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ニニデ解放 2 ケルビム 2

「グランが?」


「自分は古の一族じゃないから大丈夫だって言って

 確かにケルビムは反応しなかったんですけど

 ケルビムの向こうに行った後、何か下へ落っこちた様な大きな音がして

 そのまま飛んで上がってこないんです」

幻羽世界の住人なら飛べる、上下の移動に問題は無い筈だった。

「トウランスさんが無事だったって知ったらグランが一番喜ぶのに、、

 だって、、あんなに心配して、、そんなグランおいていくなんて

 絶対、、駄目です、、、」

いつの間にか涙目になっている。

「いや、リューズ

 グランは多分、、飛べない

 上がってこないのはそのせいだ」

「え?」

トリストはグランに羽が無い事に気がついている。

が、トウランスはトリストの言葉をやんわりと否定した。

そう、グランには羽は無い。

が、それに代わりうる「糸」と言う武器がある。

「飛べなくても壁があるならグランなら登ってこれる筈だ

 出来ないのは何か不測の事態がおこったのか?

 気を失っているくらいならいいが、、、」

トウランスはそう言いながらグランが行ったというケルビムの向こうを見る。


「、、、グランにはケルビムは反応しなかったんだな?」

「え? あ、はい」

リューズの答えに頷くとトウランスは歩を進めた。

「では俺が行こう」

「あ、そうか

 トウランスさんも幻羽人だから」

リューズが気が付いたようにそう続ける。

「おいっ!」

走り出したトウランスに思わずエクセルが叫び慌ててその後を追う

トウランスの足が件の15mに差掛った時、ケルビムの葉が一斉にぴくっと反応を示す。

そのトウランスの腕をすんでの処でエクセルが掴み、自分の胸元に引っ張り込みトウランスごと勢いよく後ろに倒れる。

刹那、トウランスが居たであろう場所に数十本のケルビムの葉が突き刺さる。

間一髪だった。

「馬鹿っ!

 お前、自分が幻羽人だとでも思ってるのか?!」

胸元にトウランスを抱き留めながら安堵のため息と共にエクセルが怒鳴る。

「え?」

怒鳴られた事よりケルビムに襲われた事実の意味がよく解らずトウランスは素っ頓狂な声を出してしまう。

「だって、、俺は、、、」

「あのなぁ、、お前が幻羽人の筈ないだろう

 まさか本当に知らなかったのか?

 幻羽人と古の一族じゃ放つオーラが全く違う

 一目見りゃ解るだろう」

エクセルの呆れた様な物言いにトリストも固まっていた。

オーラが違う?トウランスが古の一族?共に知らなかった事実である。

その横でグローリアは無言で押し黙っていた。


「俺が、、古の一族?」

「ああ、古の一族と言っても黒と白だけじゃない

 ユーリィエ達緑の民もそうだ

 遙か昔には色々な傍流の種族がいた

 お前はその生き残りだと思うぞ」


「つまりその方もケルビムには近づけない

 そういう事ですのね?

 それにしてもあなた、ずいぶん物知りのようですわね?」

沈黙を守っていたグローリアが口を開く。

「お聞きしますわ、本当にケルビムを退ける方法は無いんですの?

 何かご存知でしたら協力して頂けません?」

グローリアの言葉にトリストが過敏に反応する。

「ひ、姫!

 黒い長衣ローブを着ている様な奴ですよ?

