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第42話 迫る過激派

 古代遺跡の最深部から地上へと続く、ひんやりとした石畳の回廊。重く湿った空気が漂う薄暗い歩廊を、ノアと四人のヒロインたちは足並みを揃えて進んでいた。


 

「……ノア、ここからは最新の注意を払いましょう。天秤の目がどう動いているか。もう私にもわからない……」


 

 不安そうな表情を隠さずに、シャルロット呟く。その隣で、クララが鼻を鳴らして大剣を担ぎ直した。


 

「ふん、あの黒ずくめどもか?たとえ追ってきたところで今の私たちに敵うわけがない。何せ、ノアはマスターキーを完全に制御しているんだからな。」

 

「そうですよ! ノア様は今や無敵なんですから、変に怖がる必要なんてありません!」


 

 ルチアが胸を張って誇らしげに笑うと、ヴァネッサもクスクスと妖しく微笑みながらノアの腕にピタリと寄り添った。


 

「そうよ。それに、万が一コソコソと待ち伏せしている虫けらがいたって、私たちが一網打尽にしてあげるんだから……ねえ、ノア?」

 

「お前たちなぁ……少しは緊張感を持てよ。」


 

 呆れたように苦笑しつつも、ノアはその温かな密着と弾むような会話に、胸の奥が心地よい安心感で満たされるのを感じていた。これまで感じていた絶望的な孤独と、自分の手で世界を壊してしまったという呪縛。それを乗り越えた今、仲間たちとこうして他愛のない軽口を叩き合いながら歩けることが、何よりも嬉しかった。


 

「大丈夫だって。俺たちがこうして揃っていれば——」


 

 そのノアの言葉を遮るように、突如として頭上の天井を突き破る凄まじい魔導の衝撃波が轟いた。


 

「……っ! 上だ!」


 

 ノアが反射的に叫んだ瞬間、数条の漆黒の矢と呪詛の刃が、頭上から一斉に降り注ぐ。

 しかし、五人は慌てることなく対処する。

 ルチアは聖杖を一振りして純白の結界を展開し、クララは瞬時に踏み込んで飛来する刃を大剣で弾き飛ばす。ヴァネッサは華麗な身のこなしで影へと身を滑らせ、シャルロットもまた、瞬時に術式を展開して敵の奇襲を難なく完璧にいなしてみせた。


 

「甘いわね!」

 

「その程度の奇襲で私たちを止められると思ったのか!」


 

 全員が軽やかな身のこなしで攻撃をかわし、何事もなかったかのように着地する。

 その視線の先——煙が晴れたその先には、地上へと続く回廊の出口を塞ぐように、冷酷な殺気を纏った一団が影のように現れ、ピタリと立ち塞がっていた。それは、暗殺組織『天秤の目』の過激派幹部たち。


 

「……見つけたわよ、ノア。おとなしくそのコアを渡しなさい。さもなければ、ここで容赦なく血の海に沈めてあげるわ。」


 

 冷徹な笑みを浮かべる女性リーダーの手には、すでに呪詛を帯びた凶悪な魔導宝具(アーティファクト)が構えられていた。背後に控える精鋭の暗殺者たちも一斉に殺気立った魔力を解放し、逃げ道を完全に塞いでいる。


 

「……シャルロット。頭領であるお前が裏切るとは……まぁいい。裏切り者のお前ごと、その忌々しい『コア』を回収させてもらう!!」


 

 過激派のリーダー格である女は冷酷な笑みを浮かべながら、無数のアーティファクトを次々と展開していく。まさに、一触即発の緊迫した空気が回廊を満たす。

 しかし、今のノアに恐れの色は微塵もなかった。むしろ、彼の脳裏には、先ほどまでの絶望が嘘のように、クリアで膨大な「禁忌の知識」が心地よく広がり始めている。


 

(……なるほど、そういうことか!)


 

 ノアは静かに目を閉じ、胸元のマスターキーと意識を同調させる。かつては暴走して自我を飲み込んできた超古代の演算システムが、今はまるで自分の手足のように従順に、心地よい魔力の鼓動を返してくる。ヒロインたちの深い愛が心のアンカーとなり、マスターキーの暴走リスクを完全に抑え込んでいたのだ。


 

「……みんな、少し下がっていてくれ!」


 

 ノアが静かに前へ出ると、ルチアたちは信頼に満ちた笑みを浮かべてスッと一歩退いた。


 

「もちろんです!ノア様!」

「派手にやってやれ、ノア!」


 

 過激派の女性リーダーが鼻で笑い、全方位からの全弾一斉射撃を命じた。


 

「ハッ、綺麗事を抜かして……蜂の巣にしておしまい!」


 

 数え切れないほどの殺戮魔導弾と呪詛のビームが、一斉にノアたちへと殺到する。

 その瞬間、ノアの瞳が黄金色に輝いた。


 

「——【解析完了(リライト)】」


 

 ノアが右手を軽く一振りした瞬間、空間そのものが波打った。その波に絡め取られるように、敵が放ったすべての攻撃魔導がピタリと空中で停止する。それどころか、ノアの指先から放たれた極細の黄金のルーン光線が、敵の魔導回路の隙間にスルスルと侵入していった。


 

「なっ……!? わたしたちの術式が、勝手に書き換えられている……だと……!?」


 

 過激派の女性リーダーが恐怖に顔を引きつらせ、大きく息を呑む。ノアが掌握したのは、破壊のための力ではない。敵の兵器構造そのものを内部からハッキングし、無力化するための「完全なる管理権限」だった。

 敵の放った魔導弾すべてがその場で瓦解し、無害な光の粒子となって霧散していく。さらに、ノアの背後に展開された黄金の魔導陣から、ルチア、クララ、ヴァネッサ、そしてシャルロットの四人に向けて、強化増幅の光の粒子が降り注いだ。


 

「これは……魔力が体の奥から沸き上がってくる……!?」

 

「すごい……私たちの全能力が、何倍にも跳ね上がっているわ……!」


 

 ノアの「禁忌の知識」の完全昇華。

 それは、敵の兵器を完全に無効化しつつ、愛する仲間たちを最強の状態でバックアップするという、圧倒的な神業の領域だった。


 

「さあ反撃の時間だ……! 俺の大切な人たちを傷つける奴には、容赦しない!」


 

 ノアの号令を合図に、絆を深めた5人の反撃の狼煙が、盛大に上がった。

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