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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第59話:氷の聖女の反逆。「あなたの愛は、そんなに軽いのですか」

王都の使者たちが逃げ去ってから、城には再び静かな雪の夜が戻ってきました。

 けれど、私たちの寝室に満ちている空気は、どこかちぐはぐで、重苦しいものでした。


 カイルム様は、暖炉の前で背を向けたまま、無言で揺れる炎を見つめています。

 先ほど、広間で私を力強く抱きしめ、「君は私の共犯者だ」と世界中に宣言してくれたあの熱はどこへ行ったのか。彼の広い背中からは、私を遠ざけようとする目に見えない壁のようなものが感じられました。


「……カイルム様。お茶が入りましたわ」


 私がカモミールの香るティーカップをテーブルに置いても、彼は振り返りませんでした。


「……ああ。ありがとう、エルシア。だが、私は後でいい。君は先に休むといい」


 低い、硬い声。

 私の胸の奥で、チクリと小さな痛みが走りました。

 王都にいた頃なら、「私が何か粗相をしてしまったのだ」と怯え、言われるがままにベッドの隅で小さくなっていたでしょう。嫌われないように、息を潜めて。

 でも、今の私は知っています。彼のこの不自然な冷たさが、私を嫌っているからではなく、私を「守る」ための不器用な盾なのだということを。


「……あの使者の最後の言葉が、気になっているのですね。私の母が、北へ逃げた本当の理由……」


「……聞く必要はない。あれは奴らの戯言だ」


 カイルム様が、暖炉の縁を握る手にぐっと力を込めました。バキッ、と大理石に小さなひびが入ります。


「だが……万が一、王都に君を脅かすような『呪い』が残っているのだとすれば、話は別だ。……エルシア。君は明日、シエルと共にノースウォールの最も奥にある離宮へ移りなさい。あそこなら、何者も近付けない」


「離宮へ? ……カイルム様はどうなさるのです?」


「私は王都へ向かう。……君の過去に巣食うすべての闇を、この手で灰にしてから迎えに行く。それまでは、決して離宮から出るな」


 振り返ったカイルム様の灰色の瞳は、悲壮な決意に満ちていました。

 私を安全な場所に隠し、自分一人で泥を被り、血を流して戦うつもりなのです。私が傷つくくらいなら、自分が何度でも地獄へ落ちるという、狂おしいほどの自己犠牲。


 ――プツン。


 私の中で、何かが弾ける音がしました。


「……馬鹿にしないでくださいませ」


「エルシア……?」


 私が低く冷たい声を発したことに驚いたのか、カイルム様が目を瞬かせました。

 私は彼に歩み寄り、その大きな胸板を、両手でドンッ! と強く押しのけました。


「ば、馬鹿に……? 私は、君の安全を第一に考えて――」


「それが馬鹿にしていると言っているのです! ……私の右腕を見てください、カイルム様!」


 私は袖を捲り上げ、彼の『血の盟約』の紋章が刻まれた右腕を、彼の目の前に突きつけました。

 紋章は、私の怒りと悲しみに呼応して、かつてないほど熱く、赤黒く脈打っています。


「貴方は言いましたよね。私が貴方の『死神の熱』を半分引き受けた時、私を『唯一無二の共犯者』だと。……それなのに、貴方はまた私を『守られるだけのか弱いお姫様』に戻そうとするのですか!?」


「違う! 私はただ、君を汚れた過去に触れさせたくないだけで……っ!」


「私の過去です! 私の母の過去です! それを、どうして貴方一人で背負おうとするのですか! 貴方の愛は、私を安全な箱に閉じ込めるだけの、そんなに軽いものだったのですか!」


