ニニデ解放 2 ケルビム 3
「それが真の白の印
静かに眠る白の一族の元へ誘う白の祭壇への扉」
そう言って現れた青年に皆の視線が集まる。
一瞬緊張が走るが物腰の柔らかい態度とほぼ戦闘能力を感じないと言う事実が皆の緊張を解く。
「これが ですの?」
口火を切ったのはグローリアだった。
「 、、、さよう
だが、おそらく貴方方では解封出来ないだろう
お見受けしたところシュリアン王子の姿は無いようだ
確かに、、いや、非常に面白い雑多な種族の方々だとは思うが」
青年は皆を見渡しながらそう告げる。
エクセルを見た時に微かに表情の変化があったように思えたが一瞬の出来事なので見間違いかもしれない。
「この中に白の源たる者は居ない」
静かにそう言い放つ。
「あなた、どなたか存じませんけど
この私は」
青年の言葉に納得のいかないグローリアが反論する。
「フローライト様の御子」
青年はそう答え微笑む。
「幼き頃のフローライト様によく似ておられる」
「あなた、、、何者ですの?」
幼い頃の母を知り、白の扉を潜りこの洞窟に侵入する事が出来封印の謎を知る人物。
グローリアの知らぬ要人がこの世界に居たというのか、、。
青年はゆっくりと臣下の礼をとり名乗った。
「私はイアロニ
唯の吟遊詩人です、白の姫君」
「吟遊、、詩人?」
皆からざわめきと共に反復の声が上がる。
「ただの? うっわーーー
めっちゃうさん臭せーーーっ!」
とは、グランの弁。
「その、ただの吟遊詩人さんは王家の一族であるこの私が
解封出来ないと仰るのね?
あなたが真実を告げているのかそれとも大法螺吹きなのか
すぐに解る事ですわ」
表情を変えることなくグローリアはそう言うと白の印に歩み寄る。
「白の封印よ、白き光の一族グローリアの名において
解封せよ、オープ!」
グローリアの呪文により白の印が激しく発光する。
が、光は急速に収縮し印は何事も起らなかったのように元に戻った。
吟遊詩人の言った通り、印の解封は叶わなかった。
一斉にイアロニに視線が集まる。
「さあ、話して頂きましょうか?
王家の者が知らぬ如何なるからくりがあるのか
だだの吟遊詩人殿?」
そう言い放つグローリアの瞳には剣呑な光が宿っている。
「昔、、、遙かな昔
混沌から光と闇が生まれた
光は光神と12の白の源を
闇は闇神と12の黒の源になり
混沌はやがて混沌の乙女と大地、無数の源へと変じた
12の白の源の6つは王と王妃、2人の魔導師、2人の剣士に
残る6つの源は百二十の数に分かれ白の一族となった
黒の源もまたしかり
時が流れ両一族は他の源とも交わり子を成し急速に増え繁栄する
繁栄は思想を複雑化させ、衝突を生み出し
そしてあの大戦が訪れ、多くの物は傷つき倒れてしまう
長きに渡る大戦の果て
黒の一族に勝利した白の一族は自らの休息と
幻羽世界の力の均衡を重んじ眠りについた
ニニデにはシュリアン王子の本体が眠っている
そして王子以外の者がニニデを開封することが無いように
『白の源の直系純血種』が解封のキーワードになっている
現在の幻羽世界にはシュリアン王子しか純血種はおられんはずだ」
イアロニはゆっくり幻羽世界の歴史と封印時の様子を語る。
純血種という言葉にグローリアの手が強く握りしめられる。
「シュリアン様は今、動ける状態じゃありませんわ
ですから私が名代で参ったのです」
「シュリアン王子が?
どうかされたのか?」
「あら、なんでもご存じなのではないのですの?
ただの吟遊詩人殿は?」
グローリアのとげのある言葉にイアロニはわずかに口元を綻ばせる。
「私は語部にすぎない
私が知るのは過去の事、現在・未来は私の預かり知らぬ事」
歴史として語るべき事しか引き出しには無いと自嘲気味に微笑む。
「けど、グローリア姫も直系なんだろ?
さっき印も反応してたし、なんでだめなんだ?」
素朴な疑問だったのだろう、グランが小声で呟くが。
「あほう
女だけで子供が生まれるか」
エクセルに即答される。
グローリアは庶子だった。
「皮肉なものですわね
ずっと負い目に感じていたことで足を引っ張られるなんて、、」
押しも押されもせぬ白の一族の姫で在るのは変わりはない。
その容貌と魔力故王族で在る事を認めぬものなど一人も居なかった。
「で、私の父親もご存じですの?」
「残念ながら私が知り得るのは表面化された事実のみ
フローライト様はその事を誰にも語っておられぬ
、、、いや、語る事が出来なかった、、というべきか
フローライト様は発見された時すでに重体だったと聞く」
「ええ、シュリアン様と同じですわ、、、
そこの包帯だらけの貴方、貴方もですわよ
注意なさった方がよろしいですわ」
ちらりとトウランスを見る。
「魔術士のくせに回復魔法を使えない程魔法力が空っぽなんでしょう?
それでも魔法を使いませんでした?
