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ニニデ解放 2 ケルビム 4

「ふん、くだらん」

大仰に吐き捨てるようにエクセルが言う。

「今さら親の事など何の興味も無い、どうでもいい事だ

 全くもって些事だな」

「あら、そんな事ありませんわよ

 少なくとも黒の魔術士である貴方を信用できる要因にはなりましてよ?」

憮然とするエクセルに心外ですわと言わんばかりにグローリアが明るく言う。


「そんなものも無用だ

 俺は確かに黒を裏切ってきたが白に付くつもりは無いぞ」

ある意味爆弾発言である。

それは敵対することも在りうるという事だ。

その場に居る面々の表情がそれぞれ変わる。

単に驚く者、剣呑な空気を纏う者、怯える者。

それを気にするでもなくエクセルはトウランスの肩を抱き。

「俺はこいつを守る為に要る

 俺はトウランスの剣であり、盾だ

 白だろうと黒だろうと関係ない」

そうきっぱりと言い放つ。

言われたトウランスは顔を引き攣らせる、どう対応していいか解らない。


「何故その方なのですの?」

グローリアの素朴な疑問であった。

「はぁ?貴様の眼は節穴か?

 トウランス程繊細で美しい者など他に居らんだろう!」

エクセルの言葉を認めることが出来ないトウランスは眼を泳がせる。

「何処がそんなによろしいの?」

「全部だ!!」

清々しいほどの即答だった。

反面トウランスは顔を羞恥に覆う、居た堪れない。


グローリアはしげしげとトウランスを眺める。

確かにとても綺麗な青年ではある、青年にしては華奢な体躯も繊細と言えるのかもしれない。

だが、グローリアにとってシュリアン以上のイケメンは存在しないのだ。

そう考え気付く。

なるほど、自分にとってのシュリアンと考えれば納得のいく思考かもしれない。


「彼の為にしか動かないという事かしら?」

「そうだ」

エクセルの答えを聞きグローリアがニヤリと笑う。

その笑みは深層の姫君に相応しくない黒い笑みだった。


そしてその笑みは高笑いに変じる。

「ならば白の軍門に下ったも同じではありませんの~♪」

エクセルの眉が微かに上がる。

「その方はグランの保護者代わりだと伺いましたわよ

 そのグランは今は私の剣士ですのよ!

 ならば当然グランの保護者であるその方も私の元に参るべきですわ~」

一息置き、指をたてゆっくり続ける。

「つ・ま・り

 貴・方・も・で・す・わ・ね♪」

「な、そりゃ、、どういう理屈だ?!」

エクセルが僅かだが怯む。

一見筋が通っている様で無茶苦茶な屁理屈である。


だがトウランスは違った。

「グラン それは本当なのか?

 お前本当に白の剣士になったのか?」

いきなり話の中心になったグランは戸惑いながらも答える。

「え? あ、うん

 白の剣士なんて柄じゃないって怒られるかもしれないけど、、

 俺、トリストみたいになりたかったから、、」

照れくさそうな表情だった。

「お前が自分で選んだ道なら反対する訳が無いだろう

 そうか、幻羽世界の守護者、、、か」

感慨深そうな表情でトウランスは頷く。


「あ、でも、トウランはいいから!

 トウランスが争うの嫌いなの俺、知ってるし」

慌てて真顔になったグランが付け加える。

「それに、トウランはすぐに無茶するし

 白には入らない方が俺も安心できるし、、」


「無茶はお前の専売特許だろ グラン」

グランの言葉に半場呆れたようにトウランスは言うが。

「俺はっ!俺はいいんだよ

 俺のは自業自得なんだからっ!

 けど、トウランスが無茶するのは全部俺達の所為じゃないかっ!

 俺、もう嫌だからなっ!

 俺達の所為でトウランスがどうにかなるの!」

目頭の涙を拭いながらグランが力説する。

黒の聖地の一件を思い出したのだろう。

トウランスが黒の一族に捕えらてしまう事になったのも皆を庇っての事だった。

無事で帰ってこれたから良かったものの本来なら殺されていたかもしれないのだ。

そう考えると今さらながら恐怖がグランを襲う。


「ほう、よく解っているじゃないか

 ガキのくせに」

エクセルが面白そうにグランを見ながら言う。

トウランスは身に覚えがありすぎ反論出来ない。

「ガキって、、、俺は、、、

 大体あんたトウランスを助けてくれたらしいから

 それはお礼を言うけど、、トウランにくっ付き過ぎだろ?

 何なんだよ?

