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第47話 解き明かされる謎

 ルチアたちによる容赦ない甘々包囲網に毎日揉みしだかれ、ノアの身体和精神は文字通り「別の意味での限界」を迎えつつあった。

 しかし、その過剰すぎる愛のシャワーを毎日全身で受け止め続けた結果、ノアの内部にも決定的な変化が起きていた。

 

 ——マスターキーの完全調律。

 

 かつては世界を滅ぼす引き金であり、主人の絶望や恐怖に反応して暴走を繰り返していた超古代のシステム。

 しかし今や、ノアの胸にあるコアは、四人から注がれる温かな愛情を完璧な魔力循環回路へと変換し、体内の暴走リスクを完全にゼロへと押さえ込んでいた。


 

(自分の胸にあるこの力は、一体どこから来て、何のために作られたんだ……?)


 

 暴走の危険が去ったからこそ、ノアは自身のルーツである『マスターキー』そのものの謎に向き合わなければならないと考えていた。過去の記憶を取り戻したとはいえ、超古代文明の遺物がなぜ自分に宿ったのか。この遺物が、なぜ世界を滅ぼすほどのエネルギーを秘めているのか。その根本的な仕組みを知るため、ノアは王都の国立研究所へと足を運ぶことにしたのだ。

 とはいえ、国家機密を管理する国立研究所の最深部に、一介の青年が安易に入れるはずもない。

 しかし、そこには確実な「根拠」と手はずが整っていた。


 研究所の厳重なゲートの前。

 警備につく魔導士たちが敬礼して道を開けたのは、ノアの隣に堂々と控えていたシャルロットのおかげだった。


 彼女は暗殺組織『天秤の目』の元・幹部……ではなく、王命を受けた特命調査官だった。そんな肩書を持つ彼女ならば、国立研究所の深部へと入ることは造作でもない。シャルロットは思い悩んでいたノアを案じ、「マスターキーの所有者による安全性の公式査察」という名目を正式に申請していたのだ。

 さらに言えば、過激派との決戦後、王国最高峰の聖女であるルチアや、高位騎士であるクララからの直筆の身元保証書、そして王国政府直属の特免状までが揃えられていた。表向き、ノアは「特異体質の保持者にして、国家管理下の重要参考人」として、一切の障壁なく研究所の最奥へと迎え入れられたのである。


 

 案内されたのは、厳重な魔導障壁に守られた最深アーカイブ室。そこで、主任研究員立ち会いのもと、ノアは数百年前に封印された超古代の端末に、胸元のマスターキーの魔力を微かに同調させた。

 その瞬間、古びたホログラムの投影機が青白い光を放ち、宙に膨大な記録データが浮かび上がる。


 

「これは……!?」


 

 映し出された文献と構造図を見たノアは、思わず息を呑んだ。そこに記されていたのは、マスターキーに関する驚愕の事実。マスターキーとは単なる破壊兵器の核などではなく、失われた世界を再構築するための『世界修復プログラムの端末』そのものであるということ。

 しかし、それ以上にノアの背筋を凍らせたのは、その起動条件に関する記述だった。

 

——『マスターキーが真の安定稼働(守護の鍵への移行)を行うためには、単一の強大な魔力ではなく、強固な精神的紐帯が不可欠である。特に、世界の崩壊を回避するためには、複数の強い絆を持つ他者からの継続的な感情的フィードバックが絶対条件となる』

 

 つまり、マスターキーが暴走した過去の世界が滅び去ったのは、ノア自身の精神が限界を迎えたからだけではない。彼を支え、感情のアンカーとなるべきルチアたちとの間に「歪んだ呪縛や恐怖」があり、真の信頼関係が築かれていなかったからこそ、システムが暴走のまま破綻したのだ。

 逆に言えば、今こうしてルチアやクララ、ヴァネッサ、そしてシャルロットが注いでくれる「自発的で狂おしいほどの愛」こそが、マスターキーの暴走を完全にねじ伏せ、世界を平穏へと導くための唯一にして最強のシステム制御キーだったという事実。


 

「……そういうことだったのかよ……」


 

 ノアは呆れたような、そしてどこか深く納得したような笑みを浮かべ、自分の胸元にそっと手を当てた。自分が彼女たちから受けている過剰なまでの甘やかしやハレンチな包囲網は、迷惑な枷どころか、この世界が滅びないための『最高の安全装置』そのものだったのだ。

 

 研究所の冷たい空調音のなか、ノアが一人でその真実に苦笑していると、背後からスッと軽やかな足音が近づいてきた。

 振り返ると、そこにはシャルロットが腕を組んで冷ややかに、しかし……どこか呆れたような笑みを浮かべて立っていた。


 

「……まったく、こんな古臭い研究所の資料室で、一人で何ニヤニヤしてるのよ、ノア。」

 

「いや……マスターキーの設計図を見てたらさ、俺たちが今やってることの意味がようやく分かってさ。」

 

「ふん、今さら何よ。……どうせ、私たちがあなたをどれだけ必要としているか、科学的に証明されちゃったってわけでしょ!」

 

「ああ、まったくその通りだ。君たちの愛がなければ、この世界はとっくの昔にまた吹っ飛んでたらしい。」


 

 ノアが苦笑しながら答えると、シャルロットはふっと柔らかく微笑み、ノアの隣にピタリと寄り添った。

 ツンとした冷たさはすっかり消え失せ、そこにあるのはただ、一人の女性としての素直な体温だった。


 

「ねえ、ノア……。もうマスターキーの秘密も分かったんでしょ? じゃあ、これからはずっと、私たちの重すぎる愛に溺れ続ける覚悟はできたかしら?」

 

「……う〜ん、溺れ続けるのは勘弁願いたいが……もうどこにも逃げはしないよ。」


 

 ノアがシャルロットの肩を優しく抱き寄せると、シャルロットは満足そうに目を細め、ノアの胸元に顔をうずめた。

 世界を揺るがした脅威の真実が解き明かされ、その後に残されたのは、かつての世界の危機を乗り越えた者たちだけの穏やかで、そして最高に甘い時間だった。

エピローグも一緒に投稿します!

約50話ほどでしたが、お付き合いいただき、ありがとうございました!

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