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影への転移 6

「で、さっき言ってた為すべき事って?」

グランの問いに嬉し涙をぬぐいながらリューズは答える。

雨もいつの間にか止んだようだ。

「白の里に戻って王子に黒の一族の事をご報告しなきゃ」

先ずは王子に総てを報告しなければ、時は急を告げる。

「白の里か、、、けっこう遠いんだよな?

 じゃさ、トウランと一緒に送って行ってやるよ

 途中もし黒の連中が出てきてもトウランスが要れば安心さ

 なんたってトウランは白の魔術と黒の魔術が使える

 唯一人の奇跡の魔術士なんだぜ」

グランは自分の事のように誇らしげに自慢する。

「グラン、灰色でいい」

当の本人はいたって無頓着なようだった。

そう言いながら雨が止んだのを確認し、顔を蔽っていたマントを後ろへずらす。

「え~!俺、その言い方より奇跡の方が好きだな~」

漆黒の髪に蒼い瞳。マントから現れた顔は非常に端正な物だった。

その端正な顔がやれやれとグランを見ている。

リューズはその顔を穴が開くように眺めてしまった。

今まであったどの人物より綺麗な青年だった。

リューズの知る中で一番綺麗だと言えるのは白の王子シュリアン様だ。

だが目前の青年の方が美しかった。

その上白魔法と黒魔法が使えるなんて、本当に奇跡のようだ。

シェラの言葉が頭を過る。

「では、貴方がシェラ様が仰っていた

 最強の魔術士なのね、、、」

名前を教えて頂けなかったミダル様の最後の弟子。

彼がそうに違いなかった。

「剣士と魔術士の属性を持つ魔剣士はいても

 白と黒の両極の属性を持つなんて常識的にもあり得ないもの

 貴方の相性は+はあっても-は無いって事だもの

 最強よ!」

称えるリューズ、聞いているグランは嬉しそうだったが

トウランスは冷めたものだった。

マントを整え治しながら

「俺はそんな大それたものじゃない、人違いだろう」

静かに否定する。

「え、だって、あなたはあの伝説の魔導師ミダル様の最後の弟子なんじゃ?」

そう尋ねたリューズはトウランスの表情にはっとした。

怒り、憎悪、、、。眉を顰める端正な顔は負の感情に支配されているように見えた。

「まず、リューネの村に行こう

 あそこには白の里へ連絡できる霊水晶があるはずだ

 報告はヌーク殿がしてくれた筈だから確認するといい」

顔を上げリューズを見るトウランスの表情は優しげだった。

「は、、はい」

あれ?さっきのは見間違い?

リューズは眼をこする。

「リューズ?リューネだとまずいのか?」

心配げなグランに首を振る。

「ううん、王子へのご報告は早い方がいいから

 その方が私も助かるわ」

やっぱり見間違いだったのねと納得しリューズは歩き出す。

トウランスの後を追い、グランと共に駆け出す。

リューネまではほんの数日の道のりだった。




白の一族の居城、中庭に面した一室。

「黒の一族が復活した?真か?!ヌーク殿!」

中庭の木々の一角にヌークは現れ王子に謁見する。

光りが点滅し答える。

「リザイガルの書?」

「それは?」

ヌークの伝える信号に白の諸侯は首をかしげる。

「確か、幻の預言書でしたね

 ヌーク」

白の王子シュリアンが代わって答える。

彼もミダルから聞かされ知っていた、ヌークも同じなのだろう。

ミダルの弟子だった時代に数回だけ聞いた古の書物の名だった。

魔導師の間にまことしやかに伝わる預言書。

それには幻羽世界の滅亡までのまがまがしい未来を予言されていると

言われている。

新たな大戦がひき起こりそれに翻弄され破滅する幻羽世界を、、、。

ヌークは知り得た事を総べて伝え静かに土に消えて行った。



白い大理石造りの白の城は光を取り込み綺羅綺羅と輝いている。

先ほどのヌークが消えた中庭の一角に王子シュリアンは居た。

流れる黄金の髪、長い黄金の睫に縁どられた瞳も黄金。

白い長位ローブに白いマント翡翠宝珠が付いた金のサークレット。

その姿もまた綺羅綺羅しかった。

微笑むかの表情に鳥が舞い降り彼の手から木の実を啄む。

悠然とした彼の後ろで諸侯は策をこまねいていた。

「シュリアン様、スフスフの件早急に手を打ちませんと」

「しかし誰を?」

「黒の一族が侵入したとなれば彼らの当面の目的は

 要石の破壊、まず要石の守りを固める必要があります

 スフスフの都に投入するにも人数に限りがあります」

「それにシェラほどの手練れが後れをとったとなると、、、」

シェラは若いが現在の白の一族では上位の剣士である。

大戦前ならいざしらず大戦後の白の戦力は大幅に減退していた。

腕に覚えのある剣士の大半は討伐任務に出ている。

呼び寄せるにしてもと諸侯の面々は戸惑いを隠せない。


「心配ない、間もなく来るよ」

微笑みながらシュリアンは諸侯に語る。

そう、呼び寄せるまでも無い。

そこへどたどたと大股で駆け込んでくる剣士が居た。

「王子!