 ちっとは離れてろよ!」

エクセルに向かって文句を言うグランの手を後ろからリューズがぎゅっと握る。

その手は小刻みに震えていた。


黒の魔術士という言葉を聞いた時から彼女は怖くて溜まらなかったのだ。

グランがその相手と言い争うのを止めたいと無意識に思ったのかもしれない。

「リューズ?」

俯いたままのリューズの表情はよく解らなかったが何やら怯えているように見える。

が、何に怯えているのかグランには解らなかった。

グランにしてみればエクセルは胡散臭い上、どうにも気にくわなかったがトウランスを助けてくれた相手でもあるし。

黒の一族だとしても危険な相手には思えなかった。

なにしろ絶大な信頼を寄せているトウランスが大丈夫だと言ってるのだから。


「グラン

 俺も黒の一族の元で今も捕えられている幻羽人達を見て

 自分に出来る事が在るなら何でもしようと思っている

 白に入れと言うなら白の軍門に下るつもりだ」

トウランスの言葉にグローリアが嬉しそうな表情をするがグランは違った。

リューズから眼を離しトウランに懇願する。

「トウラン!駄目だって!」

だがトウランスは首を振りきっぱりと言う。

「グラン、これはお前同様俺自身が決めた事だ

 口出しは無用」

その言葉にグランは仕方なしに口を噤む。

どんなにトウランスを心配してもこうと彼が決めた事を覆すのは無理だとよく知っているから。



「だが姫君

 俺はグランとは違い正規の軍には入らない方が良いと思う

 俺の処遇はシュリアン王子に一任したい

 彼なら何もかもご存じですから」

「シュリアン様に?」

きょとんとするグローリアにトリストが口添えする。

「姫、トウランスはミダル様とシダル様の直弟子なんです

 シュリアン様とは兄弟弟子になるんですよ」

シュリアンの兄弟弟子、その言葉でグローリアは痛ましい事故を思い出す。

「ではあなたがあの消滅事件の?」

「姫」

後ろでゴホンとトリストが咳払いをし、グローリアが口を手で押さえる。

その事はトップシークレット扱いだった。


「犯した罪から逃げはしません、、、

 到底償える物ではないが、、どんな事でもしようと思っています」

少し眼を伏せトウランスはそれでもしっかりとそう答える。

「トウラン

 あれは事故だ、シュリアン様もそう処理された

 お前の所為じゃない気に病むな」

そんなトウランスをトリストが気遣うが。

「そう思わないものも居る筈だ」

犠牲者が居る限り、とトウランスが正論を言う。

「解りましたわ

 確かにシュリアン様にお任せした方がよろしいわね」

理屈で解っていても心は違う。

そう言う微妙な事案であった為グローリアも納得する。


と、いつの間にか絶え間なく流れていた音が止まっていた。

「あら、音が無くなりましたわね」



総ての歌を歌い終えたイアロニが静かに面を上げる。

皆の視線が彼に注いだ。

「婚礼の歌と葬礼の歌の中にそれらしき物があった

 カルナという白の剣士だ

 同じくヨハンという白の剣士と大戦の始まった頃に結ばれている

 大戦のいさおに彼女の名はあるが葬礼の歌には名は無い

 彼等は確かに百二十に分かれた白の源を持つ者だ

 彼らの子が居たなら純血の白の一族だろう」

「裏付けがあるわけですわね

 結構ですわ

 では、このまま緑の聖地に向かいます

 ニニデの扉はこの私が必ず開いて見せましてよ」

イアロニの言葉にグローリアは微笑む。


「姫君 緑の聖地に向かうのなら我々も同行させて頂けませんか?」

「ユーリィエを預けに行くのか?

 それなら別に同行しなくとも我々だけで行けばいいだろ」

トウランスの要請にエクセルはあまり乗り気でないそぶりを見せる。

「緑の民は慈悲深い民だが排他的な一族なんだ

 俺達だけでは聖地に入れて貰えない可能性が高い

 白の傘下に付くとなればこれから黒の一族との戦いも当然起こりうる

 ユーリィエは我々と共にいない方が安全だろう

 ならば同族の民が居る緑の聖地に行くのが彼女には一番良いと思う」

聖地はよそ者を拒む。

緑が道を開いてくれないのだ。

白の王族が共にでも居ない限り。

「それに、、、」

トウランスは一旦言葉を切り、エクセルの眼をしっかりと見つめ言葉を続けた。

「君も 聖地に行くべきだと思う」


ユーリィエの言ったオーラが同じという意味もグローリアの母フローライトが眠る聖地に行けば何か解るかもしれないとトウランスは思っていた。


「 、、、解りましたわ

 共においでなさい」

グローリアは同行を許可する。


その様子を吟遊詩人は黙して見届けていた。

時代が大きく動く予感を感じて。


 ー運命なのか

  此処で出会い集う事も

  共に歩むことも全てが時の流れのまま

  

  あの方が導く運命さだめの流れなのだろうか、、、

  そしてこの流れは何処に向かうのか、、、ー


 






一応1話4000字以上を目安にしていますが、きりの問題で少し短いです~。

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