黒の聖地 8
蜂蜜を連想させるような黄金の長い髪。
蠱惑的な黄金の瞳。
その女は白い塔の中に降り立つ。
彼女の眼前に深々とローブをかぶった人影がある。
その瞳からはらはらと水晶のような涙が落ちる。
映像はいつもそこで終わる。
顔すら見えぬローブの主。
だが、見えぬ筈の顔を知っている。
眼ではなく魂で視たのだから、、、。
「今のは、、、」
エクセルは目を押さえ思いを馳せる。
ああ、またいつもの夢か。
夢の中の女が誰なのかはわからない。
女の顔は視えはしないから。
だが、ローブの男の顔は忘れられない。
忘れようがない。
エクセルは急ごしらえのベッドに寝かせた男を見つめる。
黒の聖地に捕らわれていた男。
忘れようがない男と同じ顔をした男、、、。
この男がそうなのか?
生まれる前から知っていた。
あの涙を見た時から決めていた。
そしてずっといつも心に誓っていた。
主を見つけたら彼の為に生きようと。
瞳を、、、瞳を開いてくれたら
彼かどうか解るのに、、、。
人が少なくなっているのが幸いした。
誰の眼にも触れず彼を自室に割り当てられた一角に連れてこれた。
酷い怪我だが目についた箇所は手持ちの薬草で応急手当をした。
後は目覚めてくれるのを待つばかり。
彼なのか?彼ではないのか?
じっと待つ手が期待と不安で震える。
もし彼で無かったら、、、失望で殺してしまうだろう。
それほど願っていたのだ、彼に相見える日を、、、。
「うっ、、」
ちいさく呻く声。
ゆっくりとトウランスは瞳を開く。
青い、冴えわたる澄んだ青い瞳。
エクセルはその瞳の美しさに息を飲み、確信する。
彼こそが自分の運命だと。
恋い焦がれるようにずっと探し待ち望んだ主だと。
思わずその手を取り甲に口づける。
「な、、、? き、、、」
なにを?きみは?とでも言いたいのだろう、だが息が荒く声にならない。
トウランスの顔が苦痛に歪む。
さらに息が乱れる。
「おい?」
問いかけ握りしめる手の熱さに気がつく。
額に手を当てる、熱い。
「まずいな、外傷だけじゃないのか?」
黒の聖地は光さえも取り込み高圧力で粉砕する魔法陣だ。
むしろ防護結界を駆使したとしても無事な方がおかしい。
エクセルは己の甘さを痛感する。
彼に会えたことに舞い上がり現状の判断を疎かにした。
その結果、彼を失う事に繋がるかもしれない。
「どうする?!俺に回復系の魔法は使えん、、、
このままだと、、、」
みすみす目の前で彼を死なせてしまう。
やっと見つけた主を助けることが出来ず
捕まえた手がすり抜けて行く、、、。
エクセルはこの時ほど回復魔法を使えない自分を呪った事は無い。
回復魔法さえ使えれば助けられるかもしれないのに、、、。
黒の一族は好戦的、攻撃至上主義な本能ゆえか、
どんなに優れた魔術士であろうと回復系の魔法は一切覚えられなかった。
「いや、、まだだ
一つだけ手段はある、、」
エクセルはトウランスを助けられるかも知れない方法を思い出す。
だがそれは同時にかなり危険な賭けでもあった。
此処に来て迷いが生じる、果たして実行していい物か、、、?
下手をすればより酷い結果を生むかもしれない。
だが、、、このままでは確実に彼の命は無い。
ならば迷うべきではない。
生きてさえいてくれれば、、、。
荒い息の中苦痛に苛まれるトウランスをシーツごと抱き上げ
エクセルは走った。
神殿の廊下で八つ当たりをしているアーカルと会う。
「エクセル? 何処へ行く?」
今さらながらエクセルの腕の中の者に気がつき。
廊下を塞ぐ様な格好でトウランスを覗きこんでくる。
「なんだそれは?」
エクセルの瞳に剣呑な光が宿りアーカルを射すくめる。
「どけっ!
貴様には関係ないっ!!」
恫喝し、足早にゲートへ向かう。
後に残されたアーカルは何が起きたか解らず一瞬ぽかんとしたが
すぐにわなわなと怒りに震える。
「エクセルっ! おまっ、、候の俺に、、、」
制裁を加えたい処だがいかんせんアーカルの敵う相手ではなく
顔を赤らめて怒鳴る事しか出来ない。
その様子を伺っていたトリンが
「今の怒鳴り声エクセル様ですか?」
空気を読まない台詞を落とす。
はぁ?!とアーカルに睨まれながら
「俺、、エクセル様が怒鳴ったのなんて
初めて聞きましたよ、、、」
ずっと本音を吐くことが無かったエクセルから
仮面が捨てられた瞬間であった。
ゲートの前に出たエクセルはトウランスを見る。
彼が異空間の移動に耐えられるか、耐えられたとしてもマナ値が合うのか?
