ニニデ解放 3 緑の聖地へ
「大猟♪大猟♪」
肩に捕まえた獲物を束にして担ぎ両手にも2匹ずつ鳥を捕まえたグランは意気揚々と皆の元に戻った。
言わずと知れた食料調達である。
「ご苦労だったな グラン」
そんなグランにトウランスが労う言葉をかける。
転生の狩人で在るグランは普段からほぼ手ぶらで旅をしている。
剣と腰の小袋に入った万能ナイフ、乾燥した薬草、香辛料、火打ち道具と貨幣それがグランの持ち物だ。
眠るときは樹の枝で、食料は野鳥を狩るので装備は不要だった。
トウランスはそう言う訳にもいかないのである程度の荷物は必要なのだが今はグローリアの一行の予備の装備を使わせてもらっている。
当然グローリアは携帯食料も持参しているが獲物が狩れたらそちらの方がありがたい。
という事でグランが進んで獲物を狩りに行っていたという訳だ。
グローリアの配下の女性に獲物を渡しトウランスの傍に戻るがどうも空気が重い。
トリストは剣呑な眼でエクセルを睨んでいるし、ミルトナ初めグローリアの親衛隊も遠巻きに厳しい視線を向けている。
グローリアも沈黙を保っている。
「うわっ、、なに?これ、、空気重っ!
ずっとこんななのか?リューズ」
声をかけたリューズも両手を握りしめどうにか震えを抑え込んでいる様な状態だった。
グランは途方にくれた様な眼で当たりを見渡す。
居心地が悪い。
当のエクセルは意に冠せずと言う風情で樹に凭れている。
もう一人吟遊詩人だと言うイアロニまで付いてきていた。
ぷるぷると首を振り気を引き締めるようにパチンと両頬を叩き鳥を処理している魔術士の傍に行き羽をむしるのを手伝う。
どうにかしたいが自分の手にはあまりそうだ。
グランは考えるよりも体を動かす方を選ぶ。
リューズの様子を見ながら無理もないとトウランスは思っていた。
白の一族にとって黒の一族は恐怖の対象だ。
良かれと思って同行を願ったが来るべきでは無かったかもしれない。
トウランスはエクセルがシェラを倒した魔術士ではないかと思っている。
もしその事をトリストが気付いたらもっとややこしい事に為るだろう。
だが、ユーリィエの為に緑の聖地へ向かわねばならない。
それに、、ユーリィエの言葉が気にかかっていた。
在り得ないと思えば思うほど引っかかっていた。
もしかしたら、、、と。
長い沈黙を破ったのはトウランスだった。
「すまない、、君に居た堪れない想いをさせて、、、」
エクセルに謝る。
「何か気に病んでいると思ったらそんな事か
心配するな、慣れているから俺は気にならん」
穏やかに微笑んでエクセルがそう答える。
「え、、?」
意外な答えだった、彼ほどの魔術士なら優遇こそされ冷遇される事など考えにくい。
「黒の中でも俺は異端だったからな
出る杭は打たれる物だ、煙たがられる事など日常茶飯事だったぞ」
色々思い出したのだろうその顔には苦笑が浮かんでいる。
パチパチと火が爆ぜり鶏肉が焼ける匂いが漂う。
声も無くトウランスはエクセルを見つめていたがそのエクセルの表情がふと真顔に代わる。
「 、、、一人だけ友と呼べる奴がいたが
今度見えた時は敵だな
奴は俺を許すまい」
すっと眼を細めロリアンを思う。
そんなエクセルの前にぬっと焼けた鶏肉が差し出される。
脂がのり肉汁が滴っており、焼く前に塗された香辛料が食欲をそそった。
「安心しろよ、毒なんて入ってないから」
憎まれ口を叩きながらグランが促す。
「いい色に焼けているな、頂こう
ついでに言うが俺に毒は効かんから心配など必要ない」
「は?」
「大抵の毒には慣らしてあるから耐性が出来ている」
焼き鳥を口に運びながらさらりという。
「慣らす、、って、、何でそんな事、、、」
自分で毒を摂取するという行為にグランは違和感を感じる。
「それが黒の世界、、という事なんだろう
身近に毒殺という行為があるんだろうな」
ぽつりとトウランスが答える。
「仲間内で?いくら黒の一族でもそんなの何の徳があるっていうのさ?」
信じられないと言う表情で言い返すグランをエクセルは面白そうに見る。
「なんだよ?」
その視線が気にかかるのかグランが問いかける。
「いや、美味い肉だな」
エクセルに答えをはぐらかされたのがグランにも解る。
つまり先ほどの笑みは平和だなと馬鹿にされたという事だろう。
グランは自分の半生が甘やかされてきたとは思っていない。
むしろ幼少時には常に死が隣り合わせにあった。
だがそれでも確かにトウランスと出会ってからは守られて育てられたのも事実だ。
それまで与えられた事の無い慈しみと愛情、教育と信頼を惜しみなく注いで貰った。
幼少期の悲惨な時期でさえ積極的にグランを殺そうという行為はなされてはいない。
結果的に死んでしまうのは仕方ない、、という受動的なものだ。
殺してやろうと言う意志で暴力を振るわれたり毒を盛られたという事は無かった。
むっと口をへの字にしながらもエクセルの言うとおりなのだろうとしぶしぶ納得する。
自分は黒の世界をあまりにも知らないという事だ。
「グラン、彼等黒の一族は日常的に命のやり取りをしている
師に聞いていた通りだ
だから黒は強い、、、」
「トウランス!
