黒の聖地 2
マナ値0(ゼロ)の魔術士?
と言われ黒の剣士達がお互いを視合う。
お前の事か?いくらなんでも失礼だろうっ!という具合に。
マナ値と力は普通比例する。
マナ値が低いと弱いという事になる、それが0という事は。
力が総ての黒の一族では落ちこぼれ以外の何物でもない。
「エクセル様なら先ほど出て行かれましたが、、」
静かに答えたのはアロンだった。
その言葉に黒の剣士達はまさかっと耳を疑う。
「おや残念、王子から土産を預かって来たのに」
そう言いながら辺りを見渡す。
「、、、妙な毛色の女が居るじゃないか?」
黒髪の少女にアーカルの視線が止まる。
「彼女はエクセル様が」
蘇らせてという前にアーカルが手を上げアロンを制す。
「ああ、なるほどね、エクセルの仕業ね
奴の奇行は今に始まった事じゃないから
何をしようが驚きはしないよ」
「お前、手に何を持っている?」
にこやかに笑うアーカルに少女が無造作に問う。
「おやおや、口のきき方も知らないのかな?」
アーカルの笑みは崩れてはいないが眼が笑う事を止めている。
「、、、悪かったな
何せ何も覚えておらんものでな」
少女の横柄な態度は変わらない。
「ただ、お前と私に敬意を払うほどの力量差があるように
視えなかったものでな」
アーカルの顔が引きつり慌ててアロンが窘める。
「お、おいっ」
アロンの擁護もむなしくアーカルは怒鳴り怒りにまかせ踵を返す。
「実に不愉快だっ!
アロン、俺はエクセルにこれを渡して来る
その間にその女によく教えておけっ!」
「あ、はい」
取りつく島もなくアーカルはエクセルを探しに出ていった。
「あいつ何を怒っている?
私は本当の事を言っただけだぞ?」
少女の言葉にアロンはため息をついた。
「なお悪い」
「何故?」
少女からすれば素朴な疑問だった。
「お前、黒の陣営に入るつもりならよく覚えておけ
俺が『アーカル候』と呼んだだろ
『候』と付く方は黒の王の御子だ」
アロンの答えに少女がまた問う。
「ならばあれが黒の王子か?」
「いや、黒の王子はロリアン様だけだ」
どういう事なのか?と少女の顔には疑問符が浮かんでいる。
「お前たち、アーカル候はまだこの地に慣れておられぬはず
お前たちも一緒にエクセル様をお探しして来い」
アロンは黒の剣士達にそう命令し少女に向き合う。
「お前、なぜそう思った?」
「ん?力量のことか?
簡単だあいつには負ける気がせん
同じくエクセルには勝てる気がせん」
口をへの字に曲げ少女が答える。
「明快だな」
その答えにアロンは笑った。
「お前にも負ける気はせん、、、が
あいつよりはやっかいそうだ」
その言葉に口元に笑みを残しながらアロンは少女改めて視る。
なるほど自分にも勝てると言うかこの少女は。
あながちその言葉は嘘ではないと値踏みする。
ちっぽけな白の一族の少女に過ぎなかった存在が
エクセルの血と魔力によって覚醒した。
この少女は良い手駒になるかもしれない。
「黒の一族においては力こそが総てだ
強者のみが君臨できる
黒の王の御子と言えど王子と称するに相応しい力とカリスマ性を持った御方は
ロリアン様だけだという事だ」
「なるほど、あいつは王子の出来そこないという事か?」
「身もふたもない言い方ではあるがその通りだな」
「なら解せん、あいつなどを送り込んでくるよりお前クラスを数名
よこした方がよほど戦力になるだろうに」
少女の言葉はアロンにとって耳触りの良い言葉ではあったが
アロンでは駄目な事情があった。
「土産だ
ほらお前がアーカル候に尋ねたあの球体さ
あれを運んでくる必要があったんだ」
アーカルが持ってきた球体は「黒の聖地」という黒水晶で出来た魔道具である。
「あれは『黒の聖地』
前大戦の折闇神自らが呪文を錬り闇の力を凝縮したもの
侵入した物を捕え何物も逃がさない、そう光さえもな
俺達魔剣士クラスの術者が千人束になるより強力な結界魔法具だ」
ブラックホールの様な物かもしれない。
「なかなか厄介な代物でね、俺達が持ち込む予定だったんだが
異空間移動には一定のマナ値の保護が必要だったんだ
残念ながら俺のマナ値では無理だったんでね
候の出番となったんだろうな
候の方々は皆一様にマナ値が高いからな」
「ほう、、、
いわば体のいい運び屋ということか」
少女の言葉は辛辣だが的を得ている。
「そう言えば、エクセルのマナ値が0だと言っていたが、、、
どういう事だ?奴の魔力はとんでもないぞ?」
マナ値と魔力は必ずしも比例する者ではないという事なのだろうか?
「俺だって解せないさ、一般にマナ値と力は比例するものだが
そんな事は関係ない、マナ値がどうあろうとエクセル様の力は本物だ
現に『黒の聖地』の呪文を単独で操れるのは王子ロリアン様を
除いてはエクセル様だけだ
何人もの魔術士が共同で四苦八苦して操る呪文をあの方は
涼しい顔で操るんだぜ?
あんな凄い方はそうそういるもんじゃないマナ値なんざ糞喰らえだ」
誇らしげにアロンは語る。
「マナ値の高いアーカルに出来んことがマナ値の無いエクセルに出来るのか
ふっ、アーカルはさぞ面白く無い事だろうな」
ふんと鼻で少女は笑う。
「だろうな、だが候に出来るのはせいぜい皮肉る事くらいだ
エクセル様の前に出れば何も出来ん
それに悪口を気になさるエクセル様でもないしな
なにしろロリアン様の前でも平気で軽口をたたかれる方だ」
少女は思う。
-ロリアン
不思議だ、その名前が出るたび気持ちが落ち着く、と。
これはエクセルの記憶なのか?
少女には自分の記憶はほとんどない。
果てしなき憎悪、理由なき恐怖、自分の中に渦巻くどうしょうも無い怒り
それが少女の記憶の総て。
死の淵でも放さなかった離れなかった少女の総て。
交差する断片的な記憶、これは少女を蘇生させたエクセルの記憶。
少女の半分は不完全なエクセルのコピー。
黒の中にありながら異質なエクセルの思いの数々。
いつの間にか飲み込むことに慣れたエクセルの本心。
その中で唯一偽らざる思いを語れる相手
それが、黒の王子ロリアン。
そのロリアンに会ってみたい、、と。
エクセルを見つけた剣士に案内されたアーカルは
エクセルに「黒の聖地」を渡した。
運ぶのがどれだけ大変だったのかなどと話に色を付けて。
黙って笑みを湛えたままエクセルはそれを受取り
剣士にアロンと少女を呼ぶように命じる。
全員が揃ったことを確認し、呪文を発動させる。
黒の聖地と呼ばれる黒水晶は発光し黒い光のベールをシュルシュルと紡ぎ出した。
ベールは広がり黒い光の幕となり神殿を取り囲み迷路のように幾重にも広がる。
その様子はさながら黒いオーロラの様だった。
「位置をよく覚えておけ
間もなく視覚化しなくなる
黒の一族でも取り込まれれば命は無いぞ」
エクセルがそう告げる。
一同は消えるまで黒いオーロラを凝視していた。




