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トウランス

さぁ。美辞麗句を並べよう(笑

トリストと別れ、近くにあった白い石仕立ての四阿の影に隠れると

シェラもまたため息をついた。

トリストの好意に気が付かないほど鈍感ではないし彼自身も好ましくは

思っている。

何と言ってもトリストは二つ名持ちの剣士だ。

「剛腕のトリスト」それが彼に冠された異名。

白の剣士の中でも、先陣を切る突撃隊を指揮する隊長格の任を取ることが多い。

剣士としては全く不足はない、だが、、。


「彼は君に好意を抱いているようだけど?」

不意に四阿の中から涼やかな声がする。

四阿の石座にその青年はいた。

少し癖のある艶やかな黒髪、宝玉の様な蒼い瞳、整った顔立ち。

簡素な白い服を着ているだけだが、彼自体が稀な美貌を持つため全く気にはならない。

シェラから見ても非常に綺麗な青年だった。

「失礼、途中から聞くとはなしに聞こえてしまったんでね、、」

青年は非礼を詫びる。

「余計なお世話だったかな?」

確かに、大きなお世話だ。

「そのようだな」

シェラは表情を変えず冷たく言い放つ。

「彼は好みじゃない?

 それとも他にすでに意中の相手がいる?

 白の剣士は恋愛をしてはならない、、とか?

 まさかな、、」

シェラの静やかな拒絶を全く意に介さず、青年は次々と質問を投げかけてきた。

流石にむっとした表情になりあからさまな拒絶を示す。

貴公きこうに答える義務は無い。

 だいたい何者だ?貴公は?」


「気に障ったなら謝るよ、俺はトウランス

 マルナの森のトウランス」

幻羽人は名前の前に自分の所属地を名乗るのが常になっている。

「白の剣士なんて者に此処にきて初めてお目にかかったものだから

 好奇心が抑えきれなくて」

すまなそうな笑顔を浮かべつつトウランスがシェラに一礼する。

「来賓の地方領主か?」

「うん、まぁ、そんなようなものかな」

肯定も否定もせずにっこりと笑う。

「好奇心を持つのは勝手だが、それに付き合う義務は無い。」

魅惑的な笑顔にも微動たりともせずシェラは取りつく島も与えない。

そのまま立ち去ろうとする彼女に仕方ないなぁ、というような表情で

トウランスがさらに言葉を続ける。


「俺が、君の探している相手、、でも?」

「何?」

怪訝な表情でシェラが振り返る。

四阿からゆっくりと外に出た彼の背の羽が音もなく大きく開く。

背の丈の2倍は有にある透き通った彼の羽は光を纏い取り込み綺羅綺羅と七色に

光り輝く。

光羽こうよくを持つ者を探していたのだろう?

 俺の羽がその光羽だと思うが?」

光の羽を纏う彼の姿は神々しいまでに美しかった。

シェラはその光の羽から目が離せなかった、そう、光羽とは色ではなく

光で出来た虹色の羽。

-では、、彼が幻羽なのか、、?

 ならば話して見なければならない、、彼と。


「え?俺の事?」

再び四阿の中に戻り、今度はシェラも彼の隣に座る。

「そうだ、貴方あなたの事を教えてくれれば私も貴方の好奇心を満足させよう」

先ほどの突っ慳貪とした態度は消え失せている。

「そりゃ別にかまわないが、何も面白いような事は無いと思うよ?」

「マルナの森で生まれたのか?」

シェラの問いに少し遠い目をしてトウランスが答える。

「たぶん、、、そうだろう」

「たぶん?」

どういう事かとトウランスを見る。


「よく解らないんだ、俺に親は居ない

 物心付いた頃にはマルナの森の村人全てが俺の親代わりだった

 この羽のせいだろう、誰よりも美しい羽を持つ子供、幸せを呼ぶ子供

 俺は森の生き神として育てられた

 誰もが皆競い合うように俺の世話をやき大切にされた」

「 、、、 そんな森を捨てて来たのか?」

驚きとも非難とも取れる声色でシェラが問う。

「いや、そうい訳じゃない

 俺は唯ちょっとこの大陸の都を見てみたかっただけなんだ

 それが、この都に着いた途端いきなりこういう事に祭り上げられてしまって

 むしろ驚いてるのは俺の方なんだ」

首を振りシェラの考えを否定する。

「初めは断ろうと思ったんだ

 だが聞くところによると王選びは毎回甲乙つけ難く

 流血沙汰や酷い時は市民も巻き込んで暴動が起きるらしい

 白の剣士はその為の立ち会いなんだろ?」

確かに白の剣士は暴動が起きた時の仲裁の為に立ち会う。

有事の際、白の一族に比べひ弱な幻羽人を圧倒的な力でねじ伏せるために。

「俺が出れば誰も文句を付ける者はいない、そう言われたら無下に出来ないじゃ

 ないか」

流血沙汰を避けるために、何事もなく王の引継ぎが行われる為に。

「なるほど、、」

-選ばれた特別な羽を持つ者、、。

 幻羽人にかけられた永遠に解けない絶対無二の魔法。

 至高の羽を持つ本人さえも逃れ得ぬ。

 いや、その人こそが一番深い魔法の中に居るのかもしれない、、、。

ふっと、シェラの瞳に優しげな笑みが宿る。


「貴方の答えは全て外れだ」

「え?」

「先ほどの貴方の好奇心の答えさ」

キョトンとした表情でトウランスはシェラを見る。

「私はトリストが嫌いな訳でも、他に好きな相手がいる訳でも

 無論白の剣士が恋をしない訳でも無い」

片目をつむり耳に親指をかざしシェラは続ける。

「答えは私が白の一族と森の緑の民との混血児だからだ

 この耳は母譲りなんだ」

彼女の耳は横に長く尖っている、俗に言う妖精の耳だ。


「森の緑の民?」

トウランスには初めて聞く種族だった。

「貴方等幻羽人とは異なる、我々白の一族と同じいにしえの民

 そう、樹森もりの精霊とでも言えば解りやすいかもな」

肩をすくめるようなしぐさをし話を続ける。

いにしえの一族は長命だが生殖能力が低い

 なかなか子に恵まれぬんが実状だ

 だが混血児は純血児より生まれやすい傾向にある

 異種族との血の交わりは喜ばしい事なので

 余計それに拍車がかかってるようだ」

一息擱き瞳を伏せる。

「ともかく現在いま純粋な白の一族は殆ど生まれていない

 私はこれ以上自分の白の一族の血を薄めたくはないんだ

 トリストも白の一族と幻羽人との混血児なんでな」


「それが、、理由?」

呆れた体でトウランスが聞く。

「他人にとっては下らぬかもしれんが

 私には重大な事なのだ!」

ふんっと居直るシェラ。

「逆に私は羽などに何の意味も見出せんし興味も持たんからな

 確かに貴方の羽は美しいと思うが、それだけだ」

「そうなのか?!

 幻羽人にとって羽は命より大切なんだぞ!!」

シェラの言葉に驚きトウランスは声を荒げてしまう。

「らしいな、だが私には解らん」


羽の優劣など全くシェラには解らなかった。

彼女から見て、トウランスという男は羽もその容姿も美しい。

が、幻羽人からすれば彼の容姿などどうでもいいのである。

彼の背の羽の美しさこそが大事なのだ。


幻羽人と白の一族、姿かたちは見分けはつかないが

価値観は大きく違うのである。



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