総ては賭けである。
覚悟を決めゲートに飛び込む。
一瞬の冷気が身を包む。
飛び出ればそこは黒の王城の最下部。
「エクセル?」
不意に帰還したエクセルに声がかかる。
当のエクセルは腕の中のトウランスに神経が集中していた。
苦しそうだが息はしっかりしている。
ほっと安堵し、仮面をかぶる。
「何かあったのエクセル?
何? それ?」
目聡くアーカルの姉であるアルカシアが腕の中のトウランスに気付く。
「先発隊はどうした?
アーカルは?」
こちらはキルゼア。
腹違いのアーカルの兄であるが、古の一族は同母でなければ婚姻可能なので
候の一人と言った方がいいかもしれない。
アルカシアは赤を基調としたハイネックで肩が露わになったドレスを着ている。
キルゼアは黒が基調で金の縁取りがある衣装だ。
「候に指揮は任せてきた
現在、要石を探査破壊工作中だ
詳しくは今から王子に報告して来る
後、先発隊に欠員が出ているマナ値の近い物を5~6人送ってくれ」
では、とエクセルは足早にその場を後にした。
「あらホント、マナ値が少しだけ空いてるわ♪」
嬉しそうに魔術士の一人が計測器を見て確かめる。
「何、それじゃあ至急補充を送り込め
くそっ、俺が行けたらなぁ、、」
悔しがるキルゼア。
彼はかなりの使い手なのだが、いかんせん候だけあってマナ値が高い。
考えれば斥候にエクセルを送り込める事が出来たのは黒の一族にとって
重畳であった。
いざ、幻羽世界に繋がったものの、そこで初めてマナ値なる物が判明し。
コロシアムで優勝はしたもののエクセルが降りるにはマナ値が足りないのでは?と
心配されたが。
その時、エクセルにはマナ値が無いと判明したのだ。
五指に入る使い手なのに何故?と不思議がられたが渡りに船だった。
そんなエクセルの後ろ姿を訝しげにアルカシアが眼で追う。
「どうかしたのか、アルカシア?」
「エクセル 変じゃない?」
「あいつが変わってるのは前からだろう
別に今さら」
何を言ってるんだとキルゼアが鼻で笑う。
変わってるのが通常というのも失礼な言い草なのだが、、、。
「だからよ
今の報告至極まともだわ」
これまた酷いいいようである。
確かに黒の一族の尺度で言えばエクセルの言動は風変りではあるのだが。
「それに、、、
大事そうに抱いていた傷だらけの奴
黒髪だったけどアロンって訳でもなかったし
妙に気になるわ」
出来の悪いアーカルの姉アルカシアは出来る女であった。
黒の王城の地下をエクセルは走る。
こんなに自室が遠いと思った事は無かった。
腕の中のトウランスの温もりがまだ生きている事を示しているが
辛そうな息に心が逸る。
確かまだ一つ残っていた筈だった。
自室にさえ戻ればあれが使える、、、。
エクセルは黒の実力者である故、王城に部屋をあてがわれている。
彼はその部屋を好きに改造していた。
黒の一族が嫌悪するような部屋に。
漸く自室の扉が見え、飛びこむ。
途端に薄暗がりだった黒の王城の廊下と違い暖かい光が溢れ花弁が舞う。
そこは花畑であった。
エクセルは中央付近にある大きな実をつけた植物を確認し
傍に行き、その実にトウランスを入れる。
途端にトウランスから苦悶の表情が和らいでゆく。
「間に合ったか、、、」
安堵の深いため息が出る。
「この実の液体は強い治癒能力を持つ
時間は多少かかるがこれで大丈夫な筈だ、、、」
エクセルは知らない、その実はリプルという樹である事を。
幻羽婦人が作ったとされるその薬樹は完全治癒能力を持つ数少ないアイテムである。
エクセル自身何度かこの樹には世話になっていた。
名前は知らないが効果は確信している。
「早くもう一度その眼を開いてくれ、、」
リプルの実ごしにエクセルはトウランスを見つめる。
愛しい者を見つめるかの様に、、、。
「目覚めてくれ、俺の待ち焦がれた運命の主、、、」
リプルの中のトウランスは瞳は閉じたままだったが
苦痛はもう感じていないようだった、、、。
エクセルは安らかなその顔を飽きることなく見つめていた。
時を忘れるほどに、、、。
ここ数日夜になると なろう に接続できなくて、、。
どちらかと言えば夜の方がのって書けるので往生いたしましたがな~(><)。