それは白は甘っちょろくて弱いとでもいいたいのか?」
トウランスの言葉にトリストが食いつく。
「俺は根本的な認識の違いを言っている」
トウランスも引かない。
「確かに個々の強さを競えば白の一族は黒の一族に劣るかもしれん
だがスタンドプレーが多い黒に対して俺達はチームプレーで当たる事が出来る
黒の王が居ない今奴らを纏める者が居なければいくら力があっても同じだ
結局前大戦もそれが勝負を決めたんだ」
トリストも譲らない。
「ロリアンがいる」
そんな2人にエクセルが割り込む。
「奴は黒の王を凌ぐ
そんな考えは持たぬ方がいいぞ」
「ロリアン?」
初めて聞く名前にトリストが反応する。
トウランスもグローリアも同じくエクセルを見つめる。
当のエクセルは落ち着いた様子で焼き鳥を食べながら話を続けた。
「黒の王子だ
奴がもう少し早く生まれていれば前大戦の結果も変わっていただろう
今、黒でスタンドプレーをやりたがるのは一部の「候」と呼ばれる
黒の王の子供達ぐらいなものだ
だがその候達もロリアンが命じれば従順に従う
王子の命令は絶対力を持つ」
「候?って、、王の子共なら同じ王子じゃないの?」
グランの素朴な問いが出る。
「黒の王の子は数十人いるが王子と認められたのはロリアンだけだ
王をも凌ぐ力を持って生まれたのは奴だけという事だ」
「数十って、、、白の王の御子は母上とシュリアン様2人だけだと言うのに?」
信じられないと言う風にグローリアが口を出す。
「事実だから仕方ないな
まぁ、一応候の奴等もそこそこの力は持っているから気を付けた方がいいぞ」
肩をすくめエクセルがそう語る。
黒の王を凌ぐ王子に王の力を受け継ぐ数十の候、候女、、。
トウランスはじっと己の手を見つめため息をつく。
「トリスト、剣は余っていないだろうか?」
「ん?」
いきなりの問いかけにトリストが怪訝な反応を示す。
意図が解らないと言う風に。
「あ、剣と言えば
これ、、気になってたんだけど聖剣なんだろ?
俺が持ってていいのかな??」
グランが割り込み腰に刺していた細身の聖剣を差し出す。
「ああ、例のケルビム退治の
どれ?」
差し出した聖剣をトリストが受け取る、が
「!!」
柄を握った途端電流が走り落としてしまう。
剣は鞘に入ったまま地面に突き刺さった。
「何?」
グランが怪訝な表情をする。
「今、、ビリっと来たぞ?」
そう訴えるトリストを見ながらグランは柄を持ち剣を拾い上げる。
何の異常も感じない。
「別に?」
不思議そうな面持ちでトウランスも柄に手を伸ばすが寸前で手を引き戻す。
「!!」
持とうとした手に電流が走った。
「トウランス?」
「結界の様な物がある、、、俺には持てそうもない」
電流を感じた指をさすりながらトウランスがそう答える。
「結界って? 俺なんともないけど??」
そんな2人と剣を不思議そうに交互にグランは見ている。
「あ、でもそう言えばこれくれた人が
「幻羽人なら従う」って言ってたっけ
あれ関係あんのかな?」
今さらながらの申告だった。
「大有りだ!馬鹿もんっ!」
そう言う事は早く言えとばかりトリストがわめく。
「古の一族には従わぬ剣か、あの方らしいな」
それまで沈黙を保っていたイアロニがくすりと笑みを漏らす。
彼には聖剣を置いた者に心当たりがある様だったがそれ以上語ろうとはしなかった。
焼き鳥をちまちまと頬張っていたグローリアが思いついたように顔を上げる。
「丁度よろしいですわ
グランその剣を貴方の任命の剣を致し貴方に与えますわ!」
どうやら任命式に鈍らの剣しか与えなかったのを気にかけていたようだ。
「おっ♪ いいの?」
「聖剣なら申し分ないですわ
それともあなたはご不満かしら?」
「全然っ!
