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迷走 2

「強制的でしたがそれでもまだその頃は黒の一族とはいえ

 消えゆく命を繋ぎ止める事に意義を見い出し我々は素直に従っていました」

アストルートは淡々とその長い半生で起こった出来事を語り出す。


それは一人の深緑の森の民が黒の一族ではなく、下の村の者を先に救った事が切っ掛けだった。

黒の一族の怪我は軽く、下の村の者は一刻を争う状態だったため

彼は当然の事として下の村の者を優先し回復魔法を使った。

黒の一族で在れ白の一族で在れ幻羽人で在れ、消えゆく命は皆同じで優劣などありはしないのだから。


だがその理屈は黒の一族には通じず

その同胞は怒った黒の一族に殺されてしまう。

深緑の森の民はそれに抗議し彼らに従うのを止める決意をする。

深緑の森の民から回復魔法を拒まれた黒の一族は深緑の長を連れ去り

彼らをもう一度従わせるための人質としたが

誇り高き深緑の森の民は人質となり同胞を苦渋に追いやることを良しとせず

自ら命を絶ってしまう。

何度人質を取ろうが次々と彼らは恐ろしく潔く自らの命を絶ち死んでいった。

そしてとうとう長の一族であったアストルートを一人残すだけとなってしまう。

慌てた黒の一族は何とかアストルートを懐柔しようとした。

下の村の者を救うのも許そう、黒の一族に従えばその身の自由は保障する。

あらん限りの譲歩は尽くそうと。


「勿論私は同胞を死に追いやった黒の一族の言葉など聞く気はなかった

 私一人生き延びようとも思わなかった

 何より奴らの思い道理になる事など許せなかった

 私も死を選ぶつもりでいました」

だが、その時彼は見つけてしまった。

長の樹に孵化していない種子が残っている事に。

それがユーリィエだった。

「彼女の存在を黒の一族に知られるわけにはいかなかった

 生き残っているのが私だけだと思われていればユーリィエは安全の筈

 私は黒の一族に懐柔されたふりをすることにしました」

ユーリィエの頭を優しく撫でながらアストルートは続けた。

「それでもこのままではいずれこの子は見つかってしまうでしょう

 それに、それよりもこの子に私は、、、」

アストルートが言葉に詰まる。


ずっとその様子を見ていたトウランスが在る事に気付く。

余りにもユーリィエに表情の動きが無い事に。

それはトウランスの周りに居る者達がいつも表情豊かに生きている者達ばかりの所為だったかもしれない。

彼女の反応は異質だった。

「その子、、、

 表情がさっきから、、、」

その言葉に眉を顰め耐えがたい様な表情でアストルートが答える。

「そう、この子は下の村の幻羽人と同様に感情を表せない

 私がそう育ててしまった

 この子の安全の為に、、、」

良かれと思ってした事だった、だがそれは、、。

「だけどそれは間違っていました

 このままではこの子は駄目になってしまう

 このままこの森に居ては微笑むことすら知らず終わってしまう

 どうかこの子にこの世界は美しいと優しく生きられる処なんだと

 外の世界で生きる希望を与えてやって下さいませんか?」

異空間に幽閉される前の世界を見せてやりたかった。

願う事ならそこに住まわせてやりたい。

「ガキ連れで行けるほど楽な逃避じゃないんだがな」

アストルートの申し出にエクセルが不平を漏らす。

「エクセル」

トウランスが執成すように口を挟む。

「が、それが条件なら仕方ない

 闇黒水晶は深淵の静寂の中に在る

 あそこへは深緑の森の民の導きが無ければ入れんからな」

さも不服そうではあるが了承する。

「すまない感謝します

 あなたならユーリィエを託せます」

アストルートは安堵からの柔らかな笑みをエクセルに返す。


そこへ遠くから鐘の音が鳴り響く。

「鐘?」

場違いな音にトウランスが反応する。

「あれは私を呼ぶ合図です

 大方候の誰かが小競り合いでも起こしたのでしょう

 他人の痛みは楽しくとも自分の痛みは辛いんでしょうね

 しかし、、、もう」

アストルートが自虐的な笑いを浮かべる。

「エクセル

 導きはユーリィエが代行できます

 どうか幸運を」

そう言ってアストルートは軽く会釈をすると鐘の音の方へ歩き出した。

その様子に不穏な物を感じトウランスが彼を止める。

「待ってくれ!

 君はまさか死ぬ気じゃないだろうな?

 アストルート?!」

その言葉に微かにほんの微かにユーリィエが反応する。

「いけませんか?」

振り返ったアストルートの笑みはさばさばした物だった。

「もう私は自我を抑え黒の一族に従う必要はない

 彼らに殺された同胞の無念を

 唯一の回復系魔法の使い手である私の死をもって

 彼らに絶望という名の苦渋を味合わせてやるのがいけませんか?」

むしろ、開き直った凄味の在る笑みであった。


「だ、、め、、」

小さくそう言いユーリィエが振り返る。

そのまま倒れ込むようにアストルートの後ろから抱きつく。

「ユーリィエ?」

必死にしがみつくその様子にアストルートは驚く。

「あほう」

ユーリィエが飛びついた時にその手から落ちた緑の球体を拾いながら。

「誰が絶望するって?」

エクセルが容赦ない言葉を投げる。

「幻羽世界との接続ゲートが開いたんだ

 今さらお前が死んでも

 幻羽世界から白でも緑でも掻っ攫ってくれば

 全然OKだろうが

 お前の代りなんざ捨てるほど居るぞ」

その言葉にアストルートは一瞬怯む。

「で?

