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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第53話:母の遺産と砂の下の楽園。青い小瓶の導き

「……この奥に、あるの。おかあさまが、わたしに託した『おまもり』が」


 シエルちゃんの小さな手を引きながら、私たちはサバナ王宮のさらに奥深く、天然の地下洞窟へと足を踏み入れていました。

 カイルム様が先頭を歩き、その手から放たれる青白い魔炎が、ランタンの代わりに周囲を優しく照らし出しています。


「足元が滑る。エルシア、私から離れるなよ」


 カイルム様が振り返り、空いた手で私の腰をしっかりと抱き寄せました。

 洞窟の空気はひんやりとしていましたが、私に触れるカイルム様の体温は、いつものように火傷しそうなほど熱く、頼もしいものでした。


「ありがとうございます、カイルム様。でも、少しお身体が熱すぎませんか? 砂漠での戦いから、ずっと魔力を使い通しでしたし……」


「……問題ない。君とこの子を守るためなら、私の魔力などいくらでも絞り出してやる」


 カイルム様はそう言って、私の額に軽く唇を落としました。

 その甘やかな愛撫に胸を撫で下ろしつつも、彼の瞳の奥に、ほんのわずかな疲労の色が滲んでいるのを、私は見逃しませんでした。


 やがて、洞窟は開けた広間へと繋がりました。

 かつて地下水脈があったと思われる、すり鉢状の巨大な空洞。

 その中央に、決して溶けない透明な氷の台座があり、その上にポツンと、手のひらサイズの『青い小瓶』が置かれていたのです。


「あれだわ……! シエルちゃん、あれが貴女の言っていたものね」


「うん……。でも、わたし一人じゃ、あけられなかったの」


 私たちは台座に近づき、二人でそっと、その青い小瓶に手を触れました。

 その瞬間。

 小瓶の中から、眩い白銀の光が溢れ出し、空中に一人の女性の姿を形作りました。


『――よくここまで辿り着きましたね。私の愛する娘たち』


「お母、様……!」

「おかあ、さま……っ」


 ノースウォールの塔で見たのと同じ、母イザベラ様の優しく、気高い幻影でした。

 母様は、涙を浮かべるシエルちゃんに、ふわりと微笑みかけました。


『シエル。あなたをこの地に残したこと、ずっと一人で戦わせてしまったこと、本当にごめんなさい。……あなたの強い氷の力は、いずれ砂漠の熱と調和し、この国を緑豊かな楽園に変えるはずでした。サバナの王家が、あなたを聖女として大切に育ててくれると、そう信じていたのです』


 母様の言葉に、私は息を呑みました。

 母様はシエルちゃんを捨てたわけではなかった。この過酷な砂漠を救う「希望の種」として、彼女の未来を王家に託していたのです。

 アハメド王子たちがその力を恐れ、ただの「電池」として地下に封印したことなど、知らずに。


『でも、もしサバナがあなたを拒み、あなたが孤独に凍える日が来てしまったなら……その時は、私のもう一人の娘、エルシアが必ず迎えに来てくれるよう、この小瓶に導きの魔法をかけておきました』


 母様の幻影が、私とシエルちゃんを、同時に抱きしめるように腕を広げました。


『エルシアの「調和」と、シエルの「純氷」。……二人の力が合わされば、この小瓶に詰めた生命の種が芽吹きます。……さあ、愛する娘たち。二人で、この砂漠に真実の楽園を創りなさい』


 幻影が光の粒子となって消えゆく中。

 私とシエルちゃんは顔を見合わせ、頷き合いました。

 二人で、というその言葉が、私にはたまらなく嬉しかったのです。一人で背負う力ではなく、姉妹で分け合う力。それは、母様がくれた何よりの贈り物でした。


「……シエルちゃん。一緒に、お母様の願いを叶えましょう」


「うんっ……おねえさま!」


 私たちが小瓶の蓋を開けた瞬間。

 中に込められていた途方もない魔力が、大波となって洞窟中に広がりました。


 ――キィィィィィィィン……ッ!