この剣こんなに細いのに切れ味良くってさ
気に入ってたんだ♪ ラッキ~♪」
破顔一笑、不満などあるはずが無いと上機嫌で細身の剣を抱きしめる。
「んじゃ、トウランスこっち使えよ
これ俺使わないから」
グランはそう言って今まで愛用していた剣を惜しげもなくトウランスに差し出す。
トウランスはそれを受け取った。
使い込まれた剣はしっくりと手になじむ。
「剣をどうする?」
エクセルがそんなトウランスを不思議そうに眺める。
「魔法力は当分戻りそうにないから
足手纏いにならないように、、な」
トウランスは剣を抜きなじみ具合を確認するかのように2、3の型を確認する。
「良い剣だなグラン」
決して高価な剣という訳ではないが手入れの行き届いた剣だった。
「 、、、俺がいるのに」
エクセルが不満げに呟く。
「ははっ それはありがたいが
これで丸腰より少しは気休めになる」
トウランスは苦笑しながらそう答えた。
エクセルが自分の剣になり盾となると言った言葉を信じない訳でも忘れた訳でも無いが
いざとなれば魔法無しでも戦える術が在るのと無いのとでは大違いだ。
「トウランスさん、、剣を使えるの?」
リューズが恐る恐るグランに尋ねる。
先ほどトウランスが見せた形はぎこちなくも無く変に癖がついているでもなく綺麗な形だった。
「俺に教えてくれたのトウランスだもん」
グランはそんなリューズに即答する。
「いつもは魔法で剣だすんだけどな」
そう付け加える。
グランに剣の手ほどきをしたのはトウランスだがグランは綺麗な型にはまった剣技に収まらず身体能力の特徴を生かした自己流の剣技を今は使っている。
トウランスはシュリアンやトリストに学んだ剣技をそのまま熟練させている為言われなければ師弟関係は解らなかっただろう。
「へぇ、、意外
全然そんな風に見えないのに、、、」
リューズにはトウランスに剣という組み合わせがどうもピンとこないらしくしきりに首を傾げている。
トウランスに剣が似合わないというかそれ以前に納得がいかないという風情なのはエクセルも同じだった。
確かに自分が傍に居なかったせいでアルカシア等に襲われたトウランスを守れなかった事実がある。
嫌がられようが今後は傍に張りつく気でいるがいつ何時同じような事が起こるか解らない。
魔力が戻れば問題ないが、、それまでの間剣を持つと言うのも道理としては解る。
だが、、武骨な剣はあまりに無粋だ。
眉を顰めて見つめていたエクセルがはたと思い出す。
「トウランス」
トウランスが振り向くのを待って手を人のいない方向に伸ばし魔力の様な物を錬る。
「これ」
そう言うと同時に練り上げた魔力の様な物を飛ばす。
それは閃光と共に飛ばされた方向の木々をすさまじい威力で爆砕した。
「エ、エクセル?!」
慌てたトウランスが叫ぶ。
「これなら魔法力は要らない、役に立つぞ♪」
「へ?」
ギャラリーのどよめきが止まらない。
「びっくりしたーいきなりだもんなぁ、、」とはグラン。
「てっきり攻撃した来たのかと思ったぞ、、」とトリスト。
グローリアは攻撃意志が無かったのを察していたので皆ほどは驚いてはいなかったが、それでも眼を見張ったのは致し方ない。
「魔法力が要らないって?」
今のが魔法じゃないなら何なんだ?と言う風にトウランスが問う。
「そうだ、これにはコツがあってな
こうやって気を錬るだろ、、で、こうやって」
エクセルは事細かくトウランスに今の技を説明しだす。
トウランスはそれを真似てみるが中々同じようには出来ない。
「だからな」
それでもエクセルは根気よく教える。
その様子を何の気なしに見ていたグローリアだったが、ふむふむと頷き自分の小さな手を見つめ。
すっと手を伸ばして真似をしてみる。
ドンっ!と言う閃光と共に同じ物が再生される。
「あら♪簡単ですわね」
まごう事無き天才と言わしめるグローリアはエクセルの技を再現して見せた。
トウランスとエクセルが言葉も無くその様子を見つめるがその表情には明らかに差があった。
「姫様?」
心配したミルトナがグローリアに声をかける。
「ミルトナも覚えるとよろしいわ
魔法力が要らないから便利ですわよ」
グローリアはミルトナに伝授しにかかる。
