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甘味戦争の軍師 ~社畜の僕、相性が見えるだけで最強編成を作れるけど、この戦争ちょっとおかしくないか?~  作者: 手羽本 紗々実(てばもと ささみ)
第一章 お菓子の戦争

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僕は社畜ではないと思う。

 僕は社畜ではないと思う。


 ある同僚は、仕事量やペース配分でよく文句を言う。

 体調を崩したり、休みをとれなかったりしているが、それはただの自己管理不足。


 上司に頼まれた仕事をこなして、期限に間に合わせて結果を出す。

 それが当たり前だ。

 休みの日に呼びだされるのも、ただの予定変更。

 なにもおかしくはない。


 今日は、女子社員のミスがもとになり、課長が盛大に炎上させたトラブル対応にあたった。


「どうしましょう……課長、帰っちゃったんですけど。

 謝りにいかなきゃですよね? えーやだなぁ……

 あのう、蜜森(みつもり)さん。代わりになんとかしていただけませんか?

 お願いしますよぉ。担当者じゃなくても大丈夫だと思うんで!」


 と、いうわけで、関係先に電話をして数時間にわたり受け答えをした程度。

 きちんと謝罪から入り、理路整然と説明をしたら納得してもらえた。

 たいした問題ではない。


蜜森(みつもり)さんがいてくれてよかった……! ほんとカピバラですよね、蜜森さんって」


 その女性社員が、言った。


 ……意味がわからない。

 カピバラとは、温厚な動物ではなかったか。


 ひとまず、同様のミスをしないよう釘をさしつつ、自作のクッキーを渡しておいた。

 甘いものに目がない彼女には、効果てきめんだと知っている。


 予想どおり、「カピバラじゃなくて神ですか?」と、目を輝かせていた。


 こうして仕事を終えて帰宅したのは、日付をとうにまたいだ深夜。


 寝る前に、プレゼント用の菓子作りにとりかかる。


 用意していた材料を取りだし、まずは焦がしバターを作る。

 材料を混ぜて、型に生地を流しいれ、予熱したオーブンに放りこむ。


 しばらくして――香ばしい香りが漂ってきた。

 オーブンができあがりの合図を鳴らし、焼きあがったフィナンシェが姿を現した。


 仕上がりは、まずまず。

 中央付近にできた、へそのような盛りあがりとひび割れもうまくできている。


 一つを型から外し、半分に割ってから片方を口へ。


 ……悪くない。及第点は越えたな。


 残りも型から外してケーキクーラーにのせ、後片づけ。


 シャワーを浴びて戻ってみれば、ちょうどよく冷めていた。

 プレゼント用にラッピングすれば、完了。


 時刻は、早朝4時前。

 歯を磨き、寝室へ。


 明日は休日だが、予定があるのでアラームを6時にセットする。


 よし。今日も、とても充実した日だった。


 満足感をおぼえつつ、温かい布団に身をゆだねていると、次第にまどろんでいった。


 ◇◇◇


 起床して身支度を整え、実家へとむかった。


 今日は、両親の30回目の結婚記念日。

 それを記念して、1泊2日の温泉旅行に行こうと誘われたのだった。

 仲が良いのか悪いのか、断定しがたい夫婦だと思う。


 最寄り駅から歩いてむかうと、実家の前にはすでに見慣れた懐かしい車が停まっていた。

 ちょうど、両親が荷物を積みこんでいるところだった。


「ああ、(ふう)。おかえりなさい」

「遅いぞ。またぼけっとしてたのか? 荷物、さっさと入れろ」


 腕時計で時刻を確認する。


 ……出発予定時刻の15分前だった。

 今の父さんの発言は、ただのあいさつ。


 うなずきながら、車のトランクの空いたスペースに旅行鞄を入れる。


 と、そこで、用意してきたプレゼントを取りだした。


「結婚30周年、おめでとう」

「あら! ありがとう。なーに?」


