聖女召喚
研究室の床に白い光とともに魔法陣が浮かび上がった。
由香里は床に浮かんだ魔法陣を見て直感した。
「まずい。異世界召喚だ。」
「え、やだ。今研究のいいところなのに。」
そう思った彼女は、そばにあったロボットを身代わりに魔法陣に送り込んだ。
瘴気を浄化する空気清浄機能。
簡単な医療行為もできる治療機能。
魔獣退治用の戦闘機能。
さらに通信機能まで備えた優れモノである。
ちょっともったいない気もしたが、試験稼働と思えばよい。
心置きなく異世界で活動するとよい。
一方聖女を召喚したはずの異世界では、
「召喚成功だ。」
「聖女様だ。」
と喜びに沸いていた。
ここ何年も王宮、神殿の人々は、瘴気による汚染、魔獣の増加の対応に追われていたのである。
少しおとなしそうな女性ではあるが、こちらの苦境を説明すると、喜んで協力してくれるという。皆ほっとした。
異世界からの聖女は、瞬く間に瘴気を浄化し、魔獣を退治し、瘴気や魔獣によって傷ついた人々の治療にあたってくれた。
皆が聖女の功績をたたえ、やっと世界の危機を脱したと思ったその頃。
聖女様から別の女性の声が聞こえた。
「どうですかー?初号機はちゃんと仕事してますかー?」
研究者由香里の声だった。
訳のわからない異世界の人びとに、由香里は
「忙しかったので、代理を送ったのですが、ちゃんと仕事してますよね?」
とものすごく簡単な説明をした。
「きちんと倫理規範も叩き込んでいるし、性能的にも問題ないでしょ?」
王様をはじめ、神官や文官たちも、そーらーとやらで半永久的に動く自動人形だと理解したことにした。
「そーらーって何だろう?」と思いつつ。
それまで黙っていたロボット聖女が由香里に対して、話し始めた。
「こちらでの使命はまだ道半ばです。出来れば、もう少し世界平和に貢献したいと存じます。よろしいでしょうか?」
「そうね。もう少し活動データも欲しいし、報告さえ送ってくれれば、気が済むまで、そっちに居ていいから。」
と無責任に答える。
あと何をするんだろうと異世界の人々は、疑問に思いながらも聖女の居座りを容認する。
後で後悔するのも知らずに。
その後の聖女の活動は、大変エネルギッシュだった。
「世界の平穏のために、悪を滅ぼす」という新たな目標が設定された。
瘴気の浄化や、魔獣退治よりやりがいを感じる。ロボットだけど。
盗賊団が出たと聞けば、駆けつけて捕縛し、心から反省するまで、ひたすら説教をする。
不眠不休で。
暴力は使わない。捕縛以外では。
「人様のものを盗るのは、よくないことです。」
「地道に働くことこそが尊いのです。」
「自分で働いてそのお金で食べるご飯はきっとおいしいですよ。」
「わかったから、寝かせろよっ!」
「わかりました。心を入れ替えますから、何か食べさせて…」
「全ておっしゃるとおりです。どうかもうゆるしてください。」
「反省率を確認しました。反省率20%。もう少し説教を継続しますね。」
と、悪人たちの心を折っていった。
犯罪発生率は大幅に減少した。治安も良くなった。
でも悪は滅びない。
貴族、役人、商人の不正や、賄賂、あらゆる悪を許さない。
聖女の内部評価によると、世界の悪撲滅まであと30%ぐらい。
その一方、王城には、「聖女様を元の世界に送り返してほしい」という陳情が殺到した。
一般市民も聖女の説教攻撃には、参っていたのだ。無垢な幼子以外は。
「聖女様、もう誰も悪いことはしませんから、どうぞ安心してお帰りください。」
「いえいえ、私こちらに来て初めて人々に尽くす喜びというものを知りました。
この世界のため、微力ながら力を尽くし、こちらで壊れるまで働く所存です。」
異世界の人々は、絶望した。
その後子供を叱るときに親は、
「悪い子は聖女様にお説教してもらいますよ」
といって脅すようになったという。
子供たちは、泣きながら謝った。
大人にもこの脅し文句はよく効いたらしい。




