↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/65

慈母草

リプル。

正確には樹ではなく草である。

3mほどに成長し、直径2mほどの実をつけるが

別名、慈母草マザーグラスとも呼ばれている。

幻羽婦人が作ったという謂れと、その習性からつけられた名でもある。

花は咲かず、直接小さな実を付ける。

1本の草に実は10個ほど付き、下の実から順番に大きく成長する。

1つか2つ実が成熟したらそこで実の成長は止まる。

何事も無ければそのまま時が止まったように枯れる事も無く

実も熟れて落ちるようなことは無い。

その実が落ちるのは受け入れた怪我人、病人が完治した時である。

リプルの実の表皮は1度だけ治すべきものを受け入れる。

内部には回復液とも呼べそうな液体が詰まっている。

植物というより生命型回復アイテムと言った方が良いだろう。


緑の聖域にはリプルの群生地があり、シェラはその中の実の1つに居た。

「シェラ―、具合どうーー?」

10代に見える緑の民の少年が上部にあるリプルの実に大きな声で呼びかける。

「タラット」

シェラはその少年の名を呼んだ。

「タラット、何時になったら私はこの中から出られるんだ?」

実の中から表皮を叩くような仕草でシェラが叫ぶ。

彼女は聖域に連れてこられて以来ずっと実の中に居る。

「治ったら普通に出られるよ

 出られないのはまだ怪我が治ってないからだよ

 諦めて完治するまで入ってなよ」

タラットはまだ少年らしく、緑の髪も短く性格も陽気だ。

緑の民特有の入れ墨は左目の下にある。

「リプルの実はどんなに傷ついた物でも治癒させる究極の薬草だよ

 一度使っちゃうとその実は落ちちゃうけど

 慈母草マザーグラスともいうんだぜ

 我が身を犠牲に傷ついた者を癒すからね

 お母さんの言いつけは守んなきゃ」

リプルの実は繁殖の為の物ではない。

リプルの苗木は緑の民の長だけが株分けさせることが出来る。

「しかしタラット

 黒の一族が侵入してきているんだ

 解るだろう?

 私は白の剣士としてこんな処でいつまでも閉じ込められている訳には

 いかんのだ!」

シェラは歯痒かった。

一撃で倒された事も、何時までも戦線に復帰できない事も。

「そんな事言ったって完治するまで無理なんだってば

 幻羽婦人が作ったプログラムなら

 変更できるのは幻羽婦人か幻羽くらいなものだし」

タラットは腰に手をあて諭すように言う。

幻羽婦人の目撃はたまに聞くことも在るが幻羽共々行方は解らない。

時の流れが変わる折に現れるとも言われれている。

「それに、黒の一族は結局王子でも追い返すことが出来なくって

 今は膠着状態だって聞いたぜ」

タラットの言葉にシェラの眼が見開く

言ったタラットはしまったとばかりに口をお抑える。

「ど、どういう事だ?

 今、どういう状況なんだ?! タラット?!」

「あわわ、、、

 だ、だから、今すぐどうって事は無いって話で、、、

 第一今ここでシェラが無理したら

 せっかくヌークが根を抜いて出向いた意味が無くなっちゃうじゃん!」

失言から失言とはまさにこの事だった。

「母上がどうしたって?

 根を抜く?

 それはどういう事なんだ?!

 タラット!!」

シェラの問い詰めにタラットは眼を泳がせ如何したらいいのか解らず

アワアワしている。

「全く、、緑の民とは思えん口の軽さだな」

呆れたと嘆き混じりの声と共に長身の緑の長とヌークが現れる。

「トライアント様!ヌーク様!!」

「母上!」

トライアントという緑の長は足元遙かに長い緑の髪と穏やかな緑の瞳を持つ

美丈夫だ。

ヌークと同様に額と左目の下に入れ墨があるが額の文様が違っている。

「母上!

 根を抜くとはどういう意味なんですか?

 もしやシェラの為に危険な真似を?」

シェラは泣きそうな表情でヌークを見つめている。

「ヌークの娘よ

 いずれ解る事だ隠し立てはせぬ

 一度張った根を抜けば二度と根は張れん」

ヌークに代りトライアントが静かに答える。

「な、、」

シェラは戸惑いを隠せない。

「そなたの母は不死を捨てそなたを救う道を選んだのだ」

根を張れば緑の民は永遠に近い時を生きる事が出来る。

が、時が来ても根を張る事が出来なければ、、、。

「母上!

 何故です!何故そんな事をっ!

 そんな事をなされば母上は枯れてしまうっ!!

