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氷の追放令嬢、死神辺境伯の熱に溶かされて幸せになります ~捨てられた聖女の調和魔法で、極北の地を宝石の都へ~  作者: 花菱エマ


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第31話:太陽の終焉。氷の聖女の裁き

王都ルミエールは、もはや「都」と呼べる姿ではなかった。


 石造りの建物は高熱で飴のように溶け落ち、街路樹は一瞬で炭と化して舞い上がる。その中心――王宮の玉座の間から放たれるのは、視神経を焼き切るような禍々しい「黒い陽炎」だった。


「……来、た……。エルシア……。やっと戻って……きてくれたね……」


 玉座の間に踏み込んだ私とカイルム様の前に立ちはだかったのは、かつての婚約者、リュシアン様だった。

 けれど、その姿はもはや人間ではない。皮膚はひび割れ、そこから溶岩のような魔力が溢れ出している。背後には、意識を失いながらも熱を供給させられ続けているベアトリスの姿があった。


「リュシアン、もうやめなさい。あなたの熱は、この国を救うためのものではない。ただの『破壊』に成り果てているわ」


 私は、カイルム様に守られながら一歩前に出た。

 足元はカイルム様の氷の魔力によって守られているけれど、周囲の空気は呼吸をするだけで肺が焼けるほどに熱い。


「うるさい! お前が悪いんだ……! 私を愛さず、あんな野蛮な男の隣で、あんなに美しく笑うから! ……私の太陽がお前を焼き尽くせば、お前は二度と私以外を見られなくなる……!」


 リュシアンが吼えると、巨大な火の鳥が具現化し、私たちを飲み込もうと襲いかかってきた。


「――無駄だと言ったはずだ」


 カイルム様が私の前に立ち、氷狼のマントを翻した。

 私が縫った「氷の刺繍」が青白く輝き、カイルム様の漆黒の魔力と混ざり合って、巨大な氷の盾を形成する。火の鳥は氷に触れた瞬間、蒸発することさえ許されず、彫刻のように凍りついて砕け散った。


「カイルム様、私に手を。……この男の絶望を、私が終わらせます」


「ああ。君の好きなようにしろ、エルシア。君が下す審判なら、私が地獄の果てまで見届けてやる」


 カイルム様が私の手を握り、彼の「命の熱」を私に分け与えてくれる。

 私は、母様の魔導書の最終秘奥――『絶対零度の静寂サイレント・エンド』を唱えた。


 私の指先から、真珠のような白い光が、波紋のように広がっていく。

 それは冷たいだけではない、すべてをあるべき姿に引き戻す、慈悲の光。


「あ……あああぁっ!? 私の加護が、私の熱が……奪われる……!?」


 リュシアンが絶叫する。

 彼の身体に纏わりついていた「太陽の核」の暴走が、私の光に触れた瞬間に急速に冷却され、石のように固まっていく。王宮を満たしていた地獄の熱気は、瞬く間に「春の朝」のような穏やかな温度へと書き換えられていった。


 パリン、と。

 ガラスが割れるような音がして、リュシアンとベアトリスの魔力が、その身体から完全に剥離し、私の氷の檻の中に閉じ込められた。


「……加護が、消えた……? 私の、王太子としての、力が……」


 魔力を失ったリュシアンは、ただの煤汚れた青年に戻り、地面に力なく膝をついた。

 ベアトリスもまた、かつての傲慢な光を失い、冷たくなった床の上で呆然と震えている。


「あなたたちは、この『熱』こそが、エルシアを蔑んでいい理由だと思っていたのでしょう?」


 カイルム様が、冷徹な視線で二人を見下ろした。


「……だが、皮肉なものだな。君たちがゴミと呼んで捨てた彼女の氷だけが、君たちの汚れた魂を、この火あぶりの地獄から救い出したのだ」


 リュシアンは、もはや言葉を返す力もなかった。

 自分たちが何を手放し、何を失ったのか。

 力も、権威も、そしてエルシアという名の「唯一の救い」も。すべてが指の間から零れ落ちたことを、彼らは一生、氷のように冷めた心で噛み締めて生きていくことになるのだ。


「……行きましょう、カイルム様。……私たちの帰る場所へ」


 私は、一度も振り返ることなく、カイルム様の腕に抱かれた。

 燃え盛る王都に、初めて雪が降り始めた。

 それは、古い王国の終焉と、新しい「調和」の始まりを告げる、静かな祝福の雪だった。

「……私たちの帰る場所へ」

王都の炎を鎮め、罪人たちの加護を奪うという、

最高に静かで苛烈な「断罪」。

エルシア様とカイルム閣下の完全勝利に、

皆様の心にも、爽快な雪が降り注いだのではないでしょうか。


リュシアンとベアトリスは、命こそ助かりましたが、

魔力という「自尊心の核」を失い、

これからは「ただの人間」として、自らが汚した地で生きていくことになります。

これこそが、命を奪うよりも残酷で、救いのある「ざまぁ」ですわね。


さて、第一部完結まであと3話。

次回、第32話「氷の都の戴冠式。世界で一番幸せな冬」では、

ノースウォールが真の聖域として生まれ変わる、輝かしい光景をお届けします。


もし、この大決戦の結末に「ブラボー!」と思ってくださったなら、

ぜひ【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価で、

エルシア様の新しい門出に、花吹雪を贈っていただけませんか?


皆様の応援が、彼女を真の女王へと押し上げる、

最後の一押しになります。

次回、喜びの鐘が鳴り響くノースウォールでお会いしましょう。

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