 意趣返しが出来ないとなるとどうする

 共に逃げるか?」

それは共に逃がすために協力してやるぞという暗黙の誘いだった。

アストルートはしがみ付くユーリィエを愛おしそうに見つめ。

そして眉を顰め決意を固める。

「いえ、、、

 私は残ります

 私が逃げれば他の誰かが私の代わりに捕らわれ

 黒の一族に無理強いさせられるのなら

 そんな事はさせられない、、、」

また罪のない者が殺される参事が繰り広げられるだろう。

緑の民の一族にしろ、白の一族にしろ素直に黒の一族に従うとは思えなかった。

自分ならもう慣れた事だし耐えられる。

「、、、そうだな」

アストルートの思いを察しエクセルが肯定する。

そのエクセルの気持ちを察しアストルートも笑みを返す。

「アストルート

 ロリアンに俺の事を聞かれたら

 俺に命じられて案内したと言えよ」

「王子に?」

「あいつなら俺の脱出路に必ず気が付く

 あいつに下手な嘘は通用せん

 俺の事を庇おうと等思うな

 俺に命じられたという事実を言え」

エクセルの言葉にアストルートはロリアンを思い浮かべる。

確かに小細工などは通じないだろう、、だが、、。

「それと

 死ぬなよ

 それがそのガキをを連れて行く条件だ」

死ぬなとエクセルが釘を刺す。

その言葉は誤魔化そうと決意を固めたアストルートの目論見を打ち砕く。

ロリアンにエクセルを庇おうとしたことを看破されればアストルートとて只ではすむまい。

エクセルの思いが痛いほど解る。

「、、、早く行け

 怪しまれるぞ」

そう言い捨てるエクセルに深々と頭を下げ、アストルートは屈み込みユーリィエの頭を撫でる。

「ユーリィエ

 幸せにおなり

 いいね」

そう告げると彼は黒の城へ向かって歩き出した。


残されたユーリィエの表情の無かった顔に微かな表情が現れ出す。

だが悲しみが上手く表せられない。

強張ったような表情にただ眼がしらに涙が浮く。

そんな様子にトウランスはそっとユーリィエの肩を抱き安心させるかのように囁く。

「大丈夫、、、

 約束しただろ?

 彼は死にはしないから

 だから

 またきっと、、、いつか会える」

その言葉にユーリィエが顔を上げる。

「そうだな?

 エクセル」

「ああ

 俺も今日そのガキを見るまですっかり奴には騙されていたからな

 奴なら多分上手くやるだろう」

一応、釘も刺しておいたし。

「それにこういう物もあるようだしな」

手にしていた緑の球体をトウランスに放る。

それを受け止めたトウランスはしげしげと眺め正体を導き出す。

「これは未成熟のリプル?

 自生しているのか?」

「自生しているなら深淵の静寂の中だろうな

 俺達も追手がかからないうちにいくぞ

 アストルートが呼ばれたという事は

 アルカシア達が生きているかもしれん」

「生きている?

 そうか、、、」

その言葉に安堵したかのような表情になるトウランス。

「安心している場合じゃないぞ?

 あいつ等が生きていればすぐ追手がかかるぞ」

トウランスの様子に苦笑するエクセル。

頷きつつもトウランスは殺さずに済んだならと思わずにはいられない。

そっとリプルをユーリィエに返す。

ユーリィエは表情を変えることなくその実を受取り大事そうに抱えた。

そしてゆっくり森の奥へ歩き出す。

深淵の静寂へ向かって。





その頃、幻羽世界ではアロンが閉じた黒の聖地の前で途方にくれていた。

「参ったな

 次の支持を仰ごうにもすっかり閉鎖されてしまっている

 この辺りにはもう要石はないんだよな?

 ミューズ」

「ああ

 なんだ?入れんのか?」

ぐるっと周囲を歩いてみたが視覚化された黒の聖地に隙間は全く無かった。

「中に連絡は取れんのか?」

ミューズの問いに

「う~ん

 エクセル様がいらしたらこんなことは考えられない

 という事は向こうに一時帰られたか?

 とすると残っているのはアーカル候達だけになるな」

アロンがそう答える。

「はっ

 なら期待は出来んな」

小馬鹿にしたような笑いでミューズが言う。

「まあな」

アロンも否定せず肯定する。

「で?

 どうする?

 このまま開くのを待つのか?」

「黒の聖地ばかりはどうにもできんからなぁ

 さて、、、どうしたもんか」

アロンも打つ手が浮かばず首を捻る。

このままスフスフの神殿を前に待機するのも時間の無駄だ。

かといって肝心の要石がこの辺りに無いとなるとすることも無い。


暫く考え込んでいたミューズがふと思い出す。

「ゲート」

「ん?」

「新たにゲートを開くと言うのはどうだ?」

突拍子もない案にアロンが呆れたように言う。

「どうやって?

 あれはニエと魔法陣が必要だ

 俺は書けんぞ?」

アロンは優れた魔剣士であるがゆえに魔力補助的に使われる魔方陣には疎かった。

ミューズはこつんと自分の頭を親指を立て小突く。

「エクセルは知っていたようだな

 入ってるぞ」

「書けるのか?」

「ああ

 それにニエなら」

ニヤリと笑うミューズは当てが在る様だった。





 



 




 

 

 

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