エピローグ
中庭のテラス。
爽やかな秋晴れの空の下、ノアは陽だまりの中にある木製ベンチに腰掛け、ゆっくりとティーカップを傾けていた。
「ふぅ……やっぱり、こうして平和な庭でお茶を飲む時間は最高だな。」
ノアが静かに心を和ませていると、背後からスッと誰かの気配が近づいてきた。気づいた時には、すでにルチアがノアの背中にそっと寄り添い、その首元に細い腕を優しく回していた。
「ノア様、お茶のお代わりはいかがですか? それとも……このまま、もう少し私にこうさせてくださいますか?」
「ルチア……ちょっと距離が近くないか? 落ち着かないんだけど……」
「ふふ、ごめんなさい。でも、こうしてノア様の体温を感じていないと、まだ時々不安になってしまうのです。……もう二度と、私を一人にしないでくださいね。」
穏やかな微笑みの奥にある、決して離す気のない強い瞳。顔を赤らめるノアの耳元に落ちるルチアの声には、聖女としての慈愛と、一筋縄ではいかない静かな執着が宿っている。
少し離れた木陰では、クララが大剣を傍らに置き、腕を組んでじっとノアたちを見つめていた。
「おいルチア、ノアをあまり困らせるな。……ノア、午後の剣の稽古の時間だ。もっとも、今日はお前を鍛えるためではなく、私がお前を傷一つつけずに守り切れるか試すためのものだがな。」
「それ、ただ俺が一日中クララの視界から出られないやつじゃないか……?」
「当然だ。私から離れることなど許さん。お前がどんなに嫌がろうと、私の視界の届く場所にいてもらう。」
淡々と、しかし一点の疑問も挟ませない当然のような口調で言い放つクララ。その言葉は、騎士としての忠誠を超えた、ノアという存在そのものを囲い込もうとする重厚な愛そのものだった。
そこへ、足音もなく滑り込んできたヴァネッサが、ノアの膝の上にコトンと頭を乗せて横たわった。
「ふたりとも、相変わらずノアを縛り付けるのが好きねぇ。……ねえノア、今日の午後は私と一緒に、お部屋でゆっくり静養しましょう? どこへも行かなくていいの。私が、あなたの全部のお世話をしてあげるから。」
「ヴァネッサまで……俺、もうすっかり元気なんだけどな……」
「ダメよ。あなたが無茶をしてまたどこかへ行こうとしないように、私たちがずっとこうして引き留めてあげるんだから。」
膝の上からノアを見上げるヴァネッサの瞳は、甘く、どこか深い深海のように暗く澄んでいた。
三人は、それぞれのやり方でノアの周囲を埋め尽くし、静かで穏やかな、けれど完璧な「逃げ場のない包囲網」を形成していく。
その光景を、屋敷の2階の窓辺から眺めていたシャルロットは、手に持った紅茶のカップを静かにソーサーへと戻した。
「……まったく。呪いが解けたって言っても、あの子たちも私も、最初からノアなしじゃ生きていけない身体にされてるようなものね。」
シャルロットは自嘲気味に呟きながらも、その口元にはどこか愛おしそうな笑みが浮かんでいた。
自分の使命も世界の存続もどうでもよくなるほど、気づけば自分の世界の中心にはあの青年が据えられてしまっている。
「……仲間はずれは嫌よ、ノア。」
シャルロットは窓辺で立ち上がると、静かな足取りで1階の庭へと飛び降りる。逃がすつもりなど最初から誰にもない。彼女自身もまた、その「永遠の籠」を一緒に作り上げる一人なのだから。
呪いが解けたからこそ気づけた、お互いの本当の温もり。恐怖や強制による狂愛ではなく、自分たちの意志で選び取った「本気の愛」だからこそ、その甘さは深く、重たく、そしてどこまでも心地よかった。
自分を囲む四人の静かな執着と愛情を感じながら、ノアは呆れたように苦笑し、その胸の中に広がる温かさにそっと身を委ねた。
この甘く重い愛の鎖からは、きっと一生抜け出せない。
けれど、その幸福な未来を受け入れるように、ノアはどこまでも穏やかな笑顔を浮かべるのだった。
これで、この物語は一度終わります!
頑張って狂ってる愛を表現してみましたが、どうだったでしょうか。慣れない設定でちょっと苦労もしましたが、自分も楽しく書けました!
次はどんな物語にしようかな笑
また頑張って書かないとなぁ笑
これからも楽しい物語を届けていきたいです!どうぞよろしくお願いします!
ご愛読、誠にありがとうございました!




