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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第58話:断絶の宣告。触れること叶わぬ至宝

「……返還、だと?」


 カイルム様が発したその一言で、城の広間の気温が物理的に数度下がりました。

 私の右腕を力強く、けれど壊れ物を扱うような繊細さで抱き寄せながら、彼は目の前に立つ王都の使者たちを、ゴミでも見るような冷徹な瞳で見下ろしています。


 王都から来たという高位魔導師は、金糸の刺繍が施された豪奢な法衣を揺らし、これ見よがしに杖を鳴らしました。その法衣の胸には、見覚えのある紋章――「太陽と天秤」。王都の上に立つ、中央教会のものです。


「左様です、辺境伯閣下。砂漠の地での奇跡、聖都にも届いております。不浄の血を引く娘かと思えば、まさか砂漠に雪を降らすほどの力を隠し持っていたとは。……あれは王国の、いえ、大陸の公共財とも言うべき至宝。野蛮な北の地に埋もれさせておくには、あまりに惜しい」


 魔導師は、私を人間としてではなく、まるで鑑定の済んだ一級品の美術品を見るような、下卑た称賛の視線を向けてきました。


「エルシア様、さあ。聖王猊下の御名のもとに、貴女を中央へお迎えに参りました。陛下も、聖王猊下も、貴女の不遇を哀れみ、大聖堂にて『聖女』として遇する準備を整えておいでです。……そのような、いつ暴発するか分からぬ死神の側にいては、貴女の清らかな魔力が濁ってしまいますわ」


 魔導師が私に向けて手を伸ばしました。

 かつての私なら、その「救い」のような体裁の言葉に、どう返していいか分からず俯いていたでしょう。私には価値がない。不浄なんだから、言われるがままにするしかない……。そう、内面の氷が自分を縛り付けていた。


 けれど。


 ドクン、と右腕の紋章が脈打ちました。

 そこから流れ込んでくるのは、カイルム様の静かな、けれど苛烈なまでの怒りと、私を絶対に離さないという「執着」の熱。


「……私の妻が、何だって?」


 カイルム様が一歩前に出た瞬間、広間に漆黒の魔気が渦巻きました。

 彼は私の肩を抱き、魔導師の手を物理的に跳ね除けるように、自身の「死神の熱」を障壁として展開したのです。


「至宝、公共財……。君をそんな言葉で定義し、再びその自由を奪おうとするのか。……聖王だろうが教会だろうが関係ない。笑わせるな、砂粒の分際で」


「閣下、これは聖王猊下の御意向ですぞ! 辺境の臣が、大陸の調和を左右する聖女を独占するなど、教会への反逆も同然――」


「反逆、結構だ」


 カイルム様の声は、地を這うような死神の宣告でした。

 彼は皆が見ている前で、私の右腕を恭しく持ち上げ、袖を捲り上げました。そこにある、まだ赤く生々しく輝く「血の盟約」の紋章。


「……見たか。彼女の腕に刻まれた、この熱を。……彼女は、私の『呪い』を半分引き受けた。……彼女は教会の聖女などではない。私と同じ深淵を歩む、私の唯一無二の共犯者だ。……これに触れられる者がいるなら、前に出ろ。その腕ごと、私が灰にしてやろう」


 魔導師たちの顔から血の気が引いていきました。

 聖女の純潔を重んじる教会において、呪い――それも、死神と恐れられる辺境伯の魔力をその身に宿すなど、彼らの教義では到底許されぬことなのです。


「……な、なんてことを……! 聖王猊下が望まれた清らかな力を、そんなおぞましい魔力で汚すとは……! この不浄の娘、やはり死神と惹かれ合う邪悪な――」


 ――キィィィィィィィン……!!