 得体のしれぬ相手に何を仰ってるんですかっ!!」

「大丈夫ですわ

 少なくともこの方は敵ではありませんわよ」

トリストの苦言に即座に答える。


「この方が敵なら私達すでに殺されていますわ

 認めたくないですけど、、、

 この方の魔力、私よりかなり上ですわよ、、、トリスト」

グローリアの言葉にまさかとトリストが姫の顔を覗き込むが、その表情は真摯なものだった。

重苦しい空気が流れる。


それを何とかしようと混乱が収まらぬ中ではあったがトウランスがエクセルを擁護する。

「勿論、彼は敵なんかじゃない、かれは、、」

黒の一族だが俺を助けてくれた、と言いかけて止める。

この場で黒の一族だと果たして言ってしまっていいものか?動揺していてもそのくらいの分別は働いた。

再び沈黙が降り、それを崩したのはユーリィエだった。

「似てる

 エクセルとその子

 生体オーラが同じ」

ユーリィエの視線はグローリアを示している。

この発言にその場にいた全員に衝撃が走る。

生体オーラとはそのものを構成するDNAから発生する。

全く同じという事は同一人物でもない限りありえないのだ。





「いって、、、」

グランは強か打ち付けた後頭部を擦りながら身を起こした。

どうやら短時間ではあるが気を失っていたようだった。

自分が落ちて来たであろう崖状になっている壁を見上げる。

遙か上部に小さな窓の様な光を湛えた穴がある。

どうやらあそこから落っこちたようだった。

ケルビムが居たあの洞窟内は魔法の効果なのか外部と変わらぬ光源があった。

が、自分が落ちた此処は薄暗い。

取敢えず怪我はないか確認する。

後頭部が多少痛むがその他は大した怪我はしていないようだった。

我ながら実に頑丈な身体である。

次に辺りを観察する、眼を凝らしていると薄明かりに眼が慣れてきて様子が解りだした。

どうやら奥に続く道がある様だった。

「う~ん

 行くっきゃないよな」

そう呟くと奥に向かって進みだす。

少し歩くと大きなホールの様な広場に出る。

真ん中に砂崩しの様な山がありその頂に何がキラリと光る物があった。

「何だ、あれ」

登って確かめようと砂山の裾に手を掛けた時、足元から光のカーテンの様な物が噴き出す。

光りは人型を映しだしそれはひとりの少女になる。

柔らかな黄金の髪に大きな触角のあるその姿は幻羽婦人に酷似していた。

『そこにいるのは幻羽人だな』

美少女はその外見にふさわしい澄んだ柔らかい声で語り出す。

「え?

 いや、、、俺、、」

咄嗟にグランは口ごもった、自分が幻羽人で良いのか迷った為である。

『私は記録レコード故、質疑は出来かねる』

少女は抑揚のない声で話し続ける。

『あの方が望まれた古の一族と他種族との共存が叶っておるからこそ

 そなたが此処に居るのであろう

 そなたが古の一族でないのならあの剣をその手に取るがよい

 剣はそなたに従うであろう』

にっこりと微笑み少女は最後の言葉を語りながらゆっくりと消える。

『さすれば道は開ける、、、』

グランは消え去る少女を見送りながら頂上を仰ぐ。

そこには静かに光る白銀の細身の剣が在った。





「ちっ、ちょっとあなた何を仰ってますの?!」

「ユーリィエ

 これ以上話をややこしくするな」

動揺するグローリアに続きエクセルも憮然として言う。

「全くですわっ!!

 何を勘違いなさっているのか存じませんけど

 唯一冷静なわたくしまでパニックになるような事仰らないでくださいます?

 それでなくてもこんがらがっておりますのに」

そう言うグローリアの後ろでトリストが頭を抱えて居た。

「ちょっと待って下さいよ

 俺もう何が何だか、トウランスが古の一族で

 黒い長衣ローブの奴連れてきてそいつと姫がなんですって??」

「おやめなさいトリスト

 理解しようとするのは、貴方には無理ですわ」

そんなトリストを容赦なくバッサリと斬る。


「トウランス

 お前は助けたいんだな?そのグランとかいう奴を?」

「あ、ああ

 勿論だ」

混乱してはいるが即答する。

トウランスの答えを聞きエクセルは優しげに微笑む。

「そうか、お前が望むなら仕方ないな

 協力しよう」

その言葉にグローリアがじと眼になるが文句は差し控えた。


「前にも言ったがケルビムには剣も魔法も効かない

 そう言う意味では此方に打つ手はない

 だが、何故此処にケルビムがあるか?

 そう考えると話は変わってくる

 このケルビム、ここまで巨大になるには恐らく一万年以上はかかっている

 この向こうに何があるんだ?

 白の一族の聖地か何かか?

 それはいにしえからの物か?