 シェラは、、、シェラは嫌ですっ!!」

だがもう取り返しは付かない。

自分の為に母が枯れる、その事実がシェラを打ちのめす。

己の力量が足りなかったばかりに母を巻き込んでしまった。

後悔が、情けなさがその身を蹂躙する。

すっと、優しくヌークの触角の様な髪がリプルの実に差し込まれる。

癒すべきものしか受け入れないはずの実ではあったが緑の民は別の様だった。

シェラの頭の中にヌークの声が語りかける。

『アナタノ為ニナラ ドンナモノデモ差シ出シマショウ

 愚行ダト人ハ笑ウカモシレナイ

 デモソレバ母ノ思イ

 母ハ後悔等シテハイナイ

 大丈夫

 私ガ枯レルマデニハマダ時間ガタップリアリマス

 シェラ、アナタニ伝エタイコト教エタイ事ガ沢山アリマス

 聞イテクレマスカ?』

母の愛に、その深さにシェラは子供の様に涙を流した。

思えば穏やかな母であった。

森の賢者と称されるヌークは白の里の教師でもあり

前大戦の折は白の王子と共に戦った魔術士である。

穏やかな中に強い意志が感じられた。

その意志で娘を救う道を選んだのだろう。

シェラは母がくれたこの時間を大事にしようと思った。

母の思いを全て受け止めるべく。





目の前に鉄格子が在る。

薄暗い室内、饐えた臭いが鼻を衝く。

不意に棒のような物が差し込まれ手痛く突かれる。

痛いっ止めてっ!泣きながら懇願したいが言葉が出てこない。

悲鳴をあげ耐えるしかない。

誰か助けてっ!

必死に手を伸ばす。

その時、青い目をした綺麗な人が驚いたように。

こちらを見ているのに気がついた。

誰かに怒鳴っている。

、、、の為に怒鳴っている。

光りが、眩い光が目前に飛び込んで来た。


「、、、酷ぇ、夢見、、、」

最悪の眼覚めだった。

グランは冷たい石の床から身を起こした。

後ろ手に縛られているがそのくらいは容易に出来る。

鉄格子を嫌そうに見る、どうやら投獄されているようだ。

「これの所為か

 暫く昔の夢は見なかったのに、、、」

忌々しい鉄格子、嫌でも昔を思い出す。

キィッと音をたてドアが開いた。

「よぉ、気がついたようだな」

そう言いトリストが椅子を手に鉄格子の向こうに入ってきた。

「どうだ?少しは頭が冷えたか?」

椅子をおろし腰掛ける。

「冷える訳ねーだろ

 何発も殴られて牢に放り込まれて」

グランは憮然として答える。

「はは、まぁそりゃそうか

 でも、今は少なくとも俺と話せてる

 だろ?」

トリストは温和な笑みを浮かべている。

忌々しそうに睨むグランは昨日の事を思い出していた。

トウランスを見捨てて撤退した事を聞かされ彼は逆上し。

止めようとする白の剣士達を叩きのめし大暴れして

スフスフの神殿に戻ろうとするのを

トリストにあっさり殴られ気絶したのだ。

「そういや、一番痛いのこいつにもらったんだっけ、、、」

ぶつぶつと小さく呟き、じと眼で睨み付ける。

「殴ったのは悪かったが

 ああでもしないとお前を止められなかったんでな」

「止めなきゃ良いだろっ!

 俺はトウランスを助けに行くっ!

 大体、あんた達と俺は関係ないんだっ!

 放っておいてくれよっ!」

グランは噛みついた。

その様子を静観していたトリストだが

「それで無駄死にさせろってか?

 出来ん相談だな」

にべもなく切り捨てる。

「グラン、俺は剣士だ

 命のやり取りに身を置くものだ

 戦友なかまが目前で志半ばで死ぬ様を何度も見てきた

 志半ばで倒れた者の思いは生き残った者が受け継ぐことが出来る

 だが

 無駄死には下の下だ」

静かに淡々とトリストはグランに語る。

「そ、そんなもの

 やってみないと解らないだろっ!」

それにそれで俺が無駄死にしたとしても

それが俺の意志なら自己責任の筈だっ!

と、グランの意志は変わらない。

「無駄死にだっ!

 トウランスがなっ!!」

思いもよらないトリストの言葉にグランが固まる。

「ト、、トウランが、、、?」

「トウランスは俺を庇い黒の聖地に飲み込まれた

 俺達が助かったのはあいつのおかげだ

 俺は、あいつが助けてくれたこの命、無駄にするつもりはない!

