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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第85話:聖堂都市メルディアへ

聖堂都市メルディアは、白亜の都でした。


 幾筋もの尖塔が天を突き、その壁という壁に、太陽を象った教会の旗が翻っている。街路は、満月の儀を待つ巡礼者で溢れ、どこを見ても、人、人、人。


「太陽の聖女様、万歳!」

「ああ、アウレリア様。どうか、私の娘の目を、お治しください……!」


 熱に浮かされたような歓呼が、白い石畳を、絶え間なく揺らしていました。

 まだ、奇跡の一つも見ていないのに。「聖都が認めた聖女」という、ただそれだけの看板に、これほどの人が、すでにひれ伏している。


「……これが、ガレスの撒いた種の、実りですわね」


 フードを目深に被ったロザリア様が、苦々しげに呟きました。

 私たちは、目立たぬよう、巡礼者の群れに紛れて、街へ入りました。とりわけ、氷の死神として名高いカイルム様は、漆黒のマントを地味な外套に替え、その威圧を、必死に抑え込んでいます。


「窮屈なものだな」


「ふふ。少しの辛抱ですわ、カイルム様」


  ◇◇◇


 約束の隠れ家――街外れの、古びた礼拝堂跡で。

 私たちは、待ち人と、再会しました。


「エルシア様……! ご無事で、本当に……っ」


 駆け寄ってきたのは、頬を涙で濡らした、リオでした。少し背が伸び、けれど、その実直な瞳は、あの日のままです。


「リオさん。あなたこそ、よくぞ、ご無事で。……一人にして、ごめんなさい」


「いいえ。僕は、一人じゃ、ありませんでしたから」


 リオが、ちらりと、背後を振り返りました。

 礼拝堂の隅、薄暗がりの中に、縄こそ解かれているものの、すっかり面変わりした男が、静かに座っていました。


 マルファス。

 かつて私を「不浄の娘」と狩り、聖王に切り捨てられた、あの審問官。今は、その昏い瞳から傲慢の炎も消え、ただ、贖うように、俯いています。


「……来たか、調和の聖女」


 彼は、絞り出すように言いました。


「教会に、駒として使い潰され、捨てられて。……ようやく、私は、自分が何を守ってきたのかを、知った。リオと共に、教会の罪を、記してきた。せめてもの、罪滅ぼしだ」


 憎き敵だった男が、今は、真実を暴く証人となっている。

 人は、変われる。その事実が、私の胸に、静かな灯をともしました。


  ◇◇◇


「時間がありません。要点を」


 リオが、一枚の図面を広げました。メルディア大聖堂の、見取り図です。


「アウレリア様の奇跡は――この、大聖堂の地下に隠された『中継の祭壇』を通して起こされます。遥か海都の本祭壇から吸い上げた生贄の魔力を、この街へ引き込み、まるで彼女自身の力であるかのように、解き放つのです」


「では、その地下の祭壇を暴けば」


「ですが」


 マルファスが、低く遮りました。


「中継の祭壇を壊しても、『奇跡が生贄ゆえ』という証にはならぬ。民は、こう思うだけだ。『異端の聖女が、また神聖な祭壇を壊した』と。……生贄が、現に魔力を搾られている『本祭壇』を見せぬ限り、万民は、決して、目を覚まさぬ」


 そう。

 その本祭壇は、遥か海都の、教会の最も深い場所。今の私たちには、どうやっても、届かない。


 届かぬ証拠。

 けれど――地下の中継の祭壇に、私の氷で触れれば。少なくとも、私には、「見える」はずです。そこを通って、今この瞬間も搾り取られている、海都の生贄たちの、悲鳴が。


「……満月は、今宵」


 礼拝堂の窓の外、藍色の空に、欠けるところのない月が、ゆっくりと昇り始めていました。

 大聖堂の大広場からは、儀の始まりを告げる、荘厳な鐘の音が、響いてきます。歓呼の声が、津波のように高まっていく。


 偽りの太陽が、昇ろうとしている。

 私は、握りしめた氷の破片を――千年前、リーシェ様が遺した祈りを、胸に抱きました。


「行きましょう。……私たちの、真実を、あの月の下へ」


いよいよ、決戦の地・聖堂都市メルディアへ到着ですわ!


白亜の尖塔、太陽の旗、熱狂する巡礼者。

まだ奇跡を見てもいないのに、「聖都公認」の看板だけで、人々はひれ伏している……。

ガレスの撒いた種の、恐ろしい実り。窮屈そうなカイルム閣下も、ちょっと可愛いですわね(笑)。


そして、感動の再会。リオ、ご無事で……!

さらに――面変わりしたマルファス。

かつての宿敵が、今は贖罪の証人に。「人は、変われる」。第二部の優しさですわ。


明かされる、奇跡のからくり。

大聖堂地下の「中継の祭壇」が、海都の本祭壇から生贄の魔力を引いている。

中継を壊しても、「異端がまた祭壇を壊した」と言われるだけ。

万民を目覚めさせる本当の証拠は、やはり、遥か海都に……。


それでも、エルシア様は氷で「中継」に触れれば、海都の生贄の悲鳴が「見える」。

満月は、今宵。鐘が鳴る。歓呼が高まる。偽りの太陽が、昇る――。


次回、いよいよ第二章のクライマックス。二人の聖女が、相見えます。


もし、ここまでの旅に「最高だった!」と思ってくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】で、決戦に追い風を贈ってあげてくださいな。


次回、第86話「満月の夜、昇る偽りの太陽」でお会いしましょう。


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