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第44話 決着のあとの甘い予感

 過激派との激しい戦いが終わり、静けさを取り戻した古代遺跡の回廊。


 敵の主要幹部たちは全員拘束され、組織の残党もシャルロットの手際よい指揮によって完全に掃討された。すべてが終わり、張り詰めていた緊張の糸が切れた瞬間、全員の胸をドッと心地よい疲労感が一同を包み込む。


 

「ふぅ……何とか、無事に終わったわね。」


 

 ヴァネッサが額の汗を拭いながら、小さく息を吐いた。彼女の足元には、すっかり戦闘意欲を失った過激派の残党が転がっている。ルチアとクララも武器を納め、ホッとした表情でノアの方へと歩み寄ってきた。


 

「ノア様、お疲れ様です。怪我はありませんか?」

 

「ああ、君たちこそ大丈夫か? 無茶な突撃ばかりするから、ヒヤヒヤしたよ。」


 

 ノアが苦笑しながらルチアの頭を優しく撫でると、ルチアは嬉しそうに目を細め、子猫のようにその手のひらに頬を擦り寄せた。

 かつての過剰なまでの監禁や、息が詰まるほどの狂気的な執着はもうない。

 だが、その代わりにあるのは、互いの心を完全に理解し合い、深い信頼で結ばれた「本物の愛情」だった。

 その様子を少し離れた場所から眺めながら、シャルロットはフッと鼻を鳴らした。


 

「まったく、戦いが終わった途端にイチャイチャしちゃって。……まあ、私たちの仕事もこれでようやく一段落ってわけね。」

 

「シャルロット、お前も本当によくやってくれた。ありがとう。」


 

 ノアがシャルロットに歩み寄り、真っ直ぐな目で礼を述べると、シャルロットは少しだけ頬を朱に染め、パッとそっぽを向いた。


 

「べ、別にあなたの為にやったわけじゃないわよ! 私はただ、あの過激派の連中のやり方が気に食わなかっただけなんだからね!」

 

「はいはい、素直じゃないんだから。」


 

 笑い合うノアとルチアたちの姿は、かつて世界を滅ぼした者たちとは思えないほど穏やかで、幸福に満ちていた。

 しかし……戦いが終わったことで、ノアの体に起きていた「ある変化」が再び表面化し始めていた。

 

 

(……あれ? なんか、胸の奥が……妙に熱いぞ……?)


 

 戦いの最中はマスターキーの出力制御に集中していたため気づかなかったが、心が平穏を取り戻した途端、ノアの身体の奥底から、甘くドロッとした濃密な魔力がフツフツと湧き上がり始めていた。

 それは、マスターキーが完全制御されたことで解放された、「主人の愛情欲求を無限に増幅させる共鳴磁場」だった。


 

「の、ノア様……? 顔が真っ赤ですけれど、どうかなさいましたの?」


 

 心配そうに覗き込んでくるルチアの瞳が、なぜかやけにとろけるように潤んで見える。クララも、ヴァネッサも、そしてシャルロットさえも、ノアを見つめる視線が先ほどまでの戦士のそれとは違う、「別の熱」を帯び始めていることにノアはまだ気づいていない。


 

「い、いや……なんでもない。ちょっと魔力の反動が……」

 

「ふーん……魔力の反動、ねぇ?」


 

 ヴァネッサが妖しく微笑みながらノアの腕にピタリと密着し、その首筋に熱い吐息を吹きかける。


 

「だったら、私たちがその熱を……たっぷりと癒やしてあげましょうか?」


 

 戦いが終わり、平和を取り戻したはずの屋敷へ帰る道すがら、ノアの背筋にはなぜか別の意味で冷や汗が流れ始めていた。

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