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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第38話:母のペンダントが指し示す場所

「……エルシア、もっと中へ。私のマントから、一分いちぶたりとも出るのではないぞ」


 カイルム様の低く、どこか切羽詰まった声が、激しい風の音に混じって届きました。

 私たちは今、ノースウォールの領民さえも恐れて近づかない、永久凍土の『第一境界』を越えたところです。


 城門を出た時はまだ見えていた空は、今や真っ白な吹雪に塗り潰されていました。

 それは単なる雪ではありません。魔力を、そして生きる者の「熱」を直接削り取っていくような、精霊の怒りにも似た拒絶の嵐。


 カイルム様が私を抱きしめる腕は、驚くほど強固でした。

 けれど、マント越しに伝わってくる彼の体温が、朝よりも心なしか低くなっていることに、私は気づいてしまったのです。


(……カイルム様。私を、守ろうとして……魔力を使いすぎているわ)


 彼が宿す「死神の熱」は、本来、周囲を焼き尽くすほどの暴力的なもの。

 けれど、この永久凍土の冷気は、その熱を「餌」にするかのように吸い取っていく。私を守るために盾となっているカイルム様は、今、自分自身の命の源を削りながら歩みを進めている。


「……カイルム様、もう大丈夫です。今度は、私があなたを温める番ですわ」


「何を、言っている……。君は黙って、私に抱かれていればいいんだ。……エルシア、私は、君を……」


 カイルム様の言葉が、激しい風に流されました。

 彼の頬が、かつてないほど蒼白になっています。

 騎士団の面々も、馬を止めて肩を震わせていました。彼らが羽織る氷の刺繍のマントでさえ、この異質な吹雪の前には限界を迎えようとしています。


 その時でした。

 私の胸元――王都から唯一持ち出すことを許された、母様の形見のペンダントが、心臓の鼓動に合わせてドクン、と熱く脈打ったのです。


(……母様? 私を、導いてくださるの……?)


 私が服の下からペンダントを取り出すと、それは吹雪の白を塗り替えるような、透き通った蒼金の光を放ち始めました。

 驚くべきことに、その光が触れた場所から、肌を刺すような寒風が、春の木漏れ日のような柔らかな温かさへと変わっていくのです。


「……っ、これは……!?」


 カイルム様が目を見開きました。

 私は彼の腕の中からゆっくりと身を乗り出し、高くペンダントを掲げました。


「――静まりなさい。私たちは、門を開きに来たのです。……精霊たちよ、道を。私たちの絆を、阻まないで」


 祈るように叫ぶと、ペンダントから溢れ出した光が、巨大なドーム状の壁となって騎士団全体を包み込みました。

 一瞬前までの地獄のような咆哮が消え、光の中には、穏やかで神聖な静寂が訪れます。


「温かい……。魔力が、戻ってくる……」

「助かったのか……? エルシア様、なんと神々しい光を……」


 騎士たちの間に、安堵と感銘の溜息が広がりました。

 彼らは一斉に私を見上げ、まるで本物の女神を見るような、深い敬意に満ちた眼差しを向けています。


 けれど、私の意識は、すぐ後ろにいる「たった一人」に向けられていました。


「……カイルム様。顔色が戻りましたわ。良かった……」


 私は馬上で振り返り、カイルム様の冷たくなっていた頬を両手で包み込みました。

 私の指先から、ペンダントの光と共に「白氷の魔力」が彼の身体へと流れ込みます。

 それは冷たい魔法のはずなのに、カイルム様にとっては、何よりも熱い活力となったようでした。


「……エルシア。君という人は……。……私は、また君に救われたのだな」


 カイルム様が、自嘲気味に、けれどこの上なく愛おしげに目を細めました。

 彼は私の手を取り、その掌に火傷しそうなほど熱い口づけを落とすと、そのまま私を後ろから強く、強く抱きしめ直しました。


「……情けない。夫として、君を守り抜くと誓ったというのに。……これでは、誰が主人か分からんな」


「ふふ、お互い様ですわ。……カイルム様が私をここまで連れてきてくださったから、私は光を灯せたのですもの。……二人で一つ、でしょう?」


「……ああ。……だが、今夜は覚悟しておけ。……君がこの手から離れてしまいそうなほど輝くたびに、私の独占欲は、もう理性では抑えきれなくなりそうだ」


 耳元で囁かれた閣下の低い声が、吹雪よりも熱く私の身体を震わせます。

 独占欲。その響きが、今の私には何よりの「安全基地」でした。


 ペンダントの光が指し示す方向――吹雪の壁がカーテンのように左右に開かれ、その先に、見たこともない光景が姿を現しました。


「……あ、あれは……?」


 吹雪が晴れたその先。

 そこには、クリスタルのように透き通った『氷の彫像』が数えきれないほど立ち並ぶ、静寂の森が広がっていました。

 そして、その森の入り口。

 一人の、透き通るような肌を持った「誰か」が、私たちをじっと見つめて立っていたのです。


「……カイルム様。あの方は……」


 母様のペンダントが、かつてないほど強く輝きました。

 そこには、これまでの因縁をすべて塗り替えるような、未知なる出会いが待っていました。

「……二人で一つ、でしょう?」

エルシア様のその一言が、カイルム閣下の心をどれほど救ったことか……!

守られるだけの存在から、愛する人を「光」で包む存在へ。

エルシア様の成長と、それに当てる閣下のさらなる独占欲……もう、胸がいっぱいですわね。


母様のペンダントが示した、氷の彫像が並ぶ神秘的な森。

そして、その入り口に佇む謎の人物。

精霊なのか、それとも母様の過去を知る者なのか……。


もし、エルシア様の「光」の無双っぷりに「かっこいい!」と思ってくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】の継続と、下の【☆☆☆☆☆】の評価で、

未知の森へ進む二人に「勇気の輝き」を贈ってあげてくださいな。


皆様の評価が、エルシア様のペンダントをさらに眩しく、

真実を照らす力へと変えてくれますわ。

次回、第39話「招かれざる客。隣国の『光の聖女』の来訪」……

いえ、物語が分岐いたします!

第39話「氷の森の番人。語られるイザベラの真実」でお会いしましょう。

(※母様の秘密が、ついに明らかになりますわよ!)

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