 私の目から、ボロボロと大粒の涙が零れ落ちました。

 哀しいわけではありません。悔しかったのです。彼がまだ、私と一緒に傷つくことを恐れていることが。


「……ッ!」


 私の涙を見た瞬間、カイルム様の顔からスッと血の気が引きました。

 彼にとって、私の涙は何よりも恐ろしい凶器です。彼は慌てて手を伸ばし、私の涙を拭おうとしました。


「すまない、エルシア、泣かないでくれ。私が悪かった、だから……」


「触らないでください!」


 私は彼の手をパチンと弾き、そのまま彼を暖炉の横の壁へと押し込みました。

 そして、私の右腕の紋章を、彼の心臓の真上――彼自身の紋章がある場所に、ぴったりと押し当てたのです。


 ――ドクン、ドクン。


 二つの紋章が重なり合い、私たちの魔力と体温が、壁を取り払って直接流れ込んできます。

 彼の深い後悔。私への底なしの愛。そして、私を失うかもしれないという凍りつくような恐怖。

 私の怒り。彼を一人にしたくないという執着。そして、彼と共に歩みたいという覚悟。


「……感じますか、カイルム様。これが私の心です。……私はもう、貴方の背中に隠れて震えているだけの娘ではありません」


 私は背伸びをして、壁に背を預けているカイルム様の耳元に唇を寄せました。


「……いいですか、旦那様。私を置いて一人で死地に赴くなど、この私が絶対に許しません。……貴方の地獄には私がついていく。私の地獄には貴方がついてくる。……それが『共犯者』でしょう?」


 カイルム様は、大きく目を見開いたまま、私の言葉に完全に圧倒されていました。

 やがて、彼はふっと、降参したように息を吐き、そのまま崩れ落ちるように私をきつく、痛いくらいに抱きしめました。


「……あぁ……。勝てないな。君には、絶対に敵わない……」


 彼の大きな手が、私の白銀の髪を梳き、私の背中を何度も撫でます。

 その抱擁には、先ほどまでの「盾」としての硬さはなく、私という「光」に縋り付くような、無防備で熱い体温だけがありました。


「……怒った君も、たまらなく美しい。……私が愚かだった、エルシア。君を侮るような真似をして、本当にすまない。……どうか、私を見捨てないでくれ」


「ふふ、見捨てるわけがありませんわ。私の可愛い旦那様」


 私は彼の広い背中に腕を回し、その不器用な愛をたっぷりと甘やかすように抱きしめ返しました。


 しばらくの静寂の後。

 落ち着きを取り戻したカイルム様が、私を抱きしめたまま、重い口を開きました。


「……話そう。君の母親、イザベラ殿がこのノースウォールに辿り着いた、あの吹雪の夜の真実を。……彼女は、ただ追放されたのではない。王都が――いや、その奥の教会が企てていた『恐るべき儀式』から、君という命を守るために……逃げてきたのだ」


 暖炉の火が、パチリとはぜました。

 二人の間に隠し事はもうありません。私たちは手を繋いだまま、本当の意味での「過去との決着」に向き合おうとしていました。


「……貴方の愛は、そんなに軽いのですか!」

エルシア様の怒り、そしてカイルム閣下への逆壁ドン……!

なろう読者の皆様、いかがでしたでしょうか。

ただ守られるだけではなく、愛するがゆえにヒーローの「不器用な自己犠牲」を叱り飛ばす。

これこそが、自己再生を果たした令嬢の、真の強さと美しさですわね。


閣下がエルシア様の涙に狼狽え、最終的に「勝てないな」と白旗を上げる姿は、

まさに「最強の男が愛する女にだけ見せる絶対服従」の極致。

このギャップと、その後の甘い抱擁こそ、私たちが求めていた多幸感ですわ。


不必要なすれ違いは一話で解決!

「一人で抱え込むヒーロー」を許さない、当連載のルールでございます。


さて、完全に心が一つになった二人の前で、ついに閣下が語り始めます。

母イザベラ様が命を懸けてエルシア様を逃がした「王都の儀式」とは?

物語は、因縁の王都ルミエールとの最終決着へ向けて動き出します。


もし、エルシア様の強さと閣下のデレデレっぷりに「最高!」と思ってくださったなら……

ぜひ【ブックマーク】の継続と、下の【☆☆☆☆☆】の評価で、

最強の夫婦となった二人に「祝福の拍手」を贈ってあげてくださいな。


皆様の評価が、エルシア様の魔法をさらに輝かせ、

王都の闇を打ち払う「真実の光」になりますわ。

次回、第60話「母の愛と、太陽の生贄。王都が隠した狂気」でお会いしましょう。

(※王都の「本当の罪」が暴かれますわよ!)

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