第十三話 屋根裏の物音
「夜になると、家の中から音がするんです」
今回の相談者は、一人暮らしの女性だった。
「音ですの?」
雲母が尋ねる。
「はい。毎日じゃないんですけど……夜中になると、二階の方から、ミシッとか、ゴソゴソって」
「ご家族は?」
「一人暮らしです」
「まあ」
雲母は少し考える。
「警察には相談されましたの?」
「一度、来てもらいました」
女性は頷いた。
「家の中も見てもらったんですけど、誰もいなくて。玄関や窓にも、特に変なところはなかったみたいです」
「何か盗まれたものは?」
「それもないんです。たぶん……」
「たぶん?」
「食べ物が、少し減っているような気がすることはあるんですけど……自分で食べたのを忘れているだけかもしれないし」
「なるほど」
雲母は頷いた。
隣で話を聞いていた足立が、家の中を見回す。
「それで、怪異かもしれないと?」
「はい……」
「分かりましたわ」
雲母はあっさりと言った。
「では、一晩確認してみましょう」
「やっぱり夜なんですね……」
「夜に起こるのでしょう?」
「そうですけど……」
「でしたら、夜に来なければ意味がありませんわ」
「そうですけど……」
足立は小さくため息をついた。
――深夜。
雲母と足立は、相談者とともに一階の居間で待機していた。
時刻は午前一時を過ぎている。
「……何も起きませんね」
足立が小声で言う。
「そうですわね」
「今日はもう帰りません?」
「何をしに来たんですの?」
「ですよね……」
その時だった。
――ミシッ。
三人が同時に天井を見た。
「……今のです」
女性が小さな声で言った。
「いつも、あんな感じで……」
雲母は黙って耳を澄ませる。
――ミシ。
少し間を置いて。
――ゴソッ。
確かに、何かが動いている。
「雲母お嬢様」
「聞こえておりますわ」
雲母は立ち上がった。
「二階へ行きますわよ」
「行くんですか……」
「そのために来たのでしょう?」
三人で二階へ上がった。
部屋を一つずつ確認する。
誰もいない。
窓も閉まっている。
「……何か見えます?」
足立が尋ねる。
「いいえ」
雲母は周囲を見回した。
「何も見えませんわね」
「じゃあ、やっぱり建物の音とか……」
――ゴトッ。
足立が黙った。
今度は、はっきりと聞こえた。
しかも。
「……上?」
足立が天井を見る。
雲母も見上げた。
「そのようですわね」
「二階建てですよね、この家」
「はい……」
女性が答える。
三人の視線が天井に集まった。
「屋根裏ですの?」
「え?」
「屋根裏へ入れる場所はありませんの?」
「ありますけど……」
女性が指差した。
「そこの収納の上に、点検口が……」
足立の顔が引きつった。
「……開けるんですか?」
「開けなければ確認できませんでしょう?」
「雲母お嬢様が開けませんか?」
「届きませんわ」
「ですよね……」
足立は渋々、踏み台を持ってきた。
点検口の下に置き、その上に立つ。
「…………」
「どうされましたの?」
「いや……こういうの嫌なんですよ」
「早くしてくださいませ」
「はいはい……」
足立がゆっくりと点検口を押し上げる。
暗い。
懐中電灯を向ける。
木材。
断熱材。
そして。
「…………」
足立の動きが止まった。
「足立さん?」
「……雲母お嬢様」
「はい?」
「人、います」
「まあ」
「『まあ』じゃないですよ!」
屋根裏の奥。
懐中電灯の光の先に、人間がいた。
男だった。
薄汚れた服を着て、荷物らしきものを周囲に置いている。
空のペットボトル。
食べ物の袋。
毛布。
どう見ても、一時的に入り込んだ様子ではなかった。
「…………」
男と足立の目が合う。
「うわっ!」
足立は悲鳴を上げ、踏み台から飛び降りた。
「警察! 警察を呼んでください!」
「え……えっ!?」
女性が慌てて携帯電話を取り出す。
雲母は天井を見上げたまま、ぽつりと言った。
「なるほど」
「何がなるほどなんですか!」
「物音の原因ですわ」
「そうですけど!」
ほどなくして警察が到着した。
屋根裏にいた男は確保され、そのまま連れていかれた。
どうやら男は以前から屋根裏に住みつき、女性が留守にしている時間や眠ったあとを狙って、家の中を物色していたらしい。
食べ物がわずかに減っていたのも、男が勝手に食べていたためだった。
以前警察が確認に来た際には、点検口までは調べられず、男も屋根裏で息を潜めていたらしい。
家を出たところで、足立が大きく息を吐いた。
「……怪異じゃありませんでしたね」
「そうですわね」
「よかった……」
「あら?」
雲母が足立を見る。
「安心できる内容でしたの?」
足立は先ほどの屋根裏を振り返った。
「…………」
少し考える。
「幽霊の方がまだマシだったかもしれません」
「まあ」