 まずは母さんに、昨日の晩寝る前に作ったフィナンシェの包みを。

 それから、父さんに大好きな日本酒の瓶が入った箱を。


「おお、坂島か! さすがわかってるな!」

「私のはフィナンシェね? ありがとう。嬉しいわぁ。風の作るお菓子、ほんと美味しいのよね」


 二人ともとても喜んで、「ドライブの途中で食べるのもいいわね!」とか、「宿についたら一杯やるか!」などと言っている。


 予想どおりの反応。


 ……悪くないな。


 最近は些細なことで言いあいになるケースが増えてきたそうだから、始まりに機嫌をよくさせるのも必要不可欠なのだ。


「よーし、忘れもんねぇか?」

「お父さん、あそこの割引券もった?」

「あ?……あ、いっけね! 忘れるとこだった!」

「もう。あんなに言ってたのに」


 ぶつぶつ言う両親を尻目に、僕はさっさと後部座席に乗りこんだ。

 遅れて母さんが助手席に、最後に走ってきた父さんが運転席に。


「おし。全部持った。いいな? 行くぞ」

「はいはい。安全運転でね」

「うるせぇな、わかってるわ。いちいち言うな」

「念のために言っただけじゃない」


 ……プレゼントがあろうがなかろうが、あまり意味はないようだった。

 言いあいになって、トラブルを起こさないように気を配る必要があるな。


 動きだした車の中で、窓の外を眺める。

 怒りを紛らわせる――気をそらせるには、視点を変えさせるのが効果的。

 近くや遠く、見えるものを確認しながら、二人が興味をひかれそうなものを探した。


「風、疲れてるんじゃない? ぼんやりした顔してるわよ」

「……いや」


 疲れはない。体調はすこぶるいい。


「お前んとこは今ちょうど繁忙期だろ? よく休みとれたな」

「……まぁ」


 視線は動かさないまま、返事をした。


 繁忙期だろうが閑散期だろうが、きちんと計画を立ててやるべき仕事をこなしていけば、休みなど簡単にとれる。


「すこし眠ったら? ついたら起こすから」

「そうだな。あそこの……なんだっけな? なんとかっていう道の駅ついたらな」

「……じゃあ、よろしく」


 睡眠時間は普段とさほど変わらないため、寝不足ではない。

 しかし、せっかくの申し出なので、ありがたく甘えることにし、目を閉じた。


 ◇◇◇


 ――どれくらいたっただろうか。


 ふと、妙に体が熱いと感じ、目を開けた。

 目の前に、炎がせまっている。


 状況を確認しようと体をすこし動かした途端、激痛が走る。


 ……なるほど。

 どうやら事故にあったようだ。


「父さん……母さん」


 ……返事がない。

 すでに意識を失っているようだ。


 生存率をすこしでも上げるには、できるだけ早い救助要請が肝心。


 上着のポケットに入れていたスマホを取りだそうとして、再び激痛に襲われて――視界が、暗転した。


「しっかりしろ!」


 ――だれかの声が、聞こえた。


 目をなんとかこじ開ける。

 視界いっぱいに、焦った様子で必死に呼びかけてくる見知らぬ人の顔。


 漂ってくる、お菓子のような甘いにおい。


 ……甘いにおい?


「おい大丈夫か! すぐに手当てを――」


 僕の体を助けおこそうとしたその人に、手をのばす。

 その手が握られたところで、はぁ、と一度息を大きく吐いた。


 違和感がする。けど、今は。


「前方座席。二人いる。優先順位は、そちらが先だ」


 状況をなんとか伝えた瞬間――意識が、勝手に闇に沈んだ。


 ◇◇◇


 気づくと、見慣れない木目の天井が見えた。


 ここは……どこだ?


 ほのかに、甘いにおいが鼻をかすめた。

読んでいただき、ありがとうございます!

本日より投稿開始です。

たくさんの方々にお楽しみいただけるよう、完結まで頑張ります!

毎日20時頃の更新予定です。よければブックマークしてお待ちください。

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