ロボット勇者
異世界の王は悩んでいた。胃がキリキリ痛い。
城の文官も皆国民からの陳情処理に明け暮れている。
最後の手段、聖女--のはずの由香里に泣きついた。
ロボット聖女の通信機能を使って。
「由香里様、こちらでの聖女様の働きは素晴らしく(迷惑で)、十分平和になりました。
つきましては、そろそろお帰りいただくのがよろしいかと。」
「いいけど、こちらに戻る方法知ってる?私は知らないけど。」
「え?てっきり由香里様がご存じかと。」
王はものすごく嫌な予感がした。
こちらの魔術師だって、帰還の方法なんて分かるはずもない。
召喚の魔法陣しか無いのだから。
「では、聖女様のお説教を止めていただくのは、どうしたらよいでしょう?
再三お願いしていますが、まだ悪は滅びていないとおっしゃって、不眠不休で説教をなさるのです。」
「説教をやめさせたいのね?だったら背中の停止ボタンを押せばいいわ。
うん、いいアイデアが浮かんできた。じゃあまたね。」
ぶちっと通信が切れた。
王は泣きたくなった。ちょっとだけ涙が出たかもしれない。
聖女は停止ボタンを押させてくれなかった。
「まだ悪は滅びていないのに、私が活動を停止するわけにはいきません。
どうしても私を止めたいなら、力ずくでかかってきなさい。」
きりりとした表情で宣言された。
騎士団から選りすぐりの騎士が、停止ボタンを押すことに挑戦したが、誰一人押すことができなかった。聖女の動きが素早くて、誰も近づけないのだ。
王は再び、由香里に泣きついた。
しれっとした顔で通信に出た由香里が、ちょっと恨めしい。
「ボタンが押せない?ちょうどいいわ。聖女より身体機能が優れたロボットが完成したから、そちらに送ります。今度のロボットは説教禁止にしといたから、心配いらないわ。
じゃ、よろしく。」
新しく男性タイプのロボットが送られてきた。
見た目は、いかにも身体能力の高そうな、勇者っぽい青年である。
早速、勇者ロボットは聖女ロボットに挑んだ。
なかなか聖女ロボットも粘っていたけど、素早い動きで、勇者ロボットが聖女の背後を取った。
固唾をのんで見守っていた王城の人々は抱き合って喜んだ。
この後どうなるかも知らずに。
ロボット勇者は確かに説教はしなかった。
だが、彼も倫理感が強く、世界のためにと働きだした。
「健全な精神は、健全な体に宿ります。」
「心と体を鍛えましょう!」
今度は物理で反省を促す。
もう盗賊団はいなくなったけど、頭脳労働による犯罪者は残っていた。
「鍛錬場10周しましょう!心が洗われますよ。」
「走っていれば、悪いことなんか考えませんよね?」
体力のない頭脳派の犯罪者たちは、よれよれになったが、勇者はまだまだ大丈夫と許してくれなかった。
倒れても、治療機能によりすぐ回復させられ、再び反省するまで走らされる。
知的労働犯罪者には、貴族や裕福な商人が多い。
それらの身内からの突き上げ、歎願などに再度王は悩まされた。
胃がキリキリ痛い。胃薬をくれ。
また由香里に泣きついた。
今度は、勇者の通信機能で。
にっこり爽やかな笑顔が憎い。お前のせいで、胃に穴が開きそうだ。
「勇者を止めたい?聖女に停止ボタンを押させればいいわ。
ちょっと苦労するかもしれないけど、出来ると思うわ。
停止ボタンをもう一度押すと起動するから。
じゃ頑張って。」
「ぶちっ」
由香里のつれない返事に王は涙した。
異世界では、大臣たちを集めて、会議をしていた。
王が由香里の返答を皆に伝える。
皆、究極の2択に悩んで決められなかった。
説教聖女か、脳筋勇者か。
会議はなかなか終わらない。
王の胃痛が治る日はいつだろう。




