第六話 小さな違和感
それからも、雲母と足立は幾つかの依頼を受け、調査を続けていた。
物音の原因を突き止めることもあれば、依頼人の勘違いで終わることもあった。
そうした調査を続けていた、ある日のこと。
二人は調査を終え、街中を歩いていた。
特に変わったところのない、いつもの道だった。
「……」
雲母が、ふと足を止める。
「どうしました?」
足立が振り返った。
雲母は少し離れた建物の脇を見ている。
「……あら?」
「何かありました?」
「いえ……」
雲母は目を細めた。
そこに、薄い人影が見える。
人の姿にも見えるが、はっきりとはしない。
「……いましたわ」
「?」
「死者の意識ですわ」
「え?」
足立には、当然何も見えない。
雲母はしばらくその場を見つめた。
「……街中では、ほとんど見かけませんのに」
「そうなんですか?」
「ええ」
これまで雲母が死者の意識を見たのは、ほとんどが調査に訪れた場所だった。
街を歩いていて偶然見かけることなど、滅多になかった。
「……気のせいではありませんわね」
「何がです?」
「いえ」
雲母はもう一度、建物の脇を見る。
「一応、近くで確認してみますわ」
「……調査するんですか?」
「ええ。せっかく見つけましたもの」
「いや、僕には見えてないんですけど……」
「では、わたくしについていらして」
「それが一番怖いんですよ……」
足立はぼやきながらも、結局その後を追った。
◇ ◇ ◇ ◇
ひと通り確認を終え、二人はその場を離れた。
しばらく歩いたところで、足立が口を開く。
「今回は、どのようなものでした?」
雲母は少し黙ってから答えた。
「今回は……おそらく、車に轢かれたのでしょうね」
「……」
「凄惨な状態でしたわ」
雲母は淡々と話していたが、少しだけ表情を曇らせる。
「ただ……その後、周りの方に助けを求めているように見えましたわ」
「助けを?」
「ええ」
雲母は頷く。
「こちらを見て、手を伸ばして……誰かに気づいてほしいような」
「……」
「以前にも、同じような方を見たことがありますわ。足立さんと一緒に調査を始める前にも」
足立は黙って雲母を見る。
「今回のように、周囲へ意識を向けられる方を見ると……」
雲母は少し言葉を探した。
「とても……言葉では言い表せない気持ちになりますわね」
「助けを求めているんですか……?」
「ええ」
雲母は静かに答える。
「そう見えますわ」
「……」
「ただ……」
雲母はそこで言葉を止めた。
しばらく歩いてから、小さく息を吐く。
「まあ、帰りましょう」
「……はい」
二人はそれ以上、何も言わずに歩いた。




