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残響  作者: れすた
10/40

第十話 入ると呪われる家①

「……本当に行くんですか?」


 足立は、不安そうに目の前の家を見上げた。


「ええ。行きますわよ」


 雲母は迷いなく答えた。


「入ると呪われる家だなんて、とても気になるではありませんこと?」


「いや、それなら雲母お嬢様お一人で……」


「何ですって?」


「いえ」


 足立は視線を逸らした。


「僕は外で待っています」


「それは困りますわね」


「なぜです?」


「あなた、わたくしに何かあったらどうするんですの?」


「え……」


 足立が固まる。


「いや……何かあるんですか?」


「分かりませんけれども!」


「分からないんですか!」


「だから確認するのでしょう?」


 雲母はさっさと玄関へ向かった。


「とりあえず行きますわよ!」


「……はい……」


 足立は渋々その後を追った。


 玄関の前まで来たところで、雲母が立ち止まる。


「では」


「はい?」


「あなたが先に入ってくださいませ」


「ええ!?」


「何ですの?」


「いや、なんで僕が!?」


「殿方でしょう?」


「またそれですか!」


 結局、足立が先に玄関を開けた。


「……お邪魔します」


 返事はない。


 足立は恐る恐る中を覗き込む。


「……何もないですよ」


「では、入りましょう」


 二人は家の中へ入った。


 室内は荒れていた。


 家具は古く、長い間、人が住んでいないように見える。


 しかし依頼人の話では、この家に入った者は皆、何らかの異常を経験しているという。


 雲母は一部屋ずつ確認していった。


「特に……何もありませんわね」


「そうですね」


 足立が先を歩く。


 その後ろを雲母が続く。


 そして――


 雲母がふと足を止めた。


「……」


「どうしました?」


「足立さん」


「はい?」


「動かないでくださいませ」


「え?」


 足立が振り返ろうとする。


「そのままで」


「……はい」


 雲母は、足立の背後をじっと見つめた。


 そこに――


 男が立っていた。


 足立のすぐ後ろ。


 いつからそこにいたのか分からない。


 人間の姿をしている。


 だが、死者の意識とは違う。


 雲母には、その違いがなんとなく分かった。


「あら」


「……何です?」


「本当にいましたのね」


「え?」


 男が口を開いた。


「……お前」


 男は雲母を見た。


「俺が見えてるのか?」


 足立は何の反応も示さない。


 どうやら、男の声も聞こえていないようだった。


「ええ」


「……」


 男の顔が引きつった。


「……帰れ!」


「何ですの?」


「ここから出ていけ!」


 足立が青ざめる。


「ちょ、ちょっと待ってください、雲峰さん! 何がいるんですか!?」


「うるさいですわ!」


「ええ!?」


 雲母は男から目を離さなかった。


「あなたは、誰ですの?」


「俺は……」


 男が雲母を睨む。


「ここは俺の家だ!」


「まあ」


 雲母が少し目を見開いた。


「そうでしたの?」


「だから帰れ!」


「なんでですの?」


「なんでって……!」


 男が苛立ったように声を荒らげる。


「ここは俺の家なんだ! 勝手に入ってくるな!」


 雲母は少し考えた。


 そして――


「ちょうどよかったですわ」


「……は?」


「この家について、いろいろとお聞きしたいことがありますの」


「お前……」


「お話をしましょう!」


「いや、帰れって言ってんだろ!」


「まあまあ」


 雲母はまったく動じない。


「まず、あなたはいつからこちらにいらっしゃいますの?」


「……」


 男は絶句した。


 足立だけが、何も見えず、何も聞こえないまま取り残されている。


「……雲母お嬢様?」


「何ですの?」


「本当に何がいるんですか……?」


「こちらの方ですわ」


「だから誰ですか!?」


「今からお話を伺いますの」


「話が見えないんですけど!」


 雲母はそんな足立を気にすることなく、男へ向き直った。


「それで?」


「……」


「あなたは、この家で何をしていらっしゃいますの?」


 男はしばらく黙っていた。


「……お前、本当に俺が見えてるんだな」


「ええ」


「……変な女だな」


「よく言われますわ」


「いや、絶対そこじゃないだろ……」


 こうして、「入ると呪われる」と噂される家の調査は――


 思いもよらない相手への聞き取り調査から始まった。

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