 言葉が終わるより先に、私の指先から白銀の閃光が放たれました。

 カイルム様の漆黒の魔気と混ざり合い、紫電となった氷の鎖が、魔導師の持つ杖を一瞬で凍てつかせ、粉々に砕いたのです。


「……汚れてなんていませんわ」


 私は、カイルム様の隣で、真っ直ぐに魔導師を見据えました。


「私は、この人の呪いごと、この人を愛しているのです。……私を『道具』として召し上げると仰るのなら、聖王にこうお伝えください。――調和の聖女は、二度と、誰かの祭壇には捧げられない、と」


 私の腕の紋章が、カイルム様の高揚した感情に呼応して、かつてないほど眩く発光しました。

 二人の魔力が、完璧な「調和」となって広場を制圧していく。


 魔導師たちは、あまりの圧力に膝をつき、歯をガチガチと鳴らして震えることしかできませんでした。

 聖王の権威など、この圧倒的な「二人だけの世界」の前では、羽虫の羽ばたきほどの影響力もありません。


「……行け。二度は言わん。……次に私の妻の名を汚れた口で呼んだ瞬間、王都も聖都も、永遠の冬の下へ沈めてやる」


 カイルム様の最後通牒に、使者たちは命からがら逃げ出していきました。


 静まり返った広間。

 ノースウォールの臣下たちが、畏怖と、そして深い感動の入り混じった瞳で私たちを見つめています。

 カイルム様は、彼らの視線など気にする様子もなく、私を正面から力いっぱい抱きしめました。


「……エルシア。……最高だ。……君が『私のために氷を使う』と言ってくれた瞬間、私の心臓は熱で溶けてしまうかと思ったぞ……」


「ふふ、本当にお熱いですわね、カイルム様」


 私は彼の胸に顔を埋め、その騒がしいほどの鼓動を、愛おしく聴いていました。


 けれど、逃げ去る魔導師が、門の影で最後に吐き捨てた言葉が、私の耳に残っていました。


『……せいぜい今のうちに愛し合うがいい、不浄の娘。……お前の母親が、何故この北の地に逃げたのか……その本当の理由を知れば、お前はその死神の腕の中にいることさえ、恐怖に変わるだろうよ……!』


 母、イザベラ様の、本当の亡命理由。


 カイルム様の温かな腕の中にいながら、私は微かな、予感のような寒気を感じていました。

 まだ、終わっていない。

 私たちの愛が、世界のすべての闇を照らすまで、この物語は止まらないのだと、心に誓い直したのでした。


「……私の妻が、何だって?」

カイルム閣下の、あの低く地を這うようなお声……!

「至宝」だの「公共財」だのとエルシア様を道具扱いする無礼な使者を、

その圧倒的な独占欲と威圧感で黙らせるお姿に、

執筆しながら私のペンも、興奮で少し震えてしまいましたわ。


お揃いの紋章を見せつけ、「彼女は私の共犯者だ」と言い切る閣下。

これこそが、なろう読者の皆様が求めていた「究極の愛の肯定」ですわね。

エルシア様も、自ら魔導師の杖を砕くという「強き聖女」への覚悟を見せてくださいました。

もう、王都にいた頃の怯える少女はどこにもおりません。


ですが、去り際の魔導師が遺した、お母様に関する不穏な言葉……。

イザベラ様が北領へ逃げたのは、単なる亡命ではなかったのでしょうか?

二人の幸せを揺るがすかもしれない「隠された真実」とは一体。


もし、閣下の「宣戦布告のような溺愛」と、エルシア様の凛とした反撃に

「最高にスカッとした!」と思ってくださったなら……

ぜひ【ブックマーク】の継続と、下の【☆☆☆☆☆】の評価で、

お二人の「運命の共犯者」としての歩みに、熱い応援を贈ってあげてくださいな。


皆様の評価が、エルシア様の紋章をさらに強く輝かせ、

闇を切り裂く「真実の光」になりますわ。

次回、第59話「氷の聖女の反逆。『あなたの愛は、そんなに軽いのですか』」でお会いしましょう。

(※閣下が、エルシア様を案ずるあまり、また一人で抱え込もうとする不器用な回になりますわよ!)

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