も無傷では済まなかっただろうが、ミューズは確実に屠られていただろう。

なぜ?という思いが募る。

王子にとってミューズは名も知らぬような白の小娘だ。

確かにエクセル様によって生き返ったという特殊な女ではあるが、、。


僅かにミューズの瞼が動く。

「う、、」

小さな呻きと共にミューズの眼が開く。

一瞬理解が追い付いてないような表情を見せたかと思うといきなりベットから半身を起こす。

自分の顔や肩を確認するかのように触る。

包帯やら絆創膏やら傷だらけではあるがちゃんと治療されており、動くに差しさわりの在る様な深い刺傷はない。

「私は、、生きているのか?」

ミューズの第一声はそれだった。

自分でも何故生きているのか信じられなかったのだろう。

あの時ロリアンが立ちはだかった時ミューズは死を覚悟した。


2度目の死だ、生に執着が全く無いとは言わないが常人よりは希薄なのも事実だ。

自分を狂気の淵から救った記憶にミューズはしがみ付いている。

その記憶を捨ててまで生きようとは思っていない。

彼女にとって死は生きる事とさほど変わらない。

ロリアンの手で殺されるなら本望だった。

「どうやら王子はお前を生かしておくおつもりらしい」

腕組みをしミューズを見下ろす形で医療ベッドの傍に佇んでいたアロンがそう語る。

「王子が?」

何故?と続く言葉を飲み込む。

どうせアロンに尋ねても彼も解らないと思ったからだ。

むしろ彼も困惑しているのだろう、表情がそう物語っている。

理由は解らないが王子が生きよと仰せなのなら自分は生きねばならない。

ミューズは誓うかのように硬く目を閉じた。


不意に強大なマナを感じ取り、アロンとミューズはほぼ同時に医務室の扉へ振り向く。

回廊に静かな足音が響く。

その人物が扉を潜る前にミューズはベットを飛び降り、アロンもその場で跪く。

「眼が覚めたか」

そこには王子ロリアンその人が居た。

「王子」

2人は同時に叫び平伏す。

「名は?」

「ミューズ、、と申します」

『ミューズ』とは自分が呟きエクセルが付けた名だ、本名かどうかは解らない。

だが自分に名があるとしたらミューズ以外に答えようがない。


「2度も私を裏切れぬ、そう言ったな?」

「は、はい」

伏し目がちにミューズは即答した。

「エクセルは、私を裏切ったのか?」

冷たい眼だった。

ミューズは手を握りしめる、いつの間にか冷や汗が出ていた。

「はい

 いえ、、それは、、、解りません」

そう彼女に解る筈も無かった、ただ、、。

「私に解るのはエクセルが貴方を裏切るわけが無い、、

 ということだけです」

だが、彼は裏切ったのだ。

「そう!エクセルが貴方を裏切る訳が無い!!」

顔を上げミューズは叫んでいた。


「私には、、何も無い、、記憶も姿形も私の物は何も残ってはいないのです、、、

 私に残って居るのは殺された時の渦巻くどす黒い憎悪だけ、、、

 私自身と言える物はそれしかないのです!

 だけど、、、ここに暖かい想いがある、、、」

ミューズは胸を両手で押さえた。

「勿論私の物ではありません

 これはエクセルから受け継いだ彼の記憶

 私の中で彼の記憶だけが暖かい、、

 私が正気を保っていられるのはこの記憶の御蔭なのです

 この記憶の暖かさが無ければ私はとうに狂気に身を任せていました

 それほどエクセルの記憶の中の貴方の存在は大きい!

 荒んだ私の心を救うほどに余りある貴方への忠節と友情に溢れているんです!

 この思いは偽りなのでは決してないっ!

 偽りの思いなら私はこれほどこの思いに縋りはしなかったでしょうっ!!」

ミューズの両眼から涙が零れ落ちる。

叫びは悲痛な声となっていた。

ロリアンはそんなミューズを唯静かな眼で眺めている。


「だが、、奴は裏切った、、、

 それは紛れもない事実なのでしょう

 貴方への友愛も忠義も偽りでは無い

 なのにあなたを奴は裏切った、、、

 私には解らない、、解らないんです、、、」

勿論ミューズに解るのはエクセルの表面に現れた微かな記憶。

エクセルの堅く閉ざし誰にも明かさなかった運命さだめの記憶はミューズには解らない。

魂に刻み込んだ彼の願望は解るはずが無かった。


遙か昔、まだ彼らが生まれる前に母の胎内で見た運命の主。

無垢な魂が助けたいと願った相手。

その相手が現れたという事に気が付く筈が無かった。


「だけど、、私に解らない何かが在ったのかもしれません

 心の奥に閉ざした何か、、、

 大切な、、何物にも代えがたく自分よりも大切だと思う何かが、、、」

それでもコピーされた魂の欠片がそう告げたのだろうか?

ミューズは我知るとなくそう呟いていた。

そんなミューズをロリアンは黙して見つめる。


エクセルが作った譲渡魔法により生き返ったという少女。

真っ直ぐな黒髪大きな眼、その容姿はエクセルと似ても似つかない。

だが、、瞳の色は同じ金色こんじき

僅かに少年時代のエクセルを連想させる。

ーお前に何かあったら使ってやろうと思ってなー

自分を助けるために作った呪文スペルだとエクセルは言った。

埒も無い戯言だと一笑したがあれは本心だったのだろう。

ロリアンもエクセルの忠誠を疑った事は無い。

忠誠というには少し違うかもしれない、臣下という立場だったが2人は対等の関係だったのだから。

性格も嗜好も全く違う2人ではあったが不思議と馬が合った。

王子である自分に黒の一族は皆畏怖を感じている。

立ち居振る舞い言動に隠そうとしても必ず見え隠れする恐怖と敬意。

正直煩わしくも厭わしくもある。


だが、エクセルは違っていた。

平気で軽口を叩き敬う気など微塵も無いとさえ思える態度で接してきた。

確かに実力に裏付けされた自信もあったのだろう、だが思い起こせば出会った当初からそうだった。

下の村の孤児で在りながらその態度は堂々とし媚び諂う事など皆無だった。

王子と解る前も解ったともその態度に変わりは無かった。


か弱き者を慈しみ愛でると言う奴の性癖には正直呆れてはいたがそれさえも不快では無かった。

そう言えばエクセルが頑固に譲らぬ癖があったなと思い出す。

そう、、理想の姿を描くと言う癖が。

幻羽世界から連れ帰ったという男、、、思えばあれからエクセルの態度が妙だった様に思う。

わざと固執してはいないと見せていたような気がする。

ロリアンの瞳がすうっと細まる。

白の羽虫の誑かされたか、、、と。


黙したままミューズたちに背を向けロリアンはその場を後にする。

扉を抜ける際に一言残して。

「追って命を出す、まずは厭え」


規則正しい足音で遠ざかるロリアンにミューズは平伏する。

余りの嬉しさに両目から涙が零れ落ちた。

生きよと命じられたのだ。

エクセルの中にあった忠義心はそのままミューズに刷り込まれている。

ロリアンの為にこの身を捧げる、改めて彼女はそう誓った。


一人回廊に出たロリアンはエクセルを思う。

戯言を改め我が元に戻るなら良し、総てを許そう。

だが、、もし我を通すというのなら、、、。


ロリアンの口元に笑みが戻る。

そう、、その時はこの手で屠り蘇らせてやろう。

エクセルが作った譲渡魔法で、、、。


お前は私の傍に居るべき者なのだから。

















短いのですがきりが良いので、、。

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