覚えておきなさい、魔法力がゼロでも魔術士は魔法が使える
でもそれは生命を魔力に変換させているのです
生命力を使い切れば死ぬのは当たり前の事」
そう言いながらグローリアはトウランスに回復魔法をかける。
一瞬でトウランスの全身の怪我が治った。
「そして一度空になった魔法力は大きければ大きいほどなかなか回復しません
ですからすぐれた魔術士は魔法力を使い切らぬよう温存するものですわ」
グランは隣に居たリューズにそうなの?と尋ねるがそんなに魔法力の無いリューズは解らないと首を振る。
彼女の魔力は使い切っても一晩寝れば回復するのでそんな事は気にした事もなかった。
「、、、でも、そうも言っていられない時もございますわね」
「では、シュリアン王子も?」
イアロニの問いにグローリアは頷き肯定する。
「母上と同じです
黒の聖域と白の結界石の衝突の力は想像以上だったという事ですわ
相乗効果という物は計りきれませんわね」
シュリアンの消耗は結界石と聖域の反発による爆発を最小限に留めようとした結果である。
「生命力まで魔法力に変換し力尽きられたのですわ
幸いシュリアン様はそれほど極限状態には陥っていませんが
影の身ですから本体を起こして差し上げないと満足な回復は望めません」
忌々しそうにグローリアは爪を噛む。
此処で白の印さえ解封出来ればシュリアンの本体を覚醒させ、すべては解決出来たはずだった。
このままではシュリアンの回復もニニデの解放も望めない。
グローリアはなにか方法は無いのかと考えを巡らせる。
そしてふと、母の事を思い出す。
グローリアの母、フローライトは瀕死の状態でリプルの実に預けられその中でグローリアを産み落とした。
彼女はリプルの回復力を己が身ではなくグローリアの出産に使ったのだ。
「、、、そうだ、リプル
リプルの実ですわ!」
「は?」
イアロニの反応は悪い。
いくらリプルと言えど影の身であるシュリアンを回復させるのは無理だろう。
「母上にお会いする為に訪れた緑の聖地で
リプルの実の中に入っていた白の一族の女性を見た覚えがありますのよ
もしかしたら私と同じ様にリプルの中で生まれた者が居るかもしれません
彼女が大戦の戦士だとしたらその子は純粋な一族の可能性があるのではなくて?」
「姫、いくらなんでも、あそこは王族でもないと、、」
トリストは緑の民が排他的な事を知っているので500年以上も前の大戦時の、しかも唯の白の一族をそこまで優遇しているとは思えなかった。
それに時が経ち過ぎている。
「あら、緑の民はとても慈悲深い一族ですのよ
どの種族で在れ死にかけた母体の中の子供を見殺すなんてことしませんわ
そしてその子を助けるだけの力のあるリプルは聖地でないと育ちませんわ」
リプルといえ万能ではない、総ての者が救えるなどという都合のいいものではない。
だが、聖地のリプルは他のリプルより力が強いのも確かだ。
「ですから逆にあの女性は身籠っていた可能性が高いと思いますの
それ以外の事なら白の里のリプルでも対処出来ましたもの
貴方、そのような事実はご存じありません?」
イアロニに尋ねる。
「歴史の流れに係る大事ではないようですから
記録の中に埋没している可能性が高いですね」
イアロニがゆっくり記憶を思い出しながら答える。
「そう、、ご存じありませんのね、、、」
残念そうにグローリアが呟く。
「いや、探ってみましょう
しばし時間を頂きたい」
そう言うとイアロニは空間から手琴を出し歌を奏でだす。
甲高く高低の無い歌声が洞窟に響く。
不思議な歌だった。
「、、、綺麗な音だけど、、」
「何語?」
「ねぇ?」
とは、リューズとグランの会話である。
イアロニの歌は彼等には全く聞き取る事が出来ない。
「、、、超高速で歌っているんだ
幻羽世界で起こった出来事の歌を」
トウランスが歌の正体に気が付きそう告げる。
「え?
まさか大戦後から今までの出来事を?
全部?マジ?」
グランとリューズは驚きを隠しえない。
皆がそれぞれ驚く中イアロニの歌は続く。
「気にするな
異種族婚を奨励している一族なら3代目ともなると
純血種が少なくなるのは当たり前だ」
眉を顰め俯くグローリアにエクセルが声をかける。
「あら
慰めてくださってますの?」
眼を丸くしグローリアがエクセルを見つめる。
「意外でしたわ
シュリアン様と同じことを仰いますのね」
そして、くすっと無言のエクセルに笑いかける。
「あなた、、エクセルと仰ったかしら
黒の魔術士ですねの」
問いではなく肯定だった。
トリストが思わずエクセルを見、トウランスも動揺するが当のエクセルはグローリアを静かに見つめ返すだけだった。
「でも、純粋な黒の一族でもないようですわね」
「、、、だろうな」
下の村に居たくらいだからなとエクセルもグローリアの言葉に頷く。
だが次の一言は彼にも予想外だった。
「片親は白の一族ではございませんの?」
「はっ、馬鹿な黒の里に白の一族がいる訳が無いだろう」
苦笑と共に否定するが。
そんなエクセルにグローリアは持論を展開する。
「今は勿論一人もいませんでしょうね
でも大戦時の頃には何人もの白の一族が捕まっていたのですわ
それがシュリアン様が負傷し
私の母上が亡くなった原因です」
「黒の里を異空間に幽閉する前に捕らわれた白の一族や
他の種族を救出する為に
単身母上は黒の里へ行かれ多くの物を救う為にお力を使いすぎた、、
と、お聞きしています
ですから黒の里に白の一族が居た時期があったのは事実なのです
それなら貴方の魔力が高いのもそれなら十分頷けますわ」
「黒と白の相乗効果か」
トウランスが答えを導く。
確かにそれなら常人離れしたエクセルの力に説明が付いた。
だが、それなら、、、。
ーエクセルとその子生体オーラが同じー
ユーリィエの言葉がよけいに気になる。
まさか、、、。
トウランスの脳裏にある推測が浮かびあがっていた。




