ニニデ解放 1 白の剣士
「なっ!
なんですの?これはっ?!」
グローリアの声が洞窟内に木霊する。
ニニデの封印を解くために向かった地下神殿の奥、
洞窟の幅いっぱいに巨大な果肉植物の様な物が立ちふさがっている。
近づいた白の剣士や魔術師がその葉に巻取られ拘束され動きを封じられる。
剣のように尖った葉先での攻撃。
彼女達から悲鳴が上がる。
「御下がりください姫様っ!」
「駄目ですっ!
剣も炎も効きませんっ!
きゃあっ!!」
グローリアを守る護衛は女性で構成されては居るが。
それぞれがかなりの使い手で在る筈なのに先ほどから防戦一方だ。
それも押されている。
固定位置から動けない相手だがその巨大さと
何よりまったく攻撃が通らないのが致命的だった。
「お退きなさいっ!
私が吹き飛ばして差し上げますわっ!」
痺れを切らしたグローリアが進み出る。
が、護衛隊長であるミルトナが止めた。
「いけません姫様!
洞窟にかなり根深く蔓延っている様子
姫様のお力では洞窟そのものが持ちません!」
確かに洞窟上層からぱらぱらと砂や石が落ちてきている。
この洞窟を破壊してしまっては本末転倒である。
グローリアはどうしたものかと歯噛みする。
このままでは奥に進めない。
ニニデを開放するには最深部の白の印を押さねばならぬと言うのに、、、。
リューネの村青空の下。
模擬試合が繰り広げられている。
「よしっ、オール勝ち♪」
練習用の握り部分に布を巻いた棒を高く掲げグランが元気よく叫ぶ。
他の数名の白の剣士は息荒く地面に四つん這いになったり
肩で大きく息をしながら突っ伏している。
「あ~あ
全滅かよなっさけない奴らだな」
トリストは部下の不甲斐なさに落胆を隠しえない。
「すごい、、、皆、白の剣士なのに、、」
横で見ていたリューズが素直に驚いている。
グランはびしっと人差し指をトリストに向ける。
「次、約束だぜトリスト
相手になってくれよ」
トリストに挑む心算らしい。
「ははっ
息一つ乱れちゃいねーか
嫌なやろー」
どうやら全員倒したら相手になってやると約束していたようだ。
「仕方ないな
此処じゃ手狭だから丘の上でまってろ」
くいっと丘の方を指で示しそう答える。
「了解♪
ばっくれんの無しだぜ?」
トリストは頷く。
それを確認したグランは丘の方へ駆け出した。
「さてと、その前に」
そうトリストは言うと這いつくばる部下たちをじろりと見る。
「お前等今のが実戦だったら
間違いなく死んでるぞ?」
部下たちから冷や汗と渇いた笑いが漏れる。
いや、笑ってる場合ではない。
「全員素振り五千回
走り込み20マイル、剣装備でな
はい 行ってみよう!」
ええ~、マジですか~!!と情けない声を出しながら
部下たちはトリストに従う。
「いや~
ホントすごい奴ですよね
あの歳でこれからどれだけ強くなる事やら」
頭を掻きながらパルムという剣士が話す。
「あの歳で、、か
あいつ少なくとも見たまんまの歳じゃないぜ?
確かにまだまだ強くなるとは思うけどな」
「え?
だって幻羽人でしょ?」
「十四、五のガキの剣技じゃないな
少なくとも二十年は剣を振っていると見たが
戦い方も狡猾だ
まあありゃ天性かもしれないが
オーナーのお前等じゃ相手にならないだろうな」
剣士にはレベルに応じて階級が定められている。
下から見習い剣士、これは剣士になる前のヒョッコならぬ卵の様な者だ。
次がオーナー、一般の剣士はほぼこのクラスになる。
トリストの配下の多くがこのオーナーだ。
その上がクリエート、このクラスになるとかなりの使い手になるので数がぐっと減る。
最上がマスター、トリストを含め今の白の里には100名も居ない。
ただ、マスタークラスになると同じマスターでも実力に差が出てくる。
マスター以上の称号が無い為だ。
「剣を教えたのはトウランスだろうが
ちょっとしごけばマスタークラスになりそうだな
面白い」
グランの現在の実力はクリエートクラスという事らしい。
「ところでパルム
さぼろうたってだめだぞ
なんなら追加してやろうか?」
「いっいえ!
