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第34話 古代遺跡への道

みなさま、台風には気をつけてください!

 夜更けの静寂を切り裂くように、屋敷の床を底から揺さぶるような地鳴りのような魔導波長が響き渡る。それは、かつて時計塔の最上階で解呪術式を展開した際に、ノアの体内で暴れかけた「マスターキー」の反応と不気味なほど酷似していた。


 

「……っ! この波動は……まさかノア様の中から……!?」


 

 ルチアが青ざめた顔を浮かべる。その切迫した呟きを合図にするように、三人は我先にとノアの自室へと走り出した。


 

 部屋の扉を勢いよく開け放つと、そこには凄惨な光景が広がっていた。ベッドの上で頭を抱え、苦悶の表情を歪ませるノア。彼の身体からは、意志を持つかのように制御を失えた黄金色の光の粒子が激しく溢れ出し、部屋の壁や床に刻まれていた硬質な古代ルーン文字の配列を、勝手に書き換え続けている。

 彼の脳裏に焼き付くのは、自分自身のものではない膨大な記憶の断片。失われたはずの一周目の世界の記憶が、津波のような情報量となって一気に押し寄せてきている。


 

「ぐっ……あぁ……頭が……割れそうだ……! 俺の……俺の身体のなかに、一体何があるっていうんだ……っ!」


 

 激痛にのたうち、自らの頭を両手で掻きむしるノア。見るに堪えないその姿に、クララとヴァネッサが悲鳴のような息を呑み、慌ててベッドへと駆け寄ってその身体を強く抱きしめた。


 

「ノア……! しっかりして……! 私たちがついているわ……っ!」

 

「いや……っ、来るな……俺の身体、変なんだ……頭の中に、知らない記憶が……!」


 

 ノアの拒絶するような叫びと同時に、彼の身体から迸る魔力が部屋の空気をピリピリと震わせる。三人はどうすべきかわからずに、ただただノアを抱きしめるだけ。


 その時だった。

 張り詰めた夜気をあざ笑うかのように、窓ガラスを軽やかに開く音。三人が視線を向けた窓の外、月光に照らされた冷たい夜気の中から滑り込むように姿を現したのは、暗殺組織『天秤の目』の頭領——シャルロットだった。

 だが、その双眸には冷徹な暗殺者の嘲笑はなく、どこか険しく、底知れない覚悟を宿した深刻な眼差しでノアの苦悶の姿を見つめている。


 

「……シャルロット……!? なぜここに……お前、何を企んでいる……っ!」


 

 クララが警戒を露わにし、片手で剣の柄に手をかけようとする。しかし、シャルロットは一瞥すらくれず、冷ややかに言い放った。


 

「のんきな顔をして敵対している場合じゃないわよ、聖女様たち。……今夜のこの異常な共鳴現象、あなたたちにも分かっているでしょう? 彼の中のコアが、目覚めようとしているのよ。このまま放置すれば、彼の精神ごとすべてが崩壊してしまう。」


 

 そう言うと、シャルロットは懐から黄ばんだ古い羊皮紙の地図を取り出し、乱暴にテーブルの上に広げた。そこには、王都の地下深くに眠るとされている、近代魔導ですら解析不可能な超古代文明のメインサーバーが描かれている。


 

「私の組織が長年、血眼になって追い続けてきた歴史の真実……そして、ノアの胸に眠る『マスターキー』の真の秘密。そのすべての答えが、この古代遺跡の最深部にあるわ。……あなたたちは、彼をこのまま『何者か分からない不安と呪いの残滓』に怯えさせ、苦しめ続けたいの? それとも、彼が抱えるすべての真実と真正面から向き合い、本当の意味で彼を救い出したいの?」


 

 シャルロットの問いかけは、三人の胸を鋭く突き刺した。ノアの身体に起きている異変の元凶を突き止め、彼をこの耐えがたい苦しみから解放するためには、もはや過去の恐怖に怯えて逃げ回ることなど許されないのだ。

 ルチア、クララ、ヴァネッサの三人は強く視線を交わし、迷いのない眼差しで力強く頷き合った。


 

「……分かった。私たちも同行する。ノア様の身体の異変の元凶がそこにあるなら、世界中どこへだって行く!」


 

 ルチアが強い決意を込めてそう言った後、クララが地図を覗き込みながら険しい表情で問うた。


 

「その遺跡は王都のどこに繋がっている? 地下の構造によっては、治安騎士団の警戒網を抜けるのに手間取るぞ。」

 

「ふん、正面突破なんて愚かな真似、するわけないじゃない。」


 

 シャルロットは冷淡に笑い、地図の一点を指し示した。


 

「王都東区、廃教会の下層にある旧水道のさらに奥。そこから古代の防衛回廊を抜けた先が、遺跡の第一層よ。正規のルートを行けば半日かかるところを、私の組織が掴んだ『裏の通路』を使えば、二時間も掛からずに最深部の手前まで潜り込める。」

 

「裏の通路ね……信用していいのかしら、その情報は?」


 

 ヴァネッサが疑わしげな視線を向けると、シャルロットは肩をすくめて見せた。


 

「疑うなら勝手に一人で地上から大軍を引き連れて行けばいいわ。……ただし、彼が持つコアの暴走がそこまで持ついえばの話しけれどね。」

 

「……分かったわ。その道で行きましょう。」


 

 ルチアは苦しみに喘ぐノアを一瞥し、すぐにシャルロットへと向き直った。


 

「ノア様の異変を止めるためよ。あなたの力を借りるわ、シャルロット。」

 

「フッ……いい返事ね。途中で泣き言を言わないでよ?」



 ニヤリと笑うシャルロットは、窓からフワリと飛び降りた。それを見た三人は、すぐにノアの肩を担ぎ、その後を追った。

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