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ニニデ解放 序章

降り注ぐ光に白亜の城が浮かび上がる。

緑に覆われた地に金の筋が浮かぶ大理石でその城は作られていた。

幻羽世界に在る白の居城である。

大戦前は何万もの白の一族であふれていたその城も現在は数百名を残すのみである。

だだっ広い城に人影は少なく人口密度は極めて低い。

最深部にある豊な天蓋が音を掻き消す寝台にシュリアンは横たわっている。

スフスフの神殿を攻めた後、魔力切れを起こし深い眠りについていた。

その黄金の睫に彩られた瞼がかすかに動く。


「シュリアン様の

 御気が付かれたですって?」

自室で本を読んでいた少女が侍女からの報告に本から目を放しそう尋ねる。

素早く立ち上がり姿見で身支度を確認し王子の部屋に向かう。

歳の頃は12、3歳。

豊な大きなウェーブのかかった蜜を思わせる艶やかな光沢のある黄金の髪。

猫の眼の様に少し吊り目気味の大きな黄金の瞳。

彩る長い睫も又黄金。

小さな唇、薔薇色の頬。

何処から見ても綺羅綺羅しい完璧な美少女だ。

佇まいにも気品がある。

少女がシュリアンの寝室についた時

シュリアンは起き上がり水差しの水を飲もうとしている処だった。

「これは

 グローリア姫」

少女に気が付きシュリアンが少女の名を呼ぶ。

「眼が覚めて良かったです事

 おばかさん」

グローリアは半眼でシュリアンを見つめ辛辣な言葉を投げかけてくる。

「 、、、返す言葉が無いな」

苦笑しながらシュリアンが答える。

「王子の様な方を学習能力が無いと言うんですわ

 馬鹿王子と呼ばれても致し方なくてよ?」

聡明で通る王子に馬鹿王子と面と向かって言えるのはこの姫くらいである。

「魔法力が-(マイナス)になって御倒れになったのは

 確か二度目でしたわね?

 シュリアン様」

シュリアンはポーカーフェースを装いながら内心冷や汗が流れる。

「 、、、確かに」

「力の大半を封印されているのをお忘れになって

 昔と同じように力を振るわれるからですわ

 もっと自重なさいませ」

返す返す言葉が無い。

だが、シュリアンはある決断を告げる。

「その封印を解く時が来たようだ」

シュリアンの言葉にグローリアが反応する。

封印を解く、その意味を彼女は知っていた。

「グローリア

 私は何日眠っていた?

 黒の一族による被害はどうなっている?」

シュリアンが不在の折にはグローリアが白の統制をおこなっている。

聡明なこの少女は全てを把握している筈だ。

「要石の攻防で一ヶ所手痛い敗北を期した以外にはありませんわ

 王子がそう処理したのではありませんの?

 私はてっきり王子が封印された物だと、、、」

グローリアは眉を顰める。

「封印?

 いや、私ではない」

「封印といいますか

 黒の聖地が円になって閉じてますの

 ではあれは黒の側がやった事ですの?」

てっきりシュリアンがやった事だと思っていた為グローリアも不審がる。

自力で開閉できるなら解るが一向に開かないところを見ると

どうも中の黒の一族に自由に開閉できるとは思えない。

だからこそシュリアンの仕業だと思ったのだ。

「妙ですわね

 あれでは確かに攻め込まれはしませんが

 出る事も出来ませんわよ?

 隔離状態ですわ

 ですからあそこからの被害は全くありません」

それともそれも何かの企ての一部なのか?

グローリアはその考えを口に出す。

「何かの企てでそのような真似をしているとも考えられなくも無いですが

 黒に理がある事など何も思いつきませんわ、、、」

「黒の内部で何かあったのかもしれんな

 もしそうなら

 我々にとって幸運だったと考えるべきか、、、

 だが何時までもこの状態は続くまい

 向こうの動きが無いうちにこちらの準備を整える」

シュリアンは優美な眉を顰め悔しげにグローリアに伝える。

「今の私の状態ではあの時の爆発を最小限に食い止めるだけで精一杯だった

 それでもスフスフの都や周辺は吹き飛んでしまっている

 黒の一族が侵入して来た以上、、、

 今の力では追い返すどころか幻羽世界を守る事すらままならない、、」

グローリアはシュリアンの思いを察する。

「ニニデを開放されるおつもりですのね?

 それは大戦の幕開けを意味しますわ

 よろしいの?」

「よろしいもなにも

 現に黒の一族の侵略は始まってしまった

 回避する方法は無いだろう」

シュリアンは覚悟をすでに決めている。


「では

 わたくしが参りますわ」

グローリアがそう宣言する。

「は?」

「だってシュリアン様はお馬鹿な事なさるから

 まだ自由に動けるほど魔力が回復していらっしゃらないでしょう?

