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第37話 自暴自棄

「俺が……俺がみんなを殺し、世界を壊した化け物だったのか……ッ!?」


 

 頭が割れるような激痛とともに、脳の奥底で蓋をされていたすべての真実の記憶が、濁流のような洪水となって一気に流れ込んできた。


 自分の手で街を、人々を吹き飛ばしたあの日の恐ろしい感触。自分の圧倒的な魔力で、愛する仲間たちの命を次々と刈り取り、絶叫をかき消してしまった地獄の光景。

 

——そして、脳裏に鮮明に蘇る最期の記憶。

 

 自分を媒体にしていた古代兵器が止まったあの時。ボロボロに崩れ落ちた自分の肉体。右腕の肉は焼き切れ、白骨が剥き出しになり、肋骨は砕け、潰れた内臓から溢れた血が泥と混ざり合っていたあの時。

 

 あの時、耳元で響いていた破裂しそうなほどの悲鳴が頭を殴るように響く。

 


 「ノア様……! お願いです、目を……目を開けてください……!」


 

 純白の聖衣を血で真っ赤に染め上げながら、なりふり構わず自分を抱きしめてくれた彼女の姿。自分の無事を祈ってくれた彼女の頬に、最後の力を振り絞って血に濡れた左手をそっと触れた。心を満たしたはずの微かな安心感……その直後、制御を失った漆黒の熱線が、あろうことか、自分を救おうとすがりついていた彼女の胸を、その手で容赦なく貫いてしまった。


 

「ああ……あぁぁぁぁぁっ……!! 違う、違うんだ……! 俺は、ただ君に触れたかっただけなのに……! 君の頬に触れて、無事だって確かめたかっただけなのに、なんで……なんで……っ!!」


 

 蘇った本当の結末の記憶が、ノアの心を内側からメチャクチャに踏みにじり、引き裂いていく。愛おしく撫でようとした手で……自らの手で彼女の命を奪い去ってしまったという耐えがたい真実。あの時、彼女が流した血の温もりと絶望の表情が、消そうとしても脳裏から絶対に離れない。


 

「ごめん……ルチア……クララ……ヴァネッサ……! ごめん、俺が……俺が殺したんだ……俺のせいで……っ!」


 

 ノアは両手で自分の頭を狂ったように掻きむしり、遺跡の冷たい石畳の床へと突っ伏して、血を吐くような嗚咽とともに号泣した。

 今まで自分がヒロインたちから受けていた過剰なまでの監禁や、息が詰まるほどの過保護。あれは決して彼女たちの歪んだ異常性などではなく、世界を一度滅ぼした危険すぎる怪物である自分を、再び暴走させないための「せめてもの防衛策」だったのだ。

 それを何も知らずに、自分は窮屈だの自由が欲しいだのと文句を垂れ、彼女たちを疑い、冷たく突っぱねていた。すべての元凶は自分自身だったという事実が、ノアの心を容赦なく叩きのめす。

 自分が生きていることそのものが、この世界にとって最大の罪であり、消し去るべき害悪だったのだ。


 

「そうだ……俺さえいなければ……俺というこの忌々しい『マスターキー』さえこの世から消えていれば、誰もこんな悲しい思いをすることはなかったんだ……!」


 

 自暴自棄の闇に完全に呑み込まれたノアの瞳から、生きるための光がすっきりと失われていく。その絶望と凄まじい自責の念に呼応するように、ノアの身体の奥底で、胸に巣食うマスターキーが不気味で危険な魔導波長を帯びて激しくスパークし始める。


 

「ノア……!? いけない、何をする気だその波動は……っ!」


「おやめください、ノア様……っ! そんなことしちゃダメです……!」


 ただならぬ異変にいち早く気づいたシャルロットとルチアたちが、顔面を真っ青に染めながら必死に駆け寄る。

 しかし、ノアは怯えたような、それでいてすべてを諦めきった虚ろで空虚な笑みを浮かべながら、自らの胸元にあるマスターキーの核へと、直接己の全魔力を逆流させ始めた。


 

「来るな……! 俺に近づくな……ッ!」


 

 ノアの肉体から爆発的に放射された暴走寸前の凄まじい衝撃波が、駆け寄ってきたルチアたちの接近を力づくで激しく弾き飛ばす。


 

「俺は生きているだけで害悪なんだ……! みんなを殺したこの化け物の心臓を、俺という諸悪の根源を……今ここで自壊させて、すべてを終わらせる……っ!」


 

 ノアの胸元の衣服が引き裂かれ、露出した皮膚の下で、マスターキーのコアが残酷なまでに真っ赤な死の光を放つ。その光はどんどん力強くなっていく。


 

「やめろ……! 死ぬな、ノア……ッ!!」


 

 絶望の淵に沈み、自らの手で命を絶とうとするノア。

 だが、ルチア、クララ、ヴァネッサの三人はノアをまっすぐに見据えていた。自分たちが彼を守るのだと、再び決意した眼差しで。

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