表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/79

第63話:氷よ、祭壇を喰らえ。生贄なき春の奇跡

館の中庭。その井戸に偽装された隠し階段を、私たちは静かに降りていきました。


 地下へ続く闇は、不快なほど生暖かく、息が詰まるようでした。

 壁を伝うのは、王都で嗅いだあの匂い――命を燃やす、生贄の熱。


「……ここが、ソルレイの心臓部か」


 最奥の広間に出た瞬間、カイルム様が低く唸りました。


 そこにあったのは、黄金に輝く、小さな太陽の祭壇。

 王都の「大太陽の核」を、そのまま縮めたような造形。けれど、その美しい光の中心には――水晶の柱に閉じ込められた、痩せ細った人影がいくつも、浮かんでいたのです。


「……これが、消えた領民たち」


 奉納された人々は、死んでいるのではありませんでした。

 生かされたまま、魔力だけを永遠に搾り取られ続けている。意識のない顔に、薄く涙の痕だけが残っています。


「ひどい……。こんなの、あんまりです……っ」


 シエルが両手で口を覆い、ぼろぼろと涙をこぼしました。

 かつて砂漠の地下で「氷の電池」にされていた妹には、この光景が、他人事ではないのです。


「これはこれは。せっかくの祭壇に、ようこそ。聖女様」


 広間の奥から、ねっとりとした声が響きました。

 ドレイク・ソルレイ子爵。数人の私兵と、太陽の杖を掲げた神官を従えて、勝ち誇った顔で立っています。


「お気づきになられましたか。ええ、これが我がソルレイの繁栄の源。……何、たかが年に十二人。領全体が飢えずに済むのです。これは『必要な犠牲』というものですよ」


「必要な、犠牲」


 私は、静かに繰り返しました。


「……あなたは、その十二人の中に、自分の名が入る覚悟があって、そう言っているのですか?」


 子爵の笑みが、固まりました。


「ないのでしょう。自分は安全な場所にいて、弱い者を『必要な犠牲』と呼ぶ。……王都の人たちも、同じ顔をしていました。私を『不浄』と呼んで、屋根裏に捨てた時に」


 私は一歩、祭壇へと踏み出しました。


「もう、たくさん。――この祭壇は、今日で終わりです」


「おのれ、異端の魔女が……! やれ、聖女を捕らえろ! 神聖な祭壇を穢させるな!」


 子爵が喚き、神官が太陽の杖を構えました。私兵が剣を抜き、殺到してきます。


「――触れさせると思うか」


 その瞬間、広間の温度が、奈落の底まで落ちました。

 カイルム様の漆黒の魔気が渦を巻き、私兵たちの足を、瞬く間に氷漬けにしていきます。


「私の妻が祈っている。……貴様らは、そこで凍ったまま見ていろ。本物の『調和』というものをな」


 カイルム様が、背中で私を守ってくれている。

 その熱を感じながら、私は祭壇に両手をかざしました。


「シエル。手を貸してくれる?」


「……はい、おねえさま!」


 姉妹で繋いだ手から、二色の氷の光が溢れ出します。

 私の「調和の白氷」が、奪う祭壇の理を解きほぐし。

 シエルの「純氷」が、囚われた人々の魔力を、優しく彼らの元へ還していく。


 けれど、それは派手な閃光ではありませんでした。

 まるで、固く凍てついた大地に、春の雪解け水がゆっくりと染み込んでいくように。

 黄金の祭壇の熱が、一滴ずつ、清らかな冷気へとほどけていきます。


「……あ。……あたたかい……」


 水晶の柱が、静かに溶けました。

 囚われていた領民たちが、一人、また一人と、私とシエルの腕の中に、そっと降りてきます。意識を取り戻した彼らの頬に、今度はあたたかな涙が伝いました。


 祭壇は、もう人を喰らいません。

 その中心には、奪うのではなく巡らせる、小さな「調和の泉」が残されました。


「ば、馬鹿な……っ。生贄なしで、土地に魔力を……そんなこと、できるはずが……!」


「できますわ」


 私は、腕の中の幼い少女を抱きしめたまま、ドレイク子爵を振り返りました。


「奪うのではなく、分け合う。それが、本当の豊かさです。……あなたが、ずっと目を逸らしてきたものですよ」


 地下広間に、囚われていた人々のすすり泣きと、そして、かすかな春の風の匂いが満ちていきました。


第二部、最初の山場――祭壇との対決ですわ!


「たかが年に十二人。必要な犠牲だ」と言い放つドレイク子爵に、

「その中に自分の名が入る覚悟はあるのか」と返すエルシア様。

痛みを知る者だからこそ言える、この一言……痺れますわね。


そして、姉妹で繋いだ手による「生贄なき祭壇の解放」。

派手な無双ではなく、雪解けのように静かな奇跡として描いてみました。

救われた領民の「あたたかい」という一言に、私も涙してしまいましたわ。


ですが、自らの繁栄の源を壊された子爵が、このまま黙っているはずもなく……。

そして、この「祭壇の解放」は、より大きな影の耳にも、必ず届きます。


もし、エルシア様とシエルの奇跡に「最高!」と思ってくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価で、姉妹に祝福を贈ってあげてくださいな。


次回、第64話「断罪。教会に切り捨てられる偽りの領主」でお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