↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残響  作者: れすた
16/40

第十六話 違和感②

再び現れた男との問答を終え、雲母はしばらく考え込んでいた。


「……病院で見た方は、眠っているようでしたしね……」


「病院?」


「ええ。以前、調査した病院ですわ」


 ベッドの上に横たわり、まるで眠っているように見えた老人。


 あの時は声を掛けても、反応らしい反応はなかった。


「では……」


 雲母が顔を上げる。


「以前、車に轢かれていた方はどうでしょう」


「車に轢かれていた方?」


「覚えていらっしゃるでしょう?」


「ああ……あの」


 周囲へ手を伸ばし、誰かに助けを求めているように見えた死者。


 あの人物ならば。


 少なくとも、周囲へ意識を向けているようには見えた。


「確認しに行きますわよ!」


「今からですか?」


「もちろんですわ」


「いや、もう今日の調査は終わったんじゃ……」


「状況が変わりましたもの」


 雲母はさっさと歩き始める。


「ちょ、雲母お嬢様!」


 足立が慌ててその後を追う。


「まだいるかどうかも分からないでしょう!」


「ですから、確かめに行くのですわ!」


「ですよねえ!」


「うふふふ」


「……雲母お嬢様?」


「では、現場へゴー! ですわ!」


「なんでちょっと楽しそうなんですか……」


 足立を連れ、雲母は以前、死者の意識を見かけた場所へ向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 しばらくして、二人は以前の場所へ到着した。


「あら」


 雲母が足を止める。


「いました?」


「ええ」


 以前と同じ場所。


 以前と同じように、その人物はいた。


 事故に遭ったと思われる凄惨な姿で、周囲へ手を伸ばしている。


 そして――


「……たすけ……」


 雲母の表情が変わった。


「……やはり」


「聞こえるんですか?」


「ええ」


 雲母は死者へ近づく。


「声が聞こえるようになっていますわ……」


 以前は、何かを訴えているように見えるだけだった。


 今は違う。


 何を言っているのか、はっきりと聞き取れる。


「わたくしの声が聞こえますの?」


「……助けて……」


「わたくしの姿が見えますの?」


 死者の視線が雲母へ向く。


「……見える……」


「まあ」


 雲母はさらにいくつか質問を続けた。


 名前。


 何が起きたのか。


 今、何を感じているのか。


 答えられることもあれば、答えられないこともある。


 やがて、その姿が消えた。


 雲母は黙って待つ。


 そして、しばらくすると。


 再び、同じ場所に現れた。


「……たすけ……」


 雲母がすぐに問いかける。


「わたくしのことを覚えていらっしゃいますの?」


「……?」


 死者は雲母を見る。


 その表情には、明らかな戸惑いがあった。


「先ほど、お話ししましたでしょう?」


「……誰……?」


「…………」


 雲母は少し考える。


 もう一度、いくつか質問をする。


 そして消える。


 再び現れる。


「わたくしをご存じですの?」


「……誰……?」


 また同じだった。


「……なるほど」


「どうです?」


 足立が尋ねる。


 雲母は死者を見ながら答えた。


「先ほどの方と同じですわね」


「同じ?」


「ええ。お話はできます。こちらの問いかけにも反応しますわ」


 雲母は少し眉を寄せる。


「ですが、一度消えて、再び現れると……」


 また死者が消える。


「わたくしと話したことを覚えていませんの」


「……さっきの人もそうでしたよね」


「ええ」


 そして再び。


「……たすけ……」


 同じ声が聞こえた。


 雲母はじっと、その姿を見つめる。


「声が聞こえるようになったことも」


 少し間を置く。


「会話の記憶が残らないことも」


 雲母は首を傾げた。


「……先ほどの方と同じですわね」


 ◇ ◇ ◇ ◇


「じゃあ、ほかの死者の声も聞こえるようになってるんでしょうか?」


 足立の言葉に、雲母は少し考える。


「どうでしょうね……」


「前に病院にもいたんですよね?」


「ええ。ただ――」


 雲母は以前見た光景を思い返す。


 病室のベッドに横たわっていた老人。


 まるで眠っているかのように、静かに目を閉じていた。


「あの方は、眠っているようでしたから」


「じゃあ……」


「話しかけても、恐らく返事はありませんわね」


「なるほど」


「今回のお二人は、どちらも周囲へ意識を向けていましたもの」


 雲母は、再び現れた死者を見る。


「ですから、今のところ分かったのは――」


 少し考える。


「以前は聞こえなかった死者の声が、聞こえるようになった」


「はい」


「そして、少なくともお二人は、こちらの声にも反応する」


「はい」


「一度消えて再び現れると、わたくしとの会話を覚えていない」


「……はい」


 雲母は首を傾げた。


「それだけですわね」


「結構分かった気がしますけど」


「肝心なことが何も分かっておりませんもの」


「肝心なこと?」


「なぜ、突然こうなったのかですわ」


「……ああ」


 雲母は死者を見つめる。


「今までは、何を訴えていても、その声までは聞こえなかったのですから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。