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第41話 受け入れられた怪物

 黄金色の死の光が、少女たちの温もりに溶けるようにスーッと消えていった。


 古代遺跡の冷たい石畳の上。

 ノアはルチア、クララ、ヴァネッサ、そしてシャルロットの四人に囲まれ、その場に崩れ落ちるように膝をついていた。胸の奥で暴れていたマスターキーの激しい鼓動は、嘘のように静まり返り、代わりに世界で一番温かい体温が、凍え切っていたノアの心を満たしていく。


 

「あ……あぁ……っ……!」


 

 堪えきれなかった熱い涙が、ノアの目からとめどなく溢れ出した。

 

 自分が世界を滅ぼした元凶だという消えない事実。

 自分の手で愛する者たちを殺してしまったという耐えがたい贖罪の意識。


 そのすべてを「それでもあなたを愛している」と言って、彼女たちは丸ごと受け入れてくれたのだ。恐怖に怯え、独りで消えようとしていた少年の心に、初めて本当の意味での「救い」の光が差し込む。


 

「泣かないで、ノア様……」


 

 ルチアが優しく微笑みながら、ノアの濡れた頬を両手で包み込んだ。その指先から流れる聖なる魔力が、ノアの荒ぶった精神の傷を優しく癒やしていく。


 

「あなたがどんな過去を背負っていようと、私たちが愛しているのは今のあなたです。一人で背負い込むのは、もう終わりにして……私たちを頼ってください。」

 

「そうだ。お前はもう一人じゃない。私たちが、その背中をいつでも支えてやる。」


 

 クララが力強く頷き、ノアの肩をガッシリと抱き寄せる。ヴァネッサもまた、愛おしそうにノアの背中に腕を回し、その耳元で甘く囁いた。


 

「もう二度と、自分を消そうなんてバカなこと言わないでよね。今度そんなことしたら、私たちが許さないんだから……」


 

 少し離れた場所で静かにそれを見守っていたシャルロットが、ふっと冷たい笑みを解いて歩み寄ってきた。彼女は冷ややかな口調のまま、しかしその瞳に確かな熱を宿してノアを見据える。


 

「……まったく、泣き虫な救世主ね。でも、これでようやく目が覚めたかしら? 私たちは、あなたのその重荷を一緒に背負うって決めたのよ。覚悟しなさい、ノア。」


 

 四人から注がれる偽りのない全肯定の愛。

 その圧倒的な温もりに包まれたノアは、自分がどれほど愛されていたのかを痛いほどに実感し、震える両手で顔を覆いながら、子供のように声を上げて泣き続けた。


 

 やがて、涙をすべて流し終えたノアは、ゆっくりと顔を上げた。その赤く腫れた瞳には、もう迷いも自暴自棄の影もなかった。代わりに宿っていたのは、濁りのない強い決意の光だった。

 ノアは立ち上がり、自らの胸元にあるマスターキーにそっと右手を置いた。かつては世界を滅ぼす呪いの鍵であり、自分を狂わせた恐怖の根源。しかし、今のノアには、それがまったく違うものに感じられた。それは、愛する者たちとこの世界を繋ぐ、かけがえのない絆の証だった。


 

「……うん、ありがとう……みんな。俺はもう逃げない。」


 

 ノアは静かに、しかし、はっきりと呟いた。


 

「俺はもう、過去の罪から逃げない。この恐ろしいマスターキーの力にも、もう恐怖したりしない。俺が完全に制御して、今度こそ……君たちと、この世界を絶対に守り抜くんだ!」


 

 その言葉を聞いた四人の顔に、最高潮に美しい笑顔が咲き誇った。世界を滅ぼした「怪物」……ノアは本当の愛に救われ、真の守護者へと生まれ変わる。

 

 ——だが、その感動的な救いの瞬間を、冷徹に見下ろす影があった。

 

 静寂に包まれた遺跡の奥深くから、乾いた拍手が響き渡る。互いの手を握りしめていたノアたちの表情が、一瞬で凍りついた。クララとシャルロットが即座に武器へ手を伸ばし、ノアを庇うように陣を組む。

 

「感極まるお涙頂戴の茶番だな。……世界の崩壊を招いた悪魔を愛で包み込むとは、狂気の沙汰としか言いようがない。」


 

 暗がりから歩み出てきたのは、黒いローブに身を包んだ男女の一団。彼らの胸元と顔を覆う仮面には、左右不均等に傾いた天秤の紋章がある。

 狂信組織『天秤の目』の過激派たちの姿が、そこにはあった。


 

「なっ……『天秤の目』!? なぜここに……っ!」


 

 ヴァネッサが警戒の声を張り上げるが、先頭に立つ歪んだ仮面の男は一向に気にする様子もなく、掲げた杖をノアへと向けた。その瞳には、容赦のない異端審判の苛烈な殺意が宿っている。


 

「裁きは下されねばならない。罪人はその存在を消去され、天秤の傾きは正正たる無へと戻されるべきなのだ。過ちを繰り返す『怪物』も、それを盲目的に庇う愚者どもも……この世界に置く猶予などない。」

 

「言わせておけば……! ノア様には指一本触れさせないわ!」


 

 ルチアが聖なる障壁を展開し、決意を固めたノアもまた、胸元のマスターキーを力強く握りしめる。

 解き放たれた希望の光と、立ち塞がる冷酷な過激派たち。温かな愛を手に入れたノアたちの前に、真の残酷な試練が容赦なく襲いかかろうとしていた。

今週は更新遅れるかもです!

できる限り頑張ります!

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