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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第64話:断罪。教会に切り捨てられる偽りの領主

夜が明けました。


 祭壇から解放された領民たちの証言は、瞬く間に領中へ広がりました。

 月に一度、愛する者が「神に選ばれた」と連れ去られ、二度と戻らなかった理由。その繁栄が、隣人の命を燃やした灰の上に咲いていたという、おぞましい真実。


 ソルレイ子爵の館の前には、夜明けと共に、領民たちが続々と集まってきました。

 手に手に、鋤や鍬を握って。その瞳には、長く押し殺されてきた怒りが燃えています。


「ドレイク・ソルレイ。……領民に、申し開きはありますか」


 私は、館のバルコニーから引きずり出された子爵に、静かに問いました。


「だ、黙れ……! これは、聖王猊下より賜った神聖な務めだ! 私は、教会の意向に従ったまでのこと……! 罪に問われるべきは、私ではない!」


 子爵は、なおも「教会」の名を盾にしようとしました。

 けれど、その言葉こそが、領民たちの最後の堪忍袋を切ったのです。


「俺の娘を返せ!」「教会の名を出せば許されると思うな!」


 怒号が渦巻きます。

 私は、震える子爵を見下ろしました。かつて、私を「ゴミ」と見下した人々と、同じ目の高さで。


「あなたが従ったのは、教会ではなく、自分の保身です。……自分の手は汚さず、弱い者を差し出して、繁栄だけを享受した。その罪からは、もう誰も――聖王猊下でさえ、あなたを守ってはくれません」


 その時でした。


 館の上空に、太陽の紋章を掲げた一羽の使い鳥が舞い降り、一通の書状を子爵の足元に落としました。

 震える手でそれを開いた子爵の顔が、みるみる絶望に染まっていきます。


「そ、そんな……っ。『祭壇を失いし無能の管理者を、教会はもはや庇護せず。即刻、爵位を返上せよ』……? 私を……切り捨てるというのか!? あれほど忠実に尽くしてきた、この私を……!」


 皮肉なことでした。

 弱い者を「必要な犠牲」と切り捨ててきた男が、用済みになった途端、まったく同じ言葉で切り捨てられる。


「……それが、あなたの仕えた『神』の正体ですわ」


 私は、静かに告げました。


「人を道具としか見ない者は、いつか自分も、道具として捨てられる。……どうか、これからは、あなたが踏みにじってきた人々と同じ目の高さで、生き直してください」


 魔力の暴走を封じられ、爵位を失ったドレイクは、もはやただの一人の男でした。

 領民たちは、彼に石を投げることはしませんでした。ただ、汚物を見るように背を向け、解放された家族の元へと駆けていく。それが、何よりの断罪でした。


 ◇◇◇


 ソルレイ領には、本物の春が訪れました。


 祭壇の跡に生まれた「調和の泉」は、奪うのではなく、土地と人々に魔力を巡らせます。

 不自然な黄金の麦は消えましたが、代わりに、自分たちの手で育てる、慎ましくも確かな緑が芽吹き始めました。


「聖女様、シエル様……本当に、ありがとうございました」


 見習い神官のリオが、深く頭を下げました。その瞳には、もう怯えはありません。


「わたし、決めました。教会に戻って、内側から変えていきます。……まだ、聖王猊下の教えを盲信している、わたしのような末端の神官は、たくさんいる。あの祭壇が『奇跡』なんかじゃないと、伝えていきたいんです」


「……ええ。あなたなら、きっとできますわ、リオさん」


 頼もしい協力者の誕生でした。けれど、私はふと、右腕に走った微かな痛みに、息を呑みました。


 ズキリ、と。

 血の盟約の紋章が、熱を持って疼いたのです。


「……エルシア」


 すぐにカイルム様が、私の腰を支えてくれました。


「大丈夫か。……祭壇の解放で、力を使いすぎたな」


「いいえ……。これは、紋章が。……祭壇の魔力を解いた反動で、呪いが少し、揺れたみたいです」


 私は、笑顔を作りました。けれど、わかっていました。

 各地の祭壇を解放するほど、世界の調和は戻る。けれどその度に、カイルム様と私を蝕む「血の盟約」もまた、刺激されるのだということを。

 この呪いの根を断つ術を、私たちはまだ、知らないのです。


 そして、その夜。


 遥か南、白亜の聖都の大聖堂で、一人の枢機卿が、苦々しげに報告書を握りつぶしていました。


「……ソルレイの祭壇が、解放された、だと。生贄なしで、土地に調和を……。馬鹿な。それでは、我ら教会の祭壇など、不要になってしまうではないか」


 その瞳に、昏い焔が灯ります。


「聖王猊下。……北の『調和の聖女』、もはや見過ごせませぬ。千年前と同じく――『異端』として、正式に狩る許可を」


 太陽を象った聖堂の窓に、不吉な影が、長く伸びていきました。


ソルレイ編、ひとまずの決着ですわ!


「教会の名を盾にした子爵が、その教会に用済みとして切り捨てられる」――

人を道具として切り捨ててきた者が、まったく同じ言葉で切り捨てられる皮肉。

これぞ、エルシア様の言う「いつか自分も道具として捨てられる」の体現ですわね。


そして、解放された領に訪れた本物の春。見習い神官リオの決意。

……一つの祭壇を解放するたび、希望は広がります。


ですが、その裏で二つの影が。

一つは、祭壇を解くたびに疼く「血の盟約」の呪い(軸B)。

もう一つは、ついに動き出した中央教会の「枢機卿」。

エルシア様は「異端」として、教会から正式に狙われることになります。


第二部の戦いは、ここからが本番。

もし、ソルレイ編に「スカッとした!」「続きが読みたい!」と思ってくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価で、応援を贈ってあげてくださいな。


次回、第65話「祭壇の残り火と、氷の破片に眠る記憶」でお会いしましょう。

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