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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第55話:愛ゆえの拒絶。「私に触れるな」と彼は泣いた

「……はぁ、はぁ……っ! 来るな、エルシア……。下がれと、言っているだろう……っ!」


 寝室を埋め尽くすのは、呼吸すら困難なほどの暴力的な熱気。

 カイルム様を横たえたベッドの天蓋は既に黒く焦げ、贅沢な絹のシーツは、彼から溢れ出す漆黒の魔炎によって塵へと変わりつつありました。


 その中心で、カイルム様は血を吐くような声を上げ、私を必死に突き放そうとしていました。

 汗に濡れた前髪が額に張り付き、灰色の瞳からは、苦痛以上に深い「絶望」が零れ落ちています。


「嫌ですわ、閣下。……誰が何を言おうと、私は貴方の側を離れません!」


 私は、自身の白氷の魔力を全身に巡らせました。

 パキパキと音を立てて、私の足元から床が凍りつき、熱気に削られながらも氷の花を咲かせていきます。一歩踏み出すごとに、熱風が私の頬を掠め、チリリと髪が焦げる匂いがしました。


「馬鹿な……っ。火傷をする……君の美しい肌が……私の、忌々しい呪いで……っ!」


 カイルム様が、震える手でシーツを掴み、顔を背けました。

 その頬を、一筋の涙が伝うのを私は見逃しませんでした。


 無敵で、冷徹で、世界から『氷の死神』と恐れられたこの方が、泣いている。

 私というたった一人の女性を、自分の力で傷つけてしまうことを、死ぬよりも恐れて。


(……ああ。なんて愛おしい人)


 王都で「不浄」と罵られ、誰からも触れられないように生きてきた私。

 そんな私を初めて抱きしめ、「君は光だ」と言ってくれたのは、貴方でした。

 貴方が私を人間として、一人の女性として再生させてくれた。

 なら、今度は私が、貴方を「死神」という孤独な呪縛から救い出す番です。


「カイルム様。私を見てください」


 私はベッドの縁に膝をつき、燃え盛る漆黒の炎の中へと、躊躇いなくその手を差し入れました。


「止めろ……っ! あぁぁ!!」


 カイルム様が悲鳴のような声を上げました。

 私の指先が彼の胸板に触れた瞬間、ジ、と肉が焼けるような衝撃が走ります。

 熱い。けれど、それ以上に「悲しい」と感じました。

 この温度は、彼がこれまでたった一人で耐え抜いてきた、孤独そのものなのだと知ったから。


「……熱くなんてありませんわ。……だって、閣下はこんなに震えていらっしゃるもの」


 私はそのまま、彼の身体を正面から抱きしめました。


 カイルム様がビクリと硬直しました。

 私の腕の中で、彼の荒い動悸が、そして内側から彼を喰い破ろうとする業火が、私の氷の魔力と真っ向からぶつかり合います。


「離せ……。壊れてしまう……私のせいで、君という光が、煤けてしまう……」


「煤けたりしません。……私は、貴方のすべてを愛しているのですから。……私を信じて、カイルム様。貴方を救えるのは、貴方が愛してくれた、この不浄の氷だけなのです」


 私は彼の首筋に顔を埋め、全力の調和を注ぎ込みました。


 ――キィィィィィィィン……ッ!!


 耳を突き抜けるような高音が部屋に響き渡りました。

 私の白氷の魔力が、彼の漆黒の炎を力強く包み込み、ゆっくりとその色を「透明な蒼」へと変えていきます。


 拒絶していたカイルム様の腕から、ふっと力が抜けました。

 そして次の瞬間、彼は狂ったように私を抱き返してきたのです。

 私の背中に回された腕は、骨が軋むほど強く、けれど泣きじゃくる子供のように震えていました。


「……あぁ……エル、シア……。……すまない、すまない……。……行かないでくれ。……君がいない暗闇に、私を一人にしないでくれ……」


 先ほどまでの強気な拒絶はどこへ行ったのか。

 溢れ出したのは、彼の魂の底に沈んでいた、純粋で、重すぎるほどの執着。

 彼は私の肩に顔を埋め、何度も、何度も、私の名前を呼び続けました。


「ええ、ここにいます。ずっと、貴方の側に」


 私が彼の背中を優しく撫でていると、不思議なことが起こりました。

 カイルム様の体温が、私の魔力と完全に同調し始めたのです。


 視界が、白銀と漆黒の光に包まれていきます。

 意識が溶け出し、彼の記憶の深淵へと、私の魂が引き込まれていく感覚。


 不意に、目の前の景色がノースウォールの寝室から、一面の燃え盛る大地へと変わりました。


 そこは、幼い日のカイルム様が、たった一人で立ち尽くしている場所。

 彼の周りには、誰の姿もありません。

 ただ、彼を『死神』と呼び、忌み嫌う声だけが、火の粉のように舞っていました。


(……カイルム様? 待っていてくださいませ、今、私がそこへ行きますわ)


 私は、彼の過去という名の業火の中へ、迷わず一歩を踏み出しました。

 彼が私を救い出してくれたように。

 今度は、私が彼の魂の最深部で、その孤独な炎を優しく凍らせてあげるために。


「……君を傷つけてしまう。離れてくれ」

そんな閣下の悲痛な願いを、エルシア様は「最高の愛」で一蹴なさいました!

「熱くなんてありませんわ」と言い切って炎の中に飛び込むエルシア様の姿に、

読者の皆様も、かつてないほどのカタルシスと尊さを感じていただけたのではないでしょうか。


最強の死神として孤独を背負ってきたカイルム閣下が、

初めて見せた「一人にしないでくれ」という本音。

エルシア様の腕の中で泣きじゃくる彼の姿は、

まさに、二人の魂が完全に一つになった瞬間の証明ですわね。


けれど、物語はさらなる深淵へ。

魔力が同調し、エルシア様は閣下の内面世界――

彼が「死神」と呼ばれるきっかけとなった、あの日の記憶へとダイブします。


もし、閣下の脆い本音と、エルシア様の凛とした愛情に「最高!」と思ってくださったなら……

ぜひ【ブックマーク】の継続と、下の【☆☆☆☆☆】の評価で、

閣下の過去を救いに行くエルシア様に「真実の愛の輝き」を贈ってあげてくださいな。


皆様の評価が、エルシア様の氷をさらに清らかに、

閣下の過去の業火を鎮める「救済の吹雪」になりますわ。

次回、第56話「精神世界への口づけ。燃え盛る過去へ、私が迎えに行きます」でお会いしましょう。

(※閣下の幼少期の悲劇、そしてエルシア様のさらなる無双が始まりますわよ!)

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