けっこーです!」
パルムは慌てて皆の後を追う。
「グラン、ちょっと待ってよ!」
リューズが丘に向かうグランを呼び止める。
「何?」
グランが振り返る。
「無茶よ
トリスト様はマスターなのよ?」
「マスター?」
「白の剣士の最高位なの
ものすごく強いの!!
だがら稽古ならまだしもこんな実践まがいの模擬戦
危ないわっ!
下手な受け身なんか執れば怪我じゃすまないわよ!」
「トリストが物凄く強いのなんかよく解ってるさ
だからいいんだ」
グランの答えにリューズは?マークを浮かべる。
「俺、我流だから型にはまった稽古じゃ駄目なんだ
ギリギリの状態に身を置かないと、、、
俺、強くなりたいから、、、」
少しでも強くなる。
それが今の自分に出来る事。
「心配してくれてありがとう
けど大丈夫
俺、頑丈だから
怪我しても治り早いしね」
そう言って軽くウインクする。
リューズは漸くグランの真意に気付く。
じっとしていられないのだ。
何かしていないと不安に押し潰されそうになるのだろう。
黒の一族に捕えられたかもしれないトウランス。
そしてミューズ。
せめて生死だけでも解ったらどんなにありがたいか、、、。
リューズにとってもそれは同じ思いだった。
ぽんっとリューズの肩に手が置かれる。
「きっ、きゃああああああーーーーっ!!!」
びくっと飛び上がりリューズは盛大な悲鳴をあげる。
「おいおい、、、」
手を置いたトリストの方が引き気味になる。
「ト、トリスト様?」
涙目で振り向いたリューズが驚いたぁ、、、と安堵の息を漏らす。
「リューズのその臆病なのも治らんなぁ、、、」
驚いたのはこっちだとばかりにトリストがため息を漏らす。
「丁度良い
お前にも良い稽古になるな」
良い思い付きだとばかりリューズを見てニヤリと笑う。
「へ?」
眼が点になったリューズは意を悟り慌てて手を横に振り回す。
「無理、無理
私にトリスト様の相手なんて無理ですってばっーーー!!」
「そうだよ
リューズには普通の稽古の方が、、、」
グランもそれはあんまりだとばかりにトリストに執り成す。
「慌てるな
誰が相手になれって言った?」
トリストは苦笑し少し歩き。
「このあたりがいいかな」
そう言い、地面に線を引く。
「リューズここに来て立ってろ」
「は?」
「俺とグランの稽古でかなりの衝撃波や斬圧が生まれる
ここで防護壁を張って総て防いでみろ」
「あ、、はい!
それなら何とか出来ます」
「なるほど、魔法の稽古か」
グランも納得する。
「白魔法を使えるのは現時点ではリューズだけだ
何も剣で戦うだけが能じゃない
補助魔法に回復魔法
頼りにしてるぜ?」
「はっはい!
頑張ります!」
トリストの言葉に途端にリューズは張り切る。
自分にも出来ることがあると解り素直に喜ぶ。
「それとグラン
お前、白の剣士になる気はあるか?」
突然のトリストの問いにグランが一瞬固まる。
「でも、、、俺、、、
白の一族じゃ、、ないし、、」
白の剣士。
成れるものならなってみたい。
だが自分の半分は蜘蛛だ。
成れる訳がない。
グランは項垂れる。
その様子にトリストが察したように続ける。
「確かに白の一族が多いが
白の剣士はマスターの称号を持つ剣士が認証すれば
白の一族でなくても成れるぞ?
そう
例えば蜘蛛でもな」
蜘蛛でも?
トリストの言葉にグランが顔を上げる。
「な、なんてこと言うんですかっ!!
トリスト様!!
例えでもそんな怖い事をよくもまぁ、、」
リューズが握り拳を両手で作りながら涙目で抗議する。
「例えだよ、例え
黒の一族以外に嫌われていると言えば
蜘蛛ぐらいだろ?
それでもかまわないっていう例えだよ」
トリストは笑いながらリューズを宥める。
リューズにしてみれば蜘蛛は黒の一族同様恐怖の対象だった。
むしろ外見は蜘蛛の方が怖い。
例えにでもして欲しくない相手だ。
トリストが蜘蛛という例えを出したのは偶然だろうか?
それとも、、、?
グランはゴクリと唾を飲み込む。
「その気があるなら俺に一太刀あびせてみろ
掠りでもしたらご褒美に俺が認証してやろう」
軽くウインクしながらトリストがそう言う。
トリストは認証権を持つマスターだ。
「30%程度の力で相手してやる
せめてものハンデだ」
それでも掠らせないという自信なのか?
それともグランを白の剣士にしてやりたいのか?
トリストはハンデを付ける。
トリストの真意は測りかねたがグランはこのチャンスを逃すつもりは無かった。
「本気でいくからな
トリスト!」
「いつでもこい」
構えるグランにトリストは無防備に立ち、手で挑発する。
構えながらグランは足元を確かめる。
乾いた砂地だ。
風と共に砂が小さく巻き上がる。
利用できる。
そう判断すると木刀の先を地に刺し砂を巻き上げる。
「せいっ!」
間髪入れず衝撃波を辺りに叩きつけ
砂を巻き上げながら走る。
一面もうもうと砂煙が舞いあがり視界を奪う。
グランは砂煙に乗じて衝撃波をトリストに向け放つ。
その衝撃波がまた砂を巻き上げ、、、。
「すごっ
爆音と砂埃で何もわからない、、、」
防護壁を展開しながら様子を伺うリューズだが
全くどうなってるのか解らなかった。
唯、剣技の轟音が絶え間なく響く。
グランは砂煙の中位置を変え何発も衝撃波を打っているが
全く間合いに入れず攻めあぐねていた。
何発撃っても当たる気がしない。
グランの衝撃波を軽くいなしながらトリストは笑みを浮かべる。
丸太でこれだけ打てれば上等だと。
「ちっ、腹立つなぁ
あっさり受け止めてるし
一歩も動いてないんじゃないか?」
グランは小さく毒ずく。
自分の剣技は全て躱され、しかも初めの立ち位置のままだ。
このままでは一撃当てるのは夢のまた夢、、。
本当は『幻羽世界の守護者』という言葉を聞いた時から
白の剣士に憧れていた。
自分もそうなりたいと思った。
絶対一発入れてやる。
改めてそう誓うが、打つ手が思いつかず悩む。
目くらましは役に立っていない。
つまり気配を読まれているという事だ。
ならば、、、気配を断つ?
それが出来れば可能性はある。
やった事は無い、だが、トウランスが言っていた。
自分には狩人の本能が流れていると。
蜘蛛の持つ、獲物を捕らえる天性の本能。
それを呼び起こせば総てを無に出来る筈だ。
グランは瞳を閉じ本能に身を任せる。
グランの瞳孔が縦長に変じる。
「ん?」
トリストが気配を見逃し顔を上げる。
先ほどまでつかめていた位置が読めない。
背後から何かを感じ咄嗟に振り向き剣で防御する。
グランは防がれた事に動揺もせずまた砂煙に隠れ気配を消す。
「!
完全に気配を消したか、、、
こりゃ30%じゃきついかもな」
右から衝撃波がなんの気配もなくいきなり飛んでくる。
トリストは身を躱すが剣圧が髪をひと房かすめてゆく。
背後からグランが剣を叩きつけるがくるりと反転し受け止める。
受け止められたグランはすぐ軌道を変え右に左へと猛攻を何度も繰り返す。
定位置で受け流していたトリストが半歩後ろに下がらされる。
「ちっ」
小さく舌打ちし、グランの振りかぶった大技を後方にあっさり弾く。
「あっ」
しまったと、振り返った先にはリューズの防護壁があった。
トリストがずらしたグランの衝撃波がリューズの防護壁に直撃する。
くわ~ん、くわ~んとリューズの頭の中に轟音が木霊する。
グランの直撃にもリューズの防護壁は耐えきったが術者は眼を回す寸前だった。
「へぇ、いまのを凌いだのか、、」
トリストから見ても先ほどの技はかなりの破壊力だった。
これなら十分後方支援は任せられそうだ。
二人とも思った以上に使えそうだとトリストはほくそ笑む。
「さて、これが最後のテストだ」
そう言うとトリストは手の付け根を小さく噛み千切る。
見る間に傷口から血があふれ出た。