 シェラが大怪我したって本当ですか?!」

「トリスト!お前蜘蛛討伐に出ていた筈では、、、」

つい最近討伐任務を受け出ていたトリストがとんぼ返りで帰ってきたのだ。

「そんなもんとっくに終わらせて来ましたよ!

 で、一体シェラに何があったんですか?」

王子に詰め寄るように問い詰める。

「お帰り、トリスト」

ニッコリと出迎えるシュリアン。

「随分と早かったな、いつもこうだといいんだが

 報告は?」

やれば出来るんじゃないかという笑顔にうっと詰まるトリスト。

「白の剣士トリスト、依頼のあったセルデ近郊の蜘蛛は一掃して参りました!

 以上!」

敬礼をし、報告をするトリスト。

「一掃って、、無茶はしなかっただろうね?

 お前はたまにとんでもない事してくれるから、、」

報告を聞き一抹の不安を隠さないシュリアン。

「してませんてばっ!

 それより王子、シェラはどうなったんです?」

「シェラか、、、

 シェラには可哀想な事をした、、」

眼を伏せるシュリアン。

トリストの顔色がさっと変わる。

「まさか、、っ!

 シェラ死、、っ!!」

真っ青な顔でうろたえ怒鳴るトリストにシュリアンはさらっと

「傷跡が残ってしまうかもしれないね」

と、続ける。

はぁ??

何を言われたのか一瞬トリストの思考が止まる。

「傷跡って?王子?

 シェラ、、?」

「ああ、シェラならヌークの処だよ」

その答えに糸が切れたようにトリストはへたり込む。

「ヌーク殿の、、そうか、、、シェラの奴無事なんだ」

安堵のため息が出る。

「無事、、、という事は無いだろう

 普通なら即死だった傷らしいから予断を許さぬという処かな」

その言葉にトリストが反応する。

「王子、俺をっ」

トリストが言葉を言い終える前に

「駄目だよトリスト

 緑の聖域には森の民しか入れないよ」

トリストの考える事など手に取るように解るとシュリアンがダメ出しをする。

「第一お前が行っても何の役にもたたないし

 かえって邪魔になる

 シェラの事はヌークに任せておけば大丈夫」

それを後ろで聞く白の諸侯は、王子の辛辣な言葉にトリストに同情を隠しえない。

トリストにしても真実だけに何も言えない。

自分が行っても足手まとい以外の何物でもない。


「トリスト、スフスフの都に黒の一族が侵入した」

一転真面目な表情でシュリアンがトリストに語る。

トリストの表情も一転する。

「黒の一族が?」

我知らず膝を強く握りしめる。

「お前も知っている通りスフスフの神殿にはダミーサイズの要石が置いてあった

 ダミーと行っても違うのはサイズだけだ

 黒の一族との大戦を忘れぬため戒めとして各神殿に設置していたものだ

 要石には黒のマナが封じてある」

マナとは白の力や黒の力を持つ者が幻羽世界に存在する為に必要な物だ。

黒の力を有する者が存在するためには同等の黒のマナが必要となる。

逆に言えばこの黒のマナが無ければ黒の力を持つ者は存在出来ない。

前大戦も白の一族が勝利できたのはこの黒のマナを幻羽世界から一掃できたからに他ならない。

「ダミーサイズの要石が破壊され微量ながらも黒のマナが解き放たれた

 これ以上黒の一族の侵入を許すわけにはいかん」

シュリアンはトリストを見つめる。

「行ってくれるか?スフスフへ」

トリストはニヤリと笑い答える。

「王子らしくもない

 いつも通り命じてくださればいいんです

『行って来い』とね」

「トリスト、相手は」

「解ってますよ、シェラを倒した奴だってことくらい」

トリストとシェラの力は拮抗している。

違うのはシェラが柔の剣であるならトリストは剛の剣ということだろうか。

「あの要石のマナ値なら大した事は無い

 なのにシェラが後れをとった

 どうせ毒虫らしい糞汚い手を使ったに違いないんだ

 この俺がその根性叩きなおしてやりますよ」

そう公言し、一礼をしトリストはシュリアンの前から退席した。


「うむ、トリストなら間違いあるまい」

「ええ」

控えていた諸侯も納得の人選だった、が

シュリアンは何故か考え込んでいるように見える。

「王子、何か不都合でも?」

「いや、そうではない」

何処までが冗談か本気か解らないのが常の白の王子が

らしくもなく真面目に考え込む。

シュリアンの不安はスフスフの地に隠してある本物オリジナルの要石の事だった。

スフスフにはダミーだけでなくオリジナルの要石も存在するのだ。

そう簡単に発見されるわけはないが、もし、もしもあれが破壊されれば。

「仕方ないな、保険をかけておくか、、、」

そう、微笑んだ白の王子の様子はなにやら楽しげにみえた。




 











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