表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/48

第37話:溶けない雪の謎。精霊たちの囁き

「……エルシア、下がるんだ。それに触れてはいけない」


 背後からカイルム様の鋭い制止の声が響きましたが、私の指先は、吸い寄せられるようにその青い光へと伸びていました。


 中庭の雪原に突如として咲いた、水晶のような氷の華。

 それはノースウォールの厳しい寒ささえも拒絶するように、周囲の空気を異常なまでに凍てつかせています。普通の人ならば、近づくだけで指先が壊死してしまうような絶対零度。


 けれど、私には分かっていました。

 この華は、誰かを傷つけようとしているのではない。

 ただ、凍えそうなほどに「寂しい」のだと。


 キィィィィン……。


 鈴を振るような高い音が、私の鼓動を揺らします。

 カイルム様の大きな掌が私の肩を強く掴み、引き寄せようとしたその瞬間――私は、指先でその透明な花弁に触れました。


「エルシア!」


 カイルム様の悲鳴に近い叫び。

 しかし、予想された激痛も、凍傷も訪れません。

 華に触れた私の指先から、白氷の魔力がさらさらと溶け込み……次の瞬間、荒れ狂っていた冷気の渦が、ふっと凪いだのです。


「……暖かい。カイルム様、見てください。この子は、ただ待っていたのです」


 私が囁くと、鋭かった花弁は柔らかく綻び、そこから青い光の蝶たちが舞い上がりました。

 蝶たちは私の周りを愛おしげに一周すると、カイルム様の漆黒のマントに触れ、彼が宿す「死神の熱」を優しく吸い取っていきます。


「……私の熱を、抑えたのか? この氷の華が……?」


 カイルム様が目を見開きました。

 いつもなら彼の衣服をじりじりと焦がし、周囲の雪をドロドロに溶かしてしまうはずの魔気が、今は驚くほど穏やかに、彼の身体の内側で静まっているのです。


「氷の精霊王の使い……。魔導書に書かれていたことは、真実だったのですね」


 私は、蝶が消えた後に残った「氷の種」をそっと拾い上げました。

 それは私の体温を吸って、淡い桃色に染まっています。


「王都では、氷は命を奪い、太陽こそが全てでした。……けれど、ここでは氷があなたの熱を鎮め、調和をもたらしてくれる。……カイルム様、やはり私は行かなければなりません。この力の意味を知るために」


 カイルム様は、私の手にある小さな種をじっと見つめていました。

 そして、たまらなくなったように私を抱き寄せ、その広い胸の中に私を閉じ込めたのです。


「……ああ、分かっている。……だが、認めがたいな。君を救えるのが私だけではなく、この世界の精霊だという事実は。……私は、君が誰かに呼ばれるたびに、心が千々に乱れるのだ」


 カイルム様の腕に、ぐいと力がこもります。

 彼の首筋に顔を埋めると、そこには私への執着に満ちた、熱い熱い動悸が伝わってきました。


「……嫉妬、していらっしゃるのですか? 精霊さんに」


「……笑うな。私は正気だ。……君の指先一触れも、その慈愛に満ちた瞳も、本来なら私だけが独占すべきもの。……精霊王などという得体の知れない存在に、君の心を一欠片でも奪われるのは耐え難い」


 そう言って、カイルム様は私の耳朶を甘く噛みました。

 その少しだけ強引な独占欲の示し方が、不安だった私の心を、甘やかな幸福感で満たしてくれます。


「……どこまでも、一緒に行きましょう。私の騎士様。……私を、離さないでくださいね」


「……二度と言わせるな。死が二人を分かつまで……いや、死んだ後も、君の魂は私のものだ」


 ◇◇◇


 数刻後。

 ノースウォール城の重厚な城門が、重々しい音を立てて開かれました。


 カイルム様の騎乗する巨大な黒馬の背に、私は共に跨っています。

 私たちの後ろには、氷の刺繍を施したマントを翻すノースウォール精鋭騎士団。

 領民たちが祈るように見守る中、私たちは、地図にも記されていない永久凍土の境界線へと踏み出しました。


 城門を出た瞬間、風の冷たさが一段と増しました。

 それは肌を刺すような寒さではなく、魂の奥まで見透かされるような、神聖な静寂を伴う風。


「……カイルム様、大丈夫ですか?」


 ふと、私を抱く彼の腕が微かに震えたような気がして、私は顔を上げました。


「……問題ない。……ただ、少しだけ『静か』すぎる。……私の内側の熱が、外の冷気に吸い出されるような……妙な感覚だ」


 カイルム様の灰色の瞳に、一瞬だけ、苦痛に似た影が差しました。

 

 熱を欲する世界と、熱を拒絶する精霊の地。

 相反する二つの力がぶつかり合う冒険の始まり。

 

 カイルム様の肩に置いた私の手に、力を込めます。

 私の氷が、彼の熱を守り抜かなければならない――。

 その決意を新たにするように、私は彼のマントに顔を寄せ、その力強い体温を深く吸い込んだのでした。

「……死んだ後も、君の魂は私のものだ」

カイルム閣下の、なんと激しく、そして救いようのないほど一途な誓い……!

精霊にさえ嫉妬し、エルシア様のすべてを独占しようとするそのお姿に、

読者の皆様も「キャッ!」と声を上げてしまわれたのではないでしょうか。


ついに城門を出て、未知の永久凍土へと進軍を始めた二人。

ですが、外界の「神聖な冷気」が、閣下の熱を不安定にさせ始めているようです。

これまでは閣下がエルシア様を守ってきましたが、

これからはエルシア様が、その氷で閣下を「守る」番になるのかもしれませんわ。


さて、雪原の向こうで二人を待つのは、救いか、それとも新たな試練か。

もし、二人の旅路を「無事でいて!」と応援してくださるなら、

ぜひ【ブックマーク】の継続と、下の【☆☆☆☆☆】をポチッと押して、

カイルム閣下の熱を安定させる「愛の加護」を贈ってあげてくださいな。


皆様の評価が、エルシア様の魔法をより強く、優しく研ぎ澄ませる力になります。

次回、第38話「母のペンダントが指し示す場所」でお会いしましょう。

(※物語の謎が、一つずつ紐解かれていきますわよ!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