↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残響  作者: れすた
12/40

第十二話 入ると呪われる家③

「そういえば、この家では何度かお祓いが行われたそうですけれど」


 雲母が尋ねる。


「お祓いを受けている最中は、どのような感覚でしたの?」


「……暖かいような、不快なような……そんな感じでした」


「そうですの」


 男は少し考えてから、ぽつりと続けた。


「私は、お祓いというのは……私のようなものを消すものだと思っていますので」


「……」


「消えてなるものか、と……」


 雲母が目を瞬かせる。


「まさか」


 少し間を置いて、


「気合いですの?」


「え……ええ……」


「まあ」


 雲母は呆れたように男を見る。


「いいですわ」


「ところで」


 雲母がふと思い出したように尋ねる。


「あなたは、どのようにして人を呪い殺すんですの?」


「……え?」


「先ほどから『呪い殺す』と仰っていましたでしょう?」


「ああ……」


 男は少し考える。


「えー……こう……なんというか」


 自分でもうまく説明できないらしく、男は曖昧に手を動かした。


「元気を吸い取る感じで……」


「なるほど?」


 雲母が頷く。


「では、それで少しずつ弱らせていくのですわね」


「はい……」


「だから、結構時間がかかりますのね」


「……はい」


「分かりましたわ」


 雲母は納得したように頷いた。


 続けて、もう一つ尋ねる。


「あと」


「はい」


「あなたは、人を呪い殺すために外へ出たとき、ご自分と同じような存在を見たことはありますの?」


「……」


 男は考えた。


「いえ……」


「そうですの?」


「呪い殺すことに集中していたので……」


「なるほど」


 雲母は少し考え込む。


「では、あなた自身も、ほかの存在についてはあまりご存じないのですわね」


「……はい」


「そうですか」


 雲母は、また一つ分からないことが増えたような気がした。


 そして、しばらく考える。


「残っている思いといえば……」


 男を見る。


「家に誰も入れたくない、というものが強いだけみたいですし」


「……」


 男の顔が少し緩む。


(帰ってくれるのか!?)


「足立さん?」


「はい?」


「帰りましょう」


「あ、はい」


 雲母は玄関へ向かって歩きだした。


「では、おばけさん」


 足を止め、振り返って男を見る。


「またそのうち来ますわね?」


「……え?」


「ご機嫌よう」


「……はい」


 雲母は再び玄関へ向かって歩きだした。


 足立もその後を追う。


「雲母お嬢様?」


「何ですの?」


「ちなみに今、おばけさんは?」


 雲母は少し考える。


「今ですか?」


「はい」


「そうですわね」


 ちらりと後ろを見る。


「両手と両膝を床につけて、うなだれていますわ」


「…………」


「どうしましたの?」


「いえ……」


 足立は何とも言えない顔をした。


「……何でもないです」


 二人は家を出た。


 外へ出ると、足立が大きく息を吐いた。


「……」


「話してみて、どうでした? 雲母お嬢様」


 雲母が歩きながら呟く。


「結局、あまり分かりませんでしたわ」


「そうですか……」


「それにしても……」


 雲母は少し肩をすくめる。


「怖かったですわぁ」


「え?」


 足立が思わず振り返る。


「怖かったんですか!?」


「ええ」


「……あれで!?」


「だって」


 雲母は平然と歩きながら答える。


「実際に呪われたら、たまったものではありませんもの」


「そ、それは確かにそうですね……」


 足立は苦笑しながら歩く。


 そして、ふと後ろを振り返った。


「……」


 家の二階。


 窓。


 そこから――


 白い顔が、こちらを覗いていた。


「……」


 足立の足が止まりかける。


 顔は動かない。


 ただ、こちらを見ている。


 目が合っている。


 じっと。


 足立の脳裏に、以前の調査が蘇る。


 ――点検口。


 ――あのとき、一瞬だけ見えた顔。


「……」


 足立は顔を引きつらせる。


「雲母お嬢様?」


「何ですの?」


 雲母は振り返らずに歩いている。


「ちなみに……」


 足立はもう一度、二階の窓を見る。


 白い顔は、まだこちらを見ている。


「今回いたおばけさんって……」


「ええ?」


「どんな見た目でした?」


 雲母は歩きながら答える。


「見た目ですか?」


「はい」


「ごくごく普通の日本のおじさんでしたわよ?」


「…………」


 足立はもう一度、二階を見る。


 白い顔。


 明らかに違う。


(……あ)


(これ、違うやつだ)


(前に点検口で見た……あれだ)


 足立は背筋が冷たくなる。


 だが――


(……言わないでおこう)


(これを言ったら、絶対に家へ戻される)


 足立は何事もなかったように前を向いた。


「どうしたんですの?」


「いえ」


 足立は答える。


「何も。ただ、気になりまして」


「そうですの?」


「はい」


「では、帰りましょう」


「……はい」


 二人はそのまま家から離れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。