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残響  作者: れすた
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第十四話  鳴らないはずの時計

 数日後。


「時計が鳴るんです」


 新しい相談者は、そう切り出した。


「時計?」


「振り子時計です。祖父母が昔から使っていたもので」


 相談者は、祖父母が亡くなったあと、その家を引き継いで一人で暮らしているという。


「今も動いていますの?」


「いえ。それが……壊れているんです」


「壊れている?」


「はい。振り子も止まっていますし、針も動きません」


「でしたら、何が鳴るんですの?」


「鐘です」


 足立が眉を寄せた。


「鳴るんですか?」


「はい」


「壊れているのに?」


「だから怖くて……」


 雲母が尋ねる。


「時計屋さんには?」


「見てもらいました」


「何と仰っていましたの?」


「この状態なら、普通は鳴らないって」


「なるほど」


 雲母は少し興味を示した。


「それは少々、気になりますわね」


 問題の振り子時計は、居間の壁に掛かっていた。


 古い木製の時計。


 長年使われてきたことが、一目で分かる。


 針は止まっている。


 振り子も動いていない。


 雲母は時計の前に立ち、しばらく眺めた。


「……何かいます?」


 足立が尋ねる。


「いいえ」


「何も?」


「何も見えませんわ」


 雲母は部屋の中も確認する。


 死者の意識らしきものもいない。


 それ以外に、雲母が認識できる何かがいる様子もない。


「お祖父さんとか、お祖母さんとか……」


 足立が言う。


「見当たりませんわね」


「ですよね」


「なぜあなたが残念そうなんですの?」


「いや、そっちの方が説明がつくじゃないですか」


「見えないものは仕方ありませんでしょう?」


 相談者が時計を見つめる。


「祖父が、この時計を大事にしていたんです」


「そうなんですの?」


「毎日、決まった時間にねじを巻いていました。子どもの頃からずっと、この音を聞いていて」


 雲母は黙って時計を見る。


「祖父だったり……するんでしょうか」


「さあ」


 雲母はあっさり答えた。


「少なくとも、わたくしには何も見えませんわ」


「そうですか……」


「ええ。ですので、お祖父様だとも、違うとも言えませんわね」


 それから、雲母と足立はしばらく時計を調べた。


 足立も裏側を覗いたり、周囲を確認したりした。


 しかし、原因らしいものは見つからない。


「今日は鳴らないんですかね」


 足立がそう言った、その時だった。


 ――ボーン。


「…………」


 三人が時計を見る。


 振り子は動いていない。


 針も動いていない。


 それでも。


 確かに鐘の音がした。


「…………鳴りましたね」


「鳴りましたわね」


「何か見えました?」


「いいえ」


 雲母は時計を見つめる。


「何も」


「……じゃあ、何で鳴ったんです?」


「分かりませんわ」


「そんなにあっさり……」


「分からないものは分かりませんもの」


 雲母はもう一度時計を確認する。


 やはり、何も見えない。


 しばらくして、相談者がおそるおそる尋ねた。


「あの……これ、大丈夫なんでしょうか?」


「今のところ、何か困ったことは?」


「いえ……鳴るだけです」


「でしたら」


 雲母は時計を見上げた。


「ひとまず、様子を見てもよろしいのではなくて?」


「いいんですか?」


「何か起きましたら、またご連絡くださいませ」


「は、はい……」


 相談者に見送られ、二人は家を出た。


 足立が振り返りながら言う。


「結局、何だったんでしょうね」


「分かりませんわ」


「怪異とか?」


「何も見えませんでしたもの」


「じゃあ、普通の故障?」


「時計屋さんは、鳴らないと仰ったのでしょう?」


「……じゃあ、何なんです?」


 雲母は少しだけ考えた。


「ですから」


 そして、何でもないことのように言った。


「分かりませんわ」


 足立は黙った。


 少し歩いてから、足立がぽつりと言った。


「……屋根裏のおじさんの方が、まだ分かりやすかったですね」


「ええ」


 雲母は小さく頷いた。


「その点については、同感ですわ」

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