 それとも大戦後の物か?」

「大戦後、、の筈ですわ

 まさか、、、」

聡いグローリアはその言葉の真意にいち早く気付く。

「大戦後ならここにケルビムが自生していたとは考えにくい

 恐らく大戦直後に意図的に置かれた物だろう

 その頃黒の一族はもう幻羽世界には居ない

 ケルビムを置いたのが白の一族だとしたら考えられるのは何かのテスト

 ならば必ず攻略法が在る筈だな」

そうケルビムを配置するだけなら遠隔魔法を使えば出来るのだ。

エクセルは淡々と謎解きをした。

「ケルビムを置いたのが白の一族ですって、、、

 そんな事シュリアン様は一言も、、、、

 あ、、」

グローリアは思い出す、出発時にシュリアンから聞かされた言葉を。


 -問題が一つある

  ニニデ封印の折本体の私は負傷して立ち会って居ない

  だからどういう風に封印したのかよく知らないんだ -


「あれはそういう事でしたの、、、」

グローリアの呟きにエクセルが皮肉げに笑う。

「ふっ

 白の一族が平和ボケしているってのは案外当たっていそうだな

 この間のは只のまぐれか?」

エクセルの言葉にやはりこいつは黒の一族では?との疑問がトリストの中でますます膨らむ。


「攻略法が在るとしたらその落ちた穴と言うのが怪しいが

 調べようにもなぁ、、

 ユーリィエ、この中で一番貧弱なオーラの持ち主は誰だ?」

そうか、ユーリィエは古代種の直系だから微妙な細部まで視えるのか、、と

エクセルの問いかけに納得したトウランスだが。

そうなると先ほどの生体オーラが同じというのも信憑性が増して来る。

どういう事なんだろうと思う間もなくユーリィエがすっとリューズを指差す。

「あら、当たってますわ」

と、グローリア。

「わ、、私?やっぱり??」

本人も自覚があったのだろうリューズが胸で手を組みゴクリと唾を飲み込む。


「大丈夫ですわ

 一本追って来てますけど、、ものすごくスローですわよリューズ」

グローリアの慰めの応援もむなしく当のリューズは防護壁を役に立たないのは解りつつも展開し。

「ひ~ん、、それでも怖いです~」

と情けない声をあげながらケルビムの隙間を健気に進む。

ケルビムは後方に巨大な生体オーラを感じ取っている為か貧弱なオーラのリューズにはあまり関心が無く、

御情けで1本だけやる気なさげに伸ばしている様だった。

しかもグローリア達のオーラの所為で探知しにくいのか速度が物凄く遅くなっている。

グローリア達は囮になるべく15mギリギリまで近寄り、皆で纏まっていた。


「やっぱり穴です~

 すっごく深そう、、」

グランが落ちた穴が在る場所まで到達したリューズが皆にそう叫ぶ。

座っていたケルビムの葉がうねりだし、驚いたリューズは逃れるためにその穴に飛び込む。

背の羽を広げゆっくりと飛び降りる。

中は暗い。

「グラン、、、」

下を見るがどうやら人は居ないようだ。

落下して動けない怪我を負ったようでは無いようだ。

リューズが下に降り立ったのとほぼ同時にグランが通路から現れる。

「グランっ!」

それに気が付いたリューズが羽を出したまま飛びつく。

「無事だったのね!良かった~!」

「リューズ、どうして?」

「だってグラン消えちゃうんだもん」

グランにしがみ付いたままリューズが答える。


「あ、そうだグラン

 生きてたの!トウランスさんが生きて帰ってきたのよ!!

 空間が割れてそこから、、」

リューズが言い終える前にグランはリューズの肩をしっかり左手で掴み大地を蹴り

剣を持った右手の手首から糸を飛ばす。

「捕まってろっ!」

リューズが驚く間も無いほど一瞬でグランはリューズを抱えたまま出口まで駆け上がった。

そのままリューズを抱えるようにしながらケルビムの間を駆け抜ける。

「トウランスっ?!」

グランはリューズを放し、集団の中にトウランスを見つけ叫ぶ。

「グラン!」

トウランスもグランの無事な様子をみ安堵の声を漏らす。


そのまま走ってこようとしたグランの右手の剣に目聡く気が付いたエクセルが制し、命じる。

「お前!そうお前だ!

 その剣でケルビムを斬れ!」

いきなり見知らぬ男に命じられたグランは反射的に止まりはしたが怪訝な表情を浮かべ

自分が握っている細身の剣を見る。

「グラン、やってみろ」

続くトウランスの声に頷き、細身の剣を抜きさくっと一番間近のケルビムの葉に刺す。

「へ?」

変化は劇的だった。


ぱああっとケルビムの葉が光ったと思うとシュルルルと光と共に巨大なケルビムが収縮し

小さくなったかと思うと地面にめり込み。

気が付けば地面の中央に小さな印となっていた。


「え?」

一番傍にいたグランとリューズは信じられないと言った様子でその印に近づく。

「これって、、、封印の扉にあった印?」

その形は「白の印」と酷似している。


「そう、それこそが真のニニデ解放の印だ」

何時の間に現れたのか黒髪の青年がそう語る。








 


 


 

 




 






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