 それは、世界で一番美しい産声のようでした。

 干上がっていた岩肌から清らかな水が溢れ出し、水面に張った薄氷を突き破って、光り輝く「瑠璃色の花々」が一斉に咲き乱れたのです。

 砂漠の地下に生まれた、氷と花が共存する、永遠に枯れない大オアシス。


「……見事だ。……エルシア、君という女性は、どこまで私を驚かせれば気が済むのだ」


 カイルム様が、感嘆の吐息を漏らしました。

 彼は歩み寄り、花々に囲まれて微笑み合う私たち姉妹を、まとめてその大きな腕で抱きしめました。


「私の誇りだ。……さあ、帰ろう。私たちの家、ノースウォールへ」


 カイルム様の言葉に、私とシエルちゃんは満面の笑みで頷きました。

 過去の呪縛はすべて解け、私たちには、帰るべき温かい場所がある。

 世界で一番幸せな結末が、私たちを待っている……はずでした。


 ――ガクッ。


「……カイルム、様?」


 突然、私を抱きしめていたカイルム様の腕から力が抜け、彼の大きな身体が、崩れ落ちるように私へと寄りかかりました。


「カイルム様!? どうされたのですか!」


 彼を支えようと背中に腕を回した瞬間、私は悲鳴を上げそうになりました。

 熱い。

 いつも私を心地よく温めてくれる体温とは違う、肌を焼き焦がすような、暴力的なほどの高熱。


「……くっ、ああぁ……っ」


 カイルム様が苦悶の声を漏らし、床に膝をつきました。

 彼の首筋には、見たこともない赤黒い痣が浮かび上がり、そこから禍々しい熱気が噴き出しています。


「いや……だめだ、エルシア……。私から、離れろ……っ!」


 カイルム様は、私を突き飛ばすようにして距離を取りました。

 彼から溢れ出した漆黒の炎が、咲いたばかりの氷の花を、瞬く間に蒸発させていきます。


「離れろと、言っている……! 今の私は、制御が、効かない……。君を、灰にしてしまう……っ!」


 苦し気に顔を歪めながらも、彼は自分の痛みよりも、私を傷つけることを恐れて、必死に炎を抑え込もうとしていました。


 砂漠での戦い、アハメドの呪いの炎の捕食、そして、私とシエルちゃんを太陽の熱から守り続けたこと。

 無敵だと思っていた彼の「死神の熱」は、愛する者を守るために限界を超え、今、彼自身の命を喰い破ろうとしていたのです。


「……離れません!」


 私は、彼の炎が自分のドレスを焦がすのも構わず、燃え盛る彼の中へと飛び込み、その首に強く抱きつきました。


「エルシア!? 馬鹿な、火傷をするぞ!」


「火傷くらい、なんだと言うのですか! 貴方はいつも、私の冷たい心を温めてくれた。私がどんなに拒絶しても、絶対に離してくれなかった! ……なら、今度は私が、貴方を冷やし、癒やす番です!」


 私は、内なる「白氷」の魔力を全開にし、彼を焦がす業火を必死に包み込みました。


 守られるだけの令嬢は、もう王都に置いてきました。

 私は、カイルム・ド・ノースウォールの妻。この世界でたった一人、彼の業火を抱きしめることができる、調和の聖女なのだから。


「……離れろと、言っている……! 君を、灰にしてしまう……っ!」

ああ……カイルム閣下!

自分が苦しみの底にいるというのに、それでもエルシア様を傷つけまいと突き放す。

その不器用で、どうしようもないほどの愛の深さに、執筆しながら涙が止まりませんでした。


母イザベラ様が遺した真実によって、砂漠の地は楽園へと変わりました。

けれど、エルシア様を完璧に守り抜いた代償として、閣下の「呪い」が牙を剥きます。

無敵のヒーローが倒れる……これは、溺愛の終わりの危機ではありません。

エルシア様が、真の意味で「カイルム閣下のヒーロー」になるための、愛の試練なのです!


もし、閣下の痛切な愛と、炎に飛び込むエルシア様の覚悟に胸を打たれたなら……

どうか、どうか【ブックマーク】の継続と、下の【☆☆☆☆☆】の評価で、

業火に焼かれる閣下を救うための「癒やしの氷」を贈ってあげてくださいませ!


皆様の評価が、エルシア様の愛をさらに強くし、

閣下の呪いを打ち破る「奇跡の力」になりますわ。

次回から、いよいよ第四部『死神の業火と、白銀の聖女編』が開幕いたします。

第54話「帰還のノースウォール。出迎える笑顔と、隠された熱」でお会いしましょう。

(※今度はエルシア様が、閣下を徹底的に甘やかして救う番ですわよ!)

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