「すごいな、、彼女
俺には出来そうにないけど、、」
トウランスは素直に驚いていた、が、エクセルは何やら眉を顰め考え込む。
「あの、、姫様、、出来ませんが、、」
「何故ですの?簡単ですのに」
ミルトナとグローリアが先ほどの自分達と同じような会話をしている。
エクセルはしばらくそれを見ていたがやがて大きなため息をついた。
「どうやら魔術士なら出来ると言う物ではないらしいな、、、」
「え?」
エクセルの言っている事の意味が解らずトウランスが聞き返す。
「 、、、ひとつ 話しておかなければならない事がある」
その言葉にトウランスの鼓動がドクンと鳴る。
エクセルが何を言おうとしているのか何故か解る気がしたからだ。
「申告、、と言った方が良いか」
やはり、という思いが湧き上がる。
「俺はすでに白の剣士を手にかけている」
其々に衝撃が走る。
黒の一族という認識はまだ容認出来ても同胞を屠った敵という認識は受け入れがたい物だった。
「弁解する気はない
ゲートを閉じに来た女魔剣士を殺したのは俺だ」
ああ、やはり彼だったのか、ストンと胸に落ちた気がした。
闇黒水晶の森でゲートの魔法を使った時から、嫌、エクセルの部屋で彼の放った結界を見た時からうすうす気が付いていた。
シェラの傷口を見た時に感じた驚きと恐怖。
あれほど巧みにコントロールされた魔法の冴えに羨望を抱いた、あの時それと同じ感覚を覚えたのだから。
「ゲートを閉じに来た女魔剣士だと?
シェラの事かっ!?
じゃあ貴様がシェラをっ!!」
トリストからものすごい殺気が放たれる。
「トリスト!
彼のおかげでシェラは助かったんだっ!」
慌ててトウランスが割って入る。
シェラを倒したエクセルがシェラを助けたとは理解しがたい言い分だった。
「トウラン?」
「何だって?」
毒気を抜かれたトリストと訝しげなエクセルが同時に振り向く。
「間違いない
シェラが助かったのは彼だったからなんだ
あまりにも正確で凝縮された魔法だったから急所を外れたんだ
もし他の魔術士の魔法だったら間違いなくシェラは殺されていた
それほど紙一重のズレだったんだ、、、」
シェラが純粋な白の一族でなかった為、白の一族の急所とわずかなズレがあった事。
エクセルの攻撃が正確過ぎた故生じた誤差、それが彼女の命を救った。
「急所を外しただと?
そうかあの女、、混血児だったのか、、」
絶対の自信を持っていたのだろう、エクセルが不満げな声を漏らす。
思わず睨み付けるトリストだったが先ほどのトウランスの指摘の所為か心持ち困惑が現れていた。
「で、まだ生きているのか?」
エクセルの問いにトウランスは頷く。
「彼女は緑の聖地で手当てを受けている
聖地のリプルの治癒力は高いからもうそろそろ回復した頃だろう」
「ちっ!
では嫌でも俺も緑に聖地に行かねばならんのか」
苦虫を噛み潰したような表情でエクセルがそう言う。
「え?」
エクセルが言った言葉の意味が解らずトウランスが思わず声を漏らす。
腕組みをしたまま眉を顰めエクセルが答える。
「核がある」
「核?」
今度はグランがオウム返しに尋ねる。
ため息をつき、意を決したようにエクセルは話し出した。
「俺の魔法には核がある
それを取り除かない限り傷は癒えない」
トウランス意外にあまり手の内は見せたくなかったのだろう。
重い口をいやいや開いた、という体であった。
「何だって?」
トリストが怒鳴る。
それが本当ならシェラはまだ助かっていないという事に為る。
「確実に仕留める為だ
たまにそう言う奴が要るからな
もし急所を外しても核がいずれ命を奪う
一度狙った獲物は逃さん」
かなり狡猾な魔法である。
「じゃ、、シェラはどうなる?!」
トリストにとって自分の事で恐怖は感じない、だがシェラの事となると話は別だ。
問い詰めるその声には微かな震えがあった。
そんなトリストを一瞥し、邪魔くさそうにエクセルは答えた。
「俺が核を取り除くまでその女リプルから出られんだろうな」
かくして望むと望まざるとにかかわらず一行は緑の聖地を改めて目指す事となる。
きりの良い処まで~と書いたら少し長くなってしまった~。
まぁ、、仕方ないか~。