 それでもお前はその命を捨てに無謀な戦いに行くのか?」

グランの意志が音をたてて崩れて行く。

「今の俺達で、あの黒の聖地を攻略するのは100%不可能だ」

トリストの言葉が追い打ちをかける。

「そんな事を奴が望んでいると思うのか?」

そう、トウランスはそんな事は望んではいない。

グランにも解っていた。

いつも言っていたトウランスの言葉が蘇る。

「グラン、俺がお前に教えてやりたいことは唯一つ

 どんな時でも一人で生き抜くことが出来る力だ

 お前がどちらの種族として生きるにしても

 何が起こっても一人で生き抜くだけの強さを、な」

グランを生き地獄の様な生活から救い出してくれた時から

トウランスは彼をそう言って鍛えてきた。

何が起こっても一人で生きて行く強さ

それは腕力だけではなく、精神もである。

「そう、、だ、、、

 死ぬ為じゃない、、、」

グランは項垂れトウランスの言葉を反復する。

その眼に涙が溢れる。

付きものが落ちたように年相応の少年の様に

後から後から涙が止まらなかった。


その様子を見ていたトリストは安堵したような笑みを浮かべ

後ろで恐る恐る覗き見ていた部下に声をかける。

「おい、出してやれ

 大丈夫、大分頭が冷えたようだからもうあんな真似はすまい」

グランに手痛い洗礼を受けた剣士はそれでも及び腰である。

「トウランは、、、」

付き物は落ちたようだがこの考えを改める気はないとばかりに

グランはトリストに食い下がる。

「トウランはきっと生きてる、、

 死んでなんかいない、、きっと生きてるっ!

「そうだな、俺もそう信じてる」

柔らかい笑みだった。

グランはそんなトリストに完全に毒気を抜かれた様に見入った。

間もなく鍵が開けられグランは牢から解放される。


リューネの村だった。

外に出たグランはゆっくり辺りを見回す。

リューネまで戻って来ていた事にも気がつかなかった。

本当に頭がぶっ飛んでいたようである。

すれ違う白の剣士達の眼が痛い。

相当迷惑をかけた様でこそこそと逃げられたりしている。

グランは悪い事をしたと反省していたが

それ以前にそこまで頭に血が上っていた状態でアレに覚醒せず済んだことに胸をなでおろしていた。

「グラン!」

トリストに連れられリューズが走ってくる。

「良かった!出してもらえたんだ」

涙目で抱きついてきた。

「ごめんね、私があんなことお願いしたから、、、

 私が一人でスフスフへ行くって無茶したから、、、」

泣きながら謝ってきた。

「リューズだけの所為じゃないさ

 俺も同意したし」

そう、グランもミューズを助けたかったのは事実だ。

「でも、、でもそのせいで

 トウランスさんが、、」

リューズの涙は止まらない。

「大丈夫

 トウランはきっと生きてる

 トウランスが死ぬはず無いんだ

 もしかしたら黒の一族に捕まっているかもしれないけど」

その言葉にびくりとリューズの体が固まる。

「だったらいずれ助け出せばいいだけだ」

そう安易な気持ちで語るグランにリューズの震えが伝わる。

 「リューズ?」

彼女は知っていた。

黒の一族に捕虜にされたらどうなるか。

黒の一族は残忍で執拗だ、甚振られ蹂躙され死ぬより酷い目に遭わされる。

ミューズもそうなっているかもしれない、、、。

でも、でも生きてさえいてくれたなら、、、。

「リューズ?どうした?

 何か知ってるのか?」

グランはそんなリューズの様子に戸惑いつつ問い詰める。

答えはトリストから帰ってきた。

「グラン

 もしトウランスが黒の一族に捕えられているとしたら

 一応覚悟だけはしておけ

 奴らは残忍で血を好む、五体満足な姿で居るとは思うな」


トリストからの言葉にグランは大地が揺れた様な気がした。

足元がおぼつかない。

「だが、望みはある

 奴らは「力」には敬意をはらう

 黒の奴等は力こそすべてだと思っているからな

 トウランスには黒と白の魔道の力がある

 これは奴らにとっても稀有な力の筈だ

 巧くいけば無事でいるかもしれん」

それは悲痛な望みであった。

だが、確かにトウランスは力のある魔術士だ。

その稀有な魔力に奴らが惹かれるかもしれない。

「奴らにとっても両極の力には興味があるはずだ」

全くの望みが無い訳では無かった。


その強者を屠りたいという欲望が顔を覗かせなければ、、、、。

 

 


 




 

 






 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。