第4話 火花散る朝ごはん
「よし……今日こそは平穏な朝食を迎えてみせる……!」
翌朝。
ノアは強い決意を胸に、自室から食堂へと向かっていた。ルチア、クララ、ヴァネッサたちに、個別撃破で理性をズタズタに削られてきたノアだったが、朝の明るい食堂というオープンな場であれば、彼女たちも少しは自重してくれるはずだ……そう信じたかった。
しかし、食堂の重厚な扉を開けた瞬間、ノアの淡い期待は脆くも打ち砕かれた。
「「「お帰りなさいませ(♡)、ノア(様)!」」」
そこは朝の穏やかな食堂などではなく、欲望と執着が渦巻く極上の魔境。テーブルの真ん中には、聖女ルチア、女騎士クララ、そして魔導の姫ヴァネッサの三人が勢揃いしている。
ルチアは聖母のような(しかしどこか瞳の奥が据わっている)極上の笑みを浮かべ、クララは凛とした表情で(なぜか今日も甲冑を脱いだ薄着で)佇み、ヴァネッサはシースルーの衣装で妖艶に脚を組んでいる。
そんな三人の視線がノアへ集中した瞬間、食堂の空気がピキピキと音を立てて凍りついた。
「ささ、ノア様! こちらへ! 今朝はノア様のために、私の祈りと聖水を注ぎ込んだ特製スープをご用意しました♡ ほら、私の膝の上に座って召し上がってくださいな!」
「待てルチア、ノアを甘やかすのは私だ。ノア、私の膝の上に乗りたくはないか? 護衛の一環として、お前の体感重量と体温を直に管理してやる。」
「ちょっと二人とも、朝から鬱陶しいわよ。ノアが本当に欲しいのは、私が手塩にかけて作った精力満点♡愛のブレックファストに決まってるじゃない。はいノア、あーん♡」
「なんで全員集合してるんだよぉぉぉっ!?」
ノアの悲鳴が虚しく響き渡る。逃げ出そうとしたノアだったが、三人の圧倒的な素早さによって一瞬で中央の椅子へと身柄を拘束される。
いや……そこはもはや、「椅子」ですらなかった。
「はいっ、ノア様! 私の太ももをクッションにしてくださいね♡」
「私の胸元に寄りかかるがいい、ノア。クッション性能には自信がある。」
「私は前からギュッとしてあげる♡ 逃がさないわよ?」
「んぶふっ!?」
瞬間的に、ノアの視界がピンク色に染まる。下にはルチアのすべすべとした極上太もも。背中にクララの豊かな双丘と力強い抱擁。正面からヴァネッサが薄着の衣装で抱きついてきて顔面を甘い胸元に埋めてくる。
ここに、完全無欠の『三位一体ハレンチ包囲網』が完成していた。
「むぐっ……むぐぐ(息が! 息ができないしアツいし柔らかいものが多すぎる!!)」
「ふふ♡ ノア様、私の聖なる温もりを感じてくださっていますね♡」
「ふむ、心拍数が急上昇しているな。やはり私の抱きしめ方が足りないか? もっと密着しよう。」
「あは♡ ノアの顔、真っ赤で可愛い〜! ほらほら、口開けないと口移しで食べさせちゃうわよ♡」
耳元で重なる三者三様の甘い吐息。全身を包むあまりにも密度の高い肌の柔らかさと、脳を狂わせる芳醇な乙女の香り。純情な一般人男子にとって、これは理性を破壊する致死量の甘々ハレンチ地獄だった。
しかし、ノアが顔を真っ赤にして悶絶しているその頭上では、バチバチの血で血を洗う女の暗闘が繰り広げられていることをノアは知らない。
(((……チッ)))
三人の視線が交差し、見えない火花が激しく散る。
「……ルチア。聖女のくせに、朝からノアに胸を押し当てすぎではないか? 卑しいぞ。」
クララが目を細め、静かな殺気を孕んだ声で低く囁く。
「あら?クララ様こそ、護衛と言い張りながらノア様の背中にそのはしたない胸を押しつけていらっしゃいますよね? ノア様を守りきれず、一番最初に彼を一人にして死なせたのはどこのどなたでしたかしら……♡」
「っ……! くっ……!」
ルチアが暗黒笑顔で毒を吐くと、クララは悔しそうに奥歯を噛みしめ、ノアを抱きしめる腕にギュッと力が入った。
「ちょっと二人とも、私のノアの前で不吉なこと言わないでくれるかしら?」
ヴァネッサがクスクスと小悪魔的に割り込む。
「ノアを死なせて、あんな惨めな想いをさせたのは全員でしょ? だから、私が彼を甘やかして、二度と外に出られない身体にしてあげるのが一番なのよ♡」
「あなたにだけは言われたくありません!!」」
「ちょっと、引っ張らないでよ! ノアは私のものよ!」
「ふざけるな、ノアの安全は私が守る!」
「いいえ! ノア様は私が一生甘やかすのです!」
三人はノアを自分だけのものにしようと体を押し付け合い、引き寄せ合い、結果としてノアへの密着度とハレンチな圧迫感が従来の300%へと跳ね上がっていく。
「だ……だれか……たすけ……」
過剰なお色気アタックと全身への圧迫感により、ノアは泡を吹いて気絶しかけていた。
◆
そんなハーレム空間はさておき、屋敷の外。
「ふははは! 聖女も女騎士も魔導姫も揃っていようが関係ねえ! 狙うは朝食後の隙だ! 我ら『天秤の目』の精鋭が、今度こそノアの首を——」
屋敷の庭に潜んでいた男たち。その中のリーダー格の男が襲撃の合図を出そうとしたその瞬間、食堂の窓がガタガタと激しく震え出した。
「ひぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」
食堂から解き放たれるは、三つの暴力の嵐……ルチアの『極神聖破滅光』、クララの『音速超絶斬撃』、ヴァネッサの『極大黒炎脈』。それらが奇跡的に怒りのシナジーを巻き起こし、男どもを一瞬にして消し去ったのである。
叫ぶ間すら与えられず、彼らは王都の遥か彼方へと吹き飛ばされ、星となって消えていった。
「……はぁ、はぁ。……すっきりしました♡」
「うむ、害虫の駆除完了だな。」
「これで邪魔者はいないわね♡」
一瞬で外の脅威を粉砕した三人は、何事もなかったかのように満面の笑みでノアへと向き直った。だな、そこには過剰なお色気アタックと、魔力衝突の余波を受け、白眼を剥いて完全に気絶しているノアの姿があった。
「「「ノア(様)ぁぁぁっ!?」」」
さすがの三人もこれには慌てふためいた。
「私の人工呼吸で……!」と唇を近づけるルチア。
「待て!私の体温で温め直すのが先だ!」と服を脱ぎ始めるクララ。
「ダメよ!精力剤を直接流し込むわ!」と口移しの構えをとるヴァネッサ。
ノアの意識が完全に飛んでいるのを良いことに、三人は思い思いのハレンチタイムを楽しもうとしていた。