 此処に戻られた時消えかかってましたわよ?」

グローリアにそう言われシュリアンは自分がかなり危ない状態だったと理解する。

まさか消えかかるまで消耗していたとは、、。

「だから

 私がシュリアン様を起こして差し上げます

 夫を起こすのは妻の役目ですから(ハート)」

可愛らしくにっこりと微笑みながら人差し指を唇に当てグローリアがそう言う。

シュリアンの眼が点になり、思わず場違いな声をあげる。

「なっ?

 つ、、妻ぁーーーっ?

 グローリア?

 誰がいつ決めたんだ??」

動揺するシュリアンに対しグローリアはさも当然と落ち着きはらっている。

「勿論私です

 シュリアン様と私

 お似合いですわ♪」

うふふふっと頬に手をあて上機嫌である。

「御目覚めになった白の王(お爺様)もきっとそう仰ってくださいますわ♪

 それにシュリアン様だって

 『早く大きくなりグローリア

 お前は私の大切な宝物だよ』って

 いつも仰ってくださいましたでしょう?」

シュリアンは蟀谷を押さえそう言う意味では、、と唸る。

「そりゃ、、、

 確かに言ったが、、、」

あくまで可愛い姪にそう話しかけていたにすぎない。

「それにこの白の里で私に勝る力の持ち主など居りませんわよ?

 大戦後に生まれた私は力の封印を受けていませんもの

 適任ですわ

 はっきり申し上げて分体のシュリアン様より力はありましてよ」

その言葉にシュリアンが息を飲む。

自分が分体だという事はほぼ誰も知らない事実である。

何故グローリアが知っているのか?

そもそも分体になった経緯はイレギュラーな事態が引き起こした事なので

周知される時間も無かった筈だった。

「私が分体だといつ?

 魔法能力以外は本体と寸分違わぬ筈だが、、?

 大体お前私の本体を知らんだろう?」

本体を知らないのに分体との差がどうやって解ったというのか。

「あら

 全部存知あげておりますわよ

 いえ

 訂正いたしますわ

 理解したと申し上げた方がよろしいですわね

 私が出来た時に」

そう言ってシュリアンの目前でグローリアは自身の分体を作り上げる。

この魔法は太古に作られた今はもう伝えられていない忘れ去られた魔法である。

魔力の配分が難しく、また多大な魔法力が無いと発動できない為

使いこなせる魔術師が居なくなり忘れ去られたのだ。


この姫はそれを独自に復元させたと言うのか。

シュリアンはその才覚に驚く。

流石、黄金の姫と称えられ白の一族屈指の魔剣士であった姉。

フローライトが命を賭して産み落とした子だけはある、、と。

だがシュリアンには一つの疑念があった。

グローリアで果たしてニニデが解放できるのか、、、?

フローライトが黙して語れない身となった今。

その問いに答えられるものは居なかった。





小さな村の宿屋の食堂で吟遊詩人が歌を奏でる。


 闇を掃い

 光を導く

 暁のごとく

 古の大戦に

 光を導く黄金の剣士

 

 闇を退け

 幻羽世界に

 和をもたらした

 気高き黄金の乙女

 

 彼の乙女の名を

 神々しい黄金の剣士の名を

 永遠とわに語り伝えん

 この調べにのせ


 暁の髪を持ち

 光の瞳を持ち

 比類なき気高き剣士

 

 彼の名は

 フローライト

 白の王女にして

 白の勝利の女神

 

 白金と金色の鎧に身を包み

 黄金の髪に縁取られる

 美しき剣の化身


 称えよ

 気高き守護者

 総ての和は

 彼の乙女の勝利

 彼の乙女の愛


 黄金の剣士

 金色のフローライト


 和の世界で乙女は眠る

 安らぎに満ち

 慈愛に満ちた光の中で

 世界が闇に覆われる

 その時まで


歌が終わり手琴の演奏を終え黒髪の吟遊詩人は観客に一礼する。

一番前で聞いていた少女が嬉しそうに語りかけてくる。

「黄金の剣士フローライト様の御歌よね

 私大好き♪」

吟遊詩人はその少女の頭を軽く撫ぜる。

彼は知っていた。

黄金の剣士がその眠りから二度と目覚める事は無い事を。

たとえ幻羽世界が滅ぶ時が来ても

彼の麗人の瞳が決して開くことが無い事を、、、。





 


 

   


 





古の一族は同母の兄弟でなければ婚姻可能です。

なので叔父と姪になるシュリアンとグローリアが結婚しても何の不思議もございません。

シュリアンの意志はともかく(笑

キルゼアとアルカシアも異母兄弟(兄妹?)なので恋仲になっています。

(まぁ黒の一族なのでどの位の愛情があったのかは、、アレですけどね~)

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