第十二話 入ると呪われる家③
「そういえば、この家では何度かお祓いが行われたそうですけれど」
雲母が尋ねる。
「お祓いを受けている最中は、どのような感覚でしたの?」
「……暖かいような、不快なような……そんな感じでした」
「そうですの」
男は少し考えてから、ぽつりと続けた。
「私は、お祓いというのは……私のようなものを消すものだと思っていますので」
「……」
「消えてなるものか、と……」
雲母が目を瞬かせる。
「まさか」
少し間を置いて、
「気合いですの?」
「え……ええ……」
「まあ」
雲母は呆れたように男を見る。
「いいですわ」
「ところで」
雲母がふと思い出したように尋ねる。
「あなたは、どのようにして人を呪い殺すんですの?」
「……え?」
「先ほどから『呪い殺す』と仰っていましたでしょう?」
「ああ……」
男は少し考える。
「えー……こう……なんというか」
自分でもうまく説明できないらしく、男は曖昧に手を動かした。
「元気を吸い取る感じで……」
「なるほど?」
雲母が頷く。
「では、それで少しずつ弱らせていくのですわね」
「はい……」
「だから、結構時間がかかりますのね」
「……はい」
「分かりましたわ」
雲母は納得したように頷いた。
続けて、もう一つ尋ねる。
「あと」
「はい」
「あなたは、人を呪い殺すために外へ出たとき、ご自分と同じような存在を見たことはありますの?」
「……」
男は考えた。
「いえ……」
「そうですの?」
「呪い殺すことに集中していたので……」
「なるほど」
雲母は少し考え込む。
「では、あなた自身も、ほかの存在についてはあまりご存じないのですわね」
「……はい」
「そうですか」
雲母は、また一つ分からないことが増えたような気がした。
そして、しばらく考える。
「残っている思いといえば……」
男を見る。
「家に誰も入れたくない、というものが強いだけみたいですし」
「……」
男の顔が少し緩む。
(帰ってくれるのか!?)
「足立さん?」
「はい?」
「帰りましょう」
「あ、はい」
雲母は玄関へ向かって歩きだした。
「では、おばけさん」
足を止め、振り返って男を見る。
「またそのうち来ますわね?」
「……え?」
「ご機嫌よう」
「……はい」
雲母は再び玄関へ向かって歩きだした。
足立もその後を追う。
「雲母お嬢様?」
「何ですの?」
「ちなみに今、おばけさんは?」
雲母は少し考える。
「今ですか?」
「はい」
「そうですわね」
ちらりと後ろを見る。
「両手と両膝を床につけて、うなだれていますわ」
「…………」
「どうしましたの?」
「いえ……」
足立は何とも言えない顔をした。
「……何でもないです」
二人は家を出た。
外へ出ると、足立が大きく息を吐いた。
「……」
「話してみて、どうでした? 雲母お嬢様」
雲母が歩きながら呟く。
「結局、あまり分かりませんでしたわ」
「そうですか……」
「それにしても……」
雲母は少し肩をすくめる。
「怖かったですわぁ」
「え?」
足立が思わず振り返る。
「怖かったんですか!?」
「ええ」
「……あれで!?」
「だって」
雲母は平然と歩きながら答える。
「実際に呪われたら、たまったものではありませんもの」
「そ、それは確かにそうですね……」
足立は苦笑しながら歩く。
そして、ふと後ろを振り返った。
「……」
家の二階。
窓。
そこから――
白い顔が、こちらを覗いていた。
「……」
足立の足が止まりかける。
顔は動かない。
ただ、こちらを見ている。
目が合っている。
じっと。
足立の脳裏に、以前の調査が蘇る。
――点検口。
――あのとき、一瞬だけ見えた顔。
「……」
足立は顔を引きつらせる。
「雲母お嬢様?」
「何ですの?」
雲母は振り返らずに歩いている。
「ちなみに……」
足立はもう一度、二階の窓を見る。
白い顔は、まだこちらを見ている。
「今回いたおばけさんって……」
「ええ?」
「どんな見た目でした?」
雲母は歩きながら答える。
「見た目ですか?」
「はい」
「ごくごく普通の日本のおじさんでしたわよ?」
「…………」
足立はもう一度、二階を見る。
白い顔。
明らかに違う。
(……あ)
(これ、違うやつだ)
(前に点検口で見た……あれだ)
足立は背筋が冷たくなる。
だが――
(……言わないでおこう)
(これを言ったら、絶対に家へ戻される)
足立は何事もなかったように前を向いた。
「どうしたんですの?」
「いえ」
足立は答える。
「何も。ただ、気になりまして」
「そうですの?」
「はい」
「では、帰りましょう」
「……はい」
二人はそのまま家